広島市安芸区の瀬野駅に来ています。
瀬野駅は隣の八本松駅との間が急勾配であることで知られています。鉄道にとって勾配のきつさは最大の敵であり難所として知られてきました。かつてはここを上る列車には補機が連結されていましたが現在では貨物列車のみが補機を連結しています。瀬野機関区はかつて蒸気機関車時代にここを上る列車に補機を連結するために置かれた場所でありその名残がここに残されています。
かつての鉄道のまちにはいま全国でここだけしかないユニークな鉄道が存在します。駅舎から龍踊(じゃおどり)のように伸びるのがその鉄道。今回ご紹介する「スカイレール」です。
スカイレールは瀬野駅前の「みどり口」駅から「みどり中央」駅を結ぶ懸垂式モノレールです。地図で想像できると思いますがもっぱら住宅街の中を走ります。
みどり口駅からみどり中央駅に向けてはかなりの急勾配をのぼっていきます。住宅街があるのは坂を上った丘の上。この丘の上から駅に数千人規模の大団地の住民を運ぶのに最適な乗り物は何かと試行錯誤した結果造られたのがこのスカイレールだったのです。
住宅街を開発したのは積水ハウス。スカイレールは同社と青木あすなろ建設、三菱重工業などが合弁で開発しました。今も運行会社のスカイレールサービス株式会社は積水ハウスが株式の過半数を持ち運行に携わっています。住宅会社が運行に関与する鉄道会社は千葉県のユーカリが丘線がありますが珍しい存在です。
スカイレールの運賃は170円。切符は日本では珍しいQRコード式で改札にこれをかざして通ります。
車両は25人乗りのゴンドラです。この団地に住んでいなければ観光地ぐらいでしか乗ることがない非日常的な乗り物がここでは生活の足になっています。
混んでいたので車内からの撮影は少なめにしました。車窓の景色はまさに住宅街。地区計画に基づいてつくられた美しい街並みを望むことができます。出発、到着を含めてスムーズな動きで激しい揺れはありません。
1.3kmを5分ほどで登り切り、山の上のみどり中央駅に到着しました。
街並みの中にバス停留所工事中の看板を見つけました。
実は今回ご紹介しているスカイレールは2024年4月末で廃止され、EV車両のバス輸送に置き換えられることが決まっています。
かつては瀬野駅周辺の学校に通う小学生が乗るなど通学輸送を担ってきましたが、周辺に学校ができてそれがなくなったこと、本来はここ以外の団地にも普及を狙った交通システムでしたが思うように普及せず、スカイレール特有の部品の調達コストが高くつき維持管理が難しくなったことが原因だそうです。
この報道に当初は驚きもあったようですが、みどり中央駅までは時間がかかるようになるものの細かくバス停が作られてより家の近くで乗り降りができるバスに期待を寄せる住民も多く大きな反対はなかったようです。
みどり中央駅を出発するスカイレール。この後線路下を歩いたのですが車両が動く時間になるとロープが動き出し線路全体がウォンウォンと音を響かせます。慣れてしまえばそれまでですが沿線の人の中には気になる人がいるかもしれません。
帰りはみどり中央駅からみどり口駅まで線路の近くを徒歩で下りました。4月末でなくなってしまうスカイレールの雄姿をカメラに収めながら歩きます。
ゆっくりと山を下って瀬野駅前まで戻ってきました。ここでもみどり坂団地に向かうバスの停留所を作る工事が進んでいます。住宅街の空に架かるモノレールはもう3ヶ月で廃止されます。大変残念ですが新たな交通機関が地域の方に親しまれ末永く運行されることを願ってやみません。
廃止される前に乗られる方はくれぐれも地域住民の方の邪魔にならないようにお願いします。
編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2024年1月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。