バーレーン戦で狙われた日本の弱点、イラン戦は10倍楽しめ!

サッカーアジアカップRound16、決勝トーナメント1回戦、日本代表はバーレーン代表戦に3-1で勝利しました。

ここでは、アジアカップを10倍楽しむために、試合の総括と次の日本代表の戦いの見どころの展望をしてみましょう。

バーレーン代表、韓国代表戦を上回るボール保持率の意味

試合前、微妙な判定を中東の国有利に導く中東の笛が警戒され、プロレスのような泥試合に持ち込まれることも懸念されていました。しかし、始まってみるとバーレーン代表は正面からサッカーで勝負し、実際、ボール保持率は日本の54% vs 46%とほぼ五分。ファールも日本代表のほうが多いくらいです。なぜこうなったのでしょうか?

バーレーン代表、グループリーグでのボール保持率は対韓国代表では30%を切り、対ヨルダン代表でも40%を切る展開。その中で鋭いカウンターアタックを披露していました。ここから、「あえて自由にさせて、一瞬のすきを仕留める」という戦いを日本代表にも挑むと思われました。

この戦い方であれば、日本代表の「自由」、すなわちオフェンスの攻め上がりに対してプロレス寸前の身体のぶつけ合いでボールを奪取、中東の笛がプレーの続行を許し、守りが薄いすきに日本代表ゴールを仕留める…という展開もありえました。

しかし、さすがはボール保持を信条とするFCバルセロナでもプレー経験があるバーレーン代表監督フアン・アントニオ・ピッツィです。マレーシア代表戦では60%を超えるボール保持率を見せたように、「ボールを持てるゲームではボールを持つ」という「サッカーの質」での勝負を挑んできました。

バーレーン代表、称えるべき敗戦

日本代表にとっては好ゲームだったと言える結果になりましたが、勝利を最優先して泥試合に持ち込むような戦い方をしなかった相手があってこその好ゲームです。「サッカーの質」で勝負してくれたバーレーン代表チームの健闘、掛け値なしに称えたいと思います。

また、サッカーの質で勝ち上がった日本代表も称賛に値する戦いぶりでした。この先のゲームはすべて地上波での放送があります。これまで以上に熱く応援したいですね。

勝利の中で露呈した弱点、GKではない

ただ、勝利したとは言え、このゲームでも日本代表は弱点をさらけ出してしまいました。試合前、バーレーン代表監督は「日本の弱いところを突く」と宣言していました。ゲームの展開は、まさにその言葉通り、日本代表の弱いところを狙って来ていました。その弱点とはGKの経験不足だけではありません。このゲームでは、その弱点が本当にわかりやすく出ていました。

勝敗という意味では、選手の地力で勝る日本代表が敵将の狙いをうまく跳ね返し、オフェンスにおけるクオリティの違いで見事に勝利を手にしました。ここはストレートに選手を称えるべきところです。

ですが、この先は同格の地力とクオリティを持った敵との対戦が続きます。Round8、2回戦の相手はFIFAランクアジア2位のイラン代表です。狙われた弱点を跳ね返せるでしょうか。イランが狙ってくるであろう日本代表の弱点、それはどこにあるのでしょうか?

日本代表、巧みな敵ゴールのこじ開け方

Figure 日本代表、先制点直前のフォーメーションイメージ

Figureは日本代表が先制点を挙げた直前の場面をイメージしたものです。

このゲームでは、日本はマイボールにおいて5トップとも言える攻撃的布陣を仕掛けました。そして、左右サイドバックのどちらかが(状況によってはどちらも)、中央のソロピボーテ遠藤航とパス交換をしながら縦パスのチャンスを伺う形を基本としています。

敵としては5トップの誰であってもボールが渡ると、失点リスクを背負います。そこで、ディフェンスに5枚かけてマンマーク気味にならざるを得ません。5トップの動きと連動してDFは動くので、ゴールに向かうスペースを埋めきれない瞬間が生まれます。

この一瞬を見逃さなかったのがゲームメイクに参加していた毎熊晟矢です。鋭いシュートを放ち、ゴールポストに当たった跳ね返りを堂安律が詰めて日本代表が先制に成功しました。

巧みな仕掛けが危険なスペースという弱点を生む!!

しかし、実はこの瞬間、日本代表は大きな弱点をさらけ出してしまいました。それは、Figure右下、サイドバックが攻撃参加したことで空いたスペースです。

毎熊のシュートを敵GKがキャッチして、または跳ね返りが敵DFに渡って空いたスペースにロングフィードという流れになったら、このスペースで敵に自由なゲームメイクを許すことになります。

実際、1点差への追随を許してバーレーン代表を勢いづかせた場面を振り返ると、55分のチャンスで上田綺世が決めきれなかった直後、日本代表の右サイドに展開されてしまいます。日本代表DFの意識を右サイド前気味に集中させた後、バーレーン代表7番が後ろに戻しくみ立て直します。

日本代表がバーレーン代表に翻弄された時間帯、狙われた方一つの弱点

こうなると、日本代表DFは再び右に来るか、左サイドに展開し直すか読めないので注意を分散せざるを得ません。人は注意の集中、分散を繰り返させられると一瞬混乱するものです。

その中で、バーレーン代表は再び右サイド前気味にボールを戻して展開。右サイドやや中央寄りの7番にボールが入り、ドリブル突破を仕掛けるます。遠藤と毎熊が詰めていましたが、一瞬反応が遅れたため毎熊がファウル(イエローカード)を取られ、フリーキックを献上します。

ここで日本代表のもう一つの弱点が狙われます。ゴール前にシンプルに放り込まれる高めのボールに弱いことです。バーレーン代表のフリーキックはシンプルにゴール前中央に放り込まれます。ここは日本代表が8人で壁を作り、何とか跳ね返しました。

競り合うこともできなかった日本代表

しかし、マイボールにできずスローインを献上します。ここからはバーレーン代表はボールを大切に展開し、ややペースを落とし日本代表DFを前に引き出しながら中央に放り込むチャンスを狙っていました。

そんな中、58分、バーレーン代表左サイドから長身FW9番をターゲットにゴール前中央に放り込まれてしまいます。ヘディングシュートはジャストミートしなかったので救われましたが、日本DF数的優位を作っていたものの、競り合うこともできずにヘディングを許してしまっていました。そして、こぼれ球は再びバーレーン代表に回収されます。

このあと、バーレーン代表のパスミスで一旦は日本代表ボールになります。しかし、再びバーレーン代表ボールとなり、右サイドを攻め込まれてコーナーキックを献上してしまいます。

そして、63分、右コーナーからシンプルに放り込まれ、ファーサイド(日本の左サイド)にはなぜか4番の選手がフリーで待ち構えてヘディングシュートを放ちます。日本代表DFはここでも競り合いさえできていませんでした。

このシュート、GK鈴木彩艶が真上に弾いてしまいます。後ろに弾いていれば、コーナーキックを献上するものの失点リスクは下がったのですが、真上に弾いたボールは当然ゴール前に落ちてきます。

カバーに入ったFW上田とGK鈴木がお互いに邪魔し合う形となりました。最後は上田のオウンゴールという形で追随を許してしまいます。

「1点献上」も巻き返せる選手と采配のクオリティはあるが、イラン代表に通用するか?

その後は右サイドで毎熊が見事なカットインキャンセルのフェイントで上田にパス、上田も毎熊とよく似たキャンセルのフェイントでゴール前に抜け出し3点目を奪います。ゲームの締めを考えた選手交代も功を奏して、見事な勝利となりました。巻き返せる選手も采配も素晴らしいクオリティと言えるでしょう。

しかし、サイドのスペースが空きやすい、シンプルなゴール前の放り込みに弱い、という日本代表の弱点が再び目立ったゲームでもありました。次の勝利に向けてどうすればよいのでしょうか?

森保ジャパンは敵に弱点をつかせないためには、そもそもボールを持たせないというボール保持率の向上、仮に持たれても狙い通りに放り込ませないプレッシングの強度向上、冨安健洋や板倉滉などハイレベルなセンターバックによるスペースのカバー、などを目指しているようです。

しかし、バーレーン代表よりも地力もクオリティも高い相手に弱点を抱えたままで勝ちきれるか…、ここが次のイラン代表戦以降の見どころになるでしょう。

イラン代表戦は10倍楽しもう!!

さあ、次のイラン代表はこれまでの相手とは別次元のクオリティを誇るチームです。日本代表の弱点を巧妙に、なおかつ鮮やかに突いてくることでしょう。日本代表はこれをどのように跳ね返すでしょうか?

AFCアジアカップ公式インスタグラムより

サッカーは攻撃も華ですが、守りにも華があります。そして、その連動が理解できると観ていて10倍楽しくなります。さあ、地上波放送もはじまることですし、次のイラン代表戦、単に勝利を祈るだけでなく、その攻防も含めて10倍楽しみましょう!!

杉山 崇(脳心理科学者・神奈川大学教授)
1990年代後半、精神科におけるうつ病患者の急増に立ち会い、うつ病の本当の治療法と「ヒト」の真相の解明に取り組む。現在は大学で教育・研究に従事する傍ら心理マネジメント研究所を主催し「心理学でもっと幸せに」を目指した大人のための心理学アカデミーも展開している。
日本学術振興会特別研究員などを経て現職。企業や個人の心理コンサルティングや心理支援の開発も行い、NHKニュース、ホンマでっかテレビ、などTV出演も多数。厚労省などの公共事業にも協力し各種検討会の委員や座長も務めて国政にも協力している。
サッカー日本代表の「ドーハの悲劇」以来、日本サッカーの発展を応援し各種メディアで心理学的な解説も行っている。