能登半島震災の復旧と万博延期の議論

能登半島震災からしばらくして万博延期論なるものがちらほら聞こえてきました。これを受け、経済団体からも声が出ていますが割れています。十倉経団連会長は日本国際博覧会協会会長でもありますが、予定通り開催を唱えています。日本商工会議所会頭で同協会副会長の小林氏も「万博も復興も同時に進めるべき」と述べています。一方、経済同友会の代表幹事でやはり同協会副会長の新浪氏は万博延期の可能性も示唆しています。

経済界でも考え方がばらつく中、今度は高市早苗大臣が復興優先すべきとして岸田総理に進言すると発言しました。ただ高市氏の意見はよくわからない部分があります。「万博を延期すべき理由として、復興に必要な資材の価格高騰や人手不足を挙げた。同時に『延期は難しいと思う』とも語ったという」(産経)とあり、いったい何を言いたいのかわからないというのが正直なところです。ちなみに自見英子万博相は万博の延期はないと早々に意見しています。

さて、この議論、国民に聞けば地域的な返答の偏りはあると思います。いわゆる世論調査のデータが上がってこないし、大々的にやっている世論調査専門会社もありません。なので毎週のように政権支持率はどこかの大手メディアが調査するもののこのような幅広い内容についての声を調べられないのは残念なことです。よって今日時点で世論が万博に対してどの程度賛成なのかわからないのです。ちなみに震災前である11月の時事通信の世論調査では賛成20%、反対56%、わからないが24%となっています。

私もこのブログでだいぶ前に「今更万博?」という意見は述べさせていただきました。こうみると25年の万博開催は一部の経済的メリットある方々と松井元日本維新の会代表による政治主導もあり「あの万博よ、もう一度」という発想が後押ししたと思います。私はその際、札幌五輪の開催を巡る議論でも「1972年の夢よ、もう一度だったのだろう」とコメントさせて頂きました。札幌はご承知の通り、当面五輪は禁句にしてゼロから再検討になっています。

しかし、大阪万博の場合は既に工事も始まっており、止められない事業である中、延期か予定通りの実施かの二者選択しかありません。この判断は東京五輪の判断に近いものがあると思いますが、結果論からすれば東京は1年延期でも十分ではなかったような気がします。満を持して今年、パリで予定されている五輪と交代してもらう方がよかったかもしれないという気もしています。

では大阪万博。今、延期を唱えている声の本音の理由がもう少し知りたいというのが正直なところです。万博と能登半島震災の復興は同次元なのか、というのが素直な疑問なのです。私は震災復興と万博は比べる尺度が違うと思うのです。それより能登半島については今、考えるべきはシンプルに元の形に戻す復興がよいのか、将来的リスクが高いので移住を含むプランされた復興にすべきかといったもっと大きな枠組みの議論を先にすべきなのですが、それをやる気配は全くないのです。これは落ち度だと思います。

東日本大震災の際、原発事故で福島の沿岸部にお住まいの方は移住を余儀なくさせられました。あの場合は選択肢がなく強制力を持ったものでした。では会津など福島内陸部に移住した方が今、また住めるようになった元の場所に戻っているかといえば極めて低い戻り率です。強制移住は住民に相当の精神負担があったと思いますが、「住めば都」であることと知り合いは必ずできる、だから寂しさは落ち着くものではないか、という仮説はもう少し分析すべきかと思います。

次に高市大臣の延期説ですが、資材高騰を理由にしていました。これ、回避する方法はあると思います。それは中国に住宅資材が捨てるほど余っているのでそれを買い付ければよい、それだけの話です。中国も震災復興で住宅問題が喫緊の課題なら、喜んで売ってくれるでしょう。資源価格は中国の需要動向がモノによっては全体の半分近くになるのです。ということは今起きていることは資材価格の国際価格が高いのではなく、円が弱いこと、これが大きな理由なのです。だから高く見えるだけの話です。高市さんはそこまで考えてほしいと思います。

高市早苗大臣 NHKより

万博については延期が可能かどうかは博覧会国際事務局との調整が必要です。オリンピックでいうIOCに近い協会であり、日本が勝手に延期できるものではないでしょう。下手すれば損害賠償という問題すら起きかねません。コロナによる五輪延期は世界の同調を得やすかったのですが、今回はそこまで理解が浸透するかわかりません。

ましてや資源高騰とか職人不足という理由に逃げていますが、実際は海外の施設の設計、計画、実施を伴う取りまとめが出来なかったという事務方の脆弱性が遅延の7割の理由であって延期論は日本の実力に疑義が生じてしまいます。

個人的には能登半島震災の復興と万博を絡める議論自体が不毛であり、双方がそれぞれに別々の問題含みなのです。にもかかわらず、万博に矛先を持ってくるという話そのものがこじつけでおかしいのではないかと感じます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年1月29日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。