「パレスチナ支援」再考の時を迎えた

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員の一部がパレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム過激テロ組織ハマスのイスラエル奇襲テロ事件に関与していた疑いが浮上、UNRWA支援国の中から「疑惑が解明するまでUNRWAへの支払いを一時停止する」と表明する加盟国が続出してきた。

UNRWAのフィリップ・ラザリーニ事務局長と中島洋一駐パレスチナ大使(2023年2月6日、UNRWA公式サイトから)

UNRWAのフィリップ・ラザリーニ事務局長とパレスチナ日本代表の中島洋一大使(2023年2月6日、UNRWA公式サイトから)

イスラエルが1948年に建国された際、70万人のパレスチナ人が難民となったが、彼らを救済するために、パレスチナ難民の支援目的に1949年に創設されたUNRWAはこれまでガザ地区、ヨルダン川西岸、ヨルダン、シリア、レバノンのパレスチナ人に人道支援を提供してきた。UNRWAの職員が昨年10月7日のハマスのテロに関与していたことが実証されれば、UNRWAは存続の危機に直面することが予想される。

ドイツ外務省は「UNRWA職員がハマスのイスラエル奇襲テロに関与」という情報を深刻に受け取り、「疑いが解明されるまで、わが国は当面これ以上の資金を支払うつもりはない。ドイツは他の援助国と連携し、ガザ地区のUNRWAへの新たな資金を一時的に承認しない」と表明した。ドイツは2023年、UNRWAに2億ユーロ以上を支援するなど、UNRWAの最大の支援国の一つだ。支援金はガザ区のパレスチナ人に水、食糧、衛生設備、医療品など基本的必要物質の資金調達に使用される。ドイツ外務省は「UNRWAへの新たな資金は提供しないが、人道支援は今後とも継続する」という(ドイツ週刊紙ツァイト=オンライン版)。

それに先立ち、米国務省は「UNRWAの12人の職員がハマスのテロに関与した疑いがある」と指摘、詳細が明らかになり、国連側が適切に対応するまでUNRWAへの新たな資金拠出を停止すると発表した。そのほか、カナダ、オーストラリア、英国、イタリア、フィンランドは同じようにUNRWAへの援助金支払い停止を表明している。

2020年からUNRWAのトップのラザリーニ事務局長は27日、「ハマスのイスラエル奇襲テロに関与した疑いのある12人の職員に対して契約を即解除し、解雇した」と説明、ハマスのテロ関与問題の調査に乗り出していることを明らかにした。同時に、「支援国の援助停止は組織の活動を危険にさらす。特に、ガザ区のパレスチナ人の人道的支援活動が困難になる」として、支援国の再考を促している。

同事務局長によると、「テロに関与した職員は刑事訴追を含む責任が問われる」という。ただし、国連側はテロに関与した職員がどのような活動をしていたのかについては言及していない。アントニオ・グテーレス事務総長は「事態は深刻だ」と懸念を表明している。

一方、イスラエルのカッツ外相はX(旧ツイッター)で、「UNRWA職員が1200人以上のイスラエル民間人を虐殺したテロ事件に関与していたことは深刻な問題だ」として、ラザリ―二事務局長の引責辞任を要求している。

(イスラエルは26日、UNRWAに「ガザ地区にいる数千人の同組織職員のうち12人が10月7日のハマスの虐殺に関与した」という情報を提供。それを受け、UNRWAは12人の職員を即解雇すると共に、調査を開始した)。

UNRWA職員のテロ関与問題について、ハマスは「パレスチナ人を支援する国際機関に対するイスラエルの中傷作戦だ」と指摘し、「イスラエルはパレスチナ人のライフラインをすべてカットしようとしている」と批判し、国連や他の国際機関に対して「イスラエルの脅迫に屈してはならない」と主張した。また、パレスチナ解放機構(PLO)のフセイン・アル・シェイク事務総長は、Xで「UNRWAへの資金提供停止は大きな政治的・人道的リスクをもたらす。UNRWAへの支援停止決定をただちに撤回すべきだ」と書いている。

難民救済を目的とした国連機関は現在、2つある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)だ。イスラエルが1948年に建国された際、70万人のパレスチナ人が難民となったが、彼らを救済するために、パレスチナ難民だけを対象としたUNRWAが1949年に創設された。パレスチナ難民は世界の難民の中でも一種の特権的な位置にあって、国連を含む世界から支援金を受けている。

ハマスが大規模なテロを行った直後、欧米諸国ではパレスチナ支援の停止を求める声が出ていた。UNRWAに1953年以来、積極的に支援してきた日本政府に対しても、「日本のパレスチナ人への支援金はハマスのテロを助けている」として、UNRWAへの支援を停止すべきだという声が聞かれた。日本はUNRWAに対し3320万米ドルを援助し、パレスチナ難民の教育、医療などを支援してきた。日本は2022年時点でUNRWAへの支援では6番目に多い拠出国だ。UNRWA職員がハマスのテロに関与したことが実証されれば、日本政府もUNRWAへの支援を停止するなど対策が急務となる。

重要な点は、国際社会からの難民救済資金でパレスチナ人の生活が向上し、教育、国民経済が発展したかだ。現実は、ハマスはそれらの資金で武器を購入し、イスラエルへ侵入するためにトンネルを建設してきた。一方、アッバス議長が率いるパレスチナ自治政府には腐敗、汚職の噂が絶えない、といった具合だ(「『難民』はパレスチナ人だけではない」2023年12月14日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。