上流から女性が「流れ」を変える

衛藤 幹子

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麻生太郎氏がまたやってしまった。仕事のできる有能な女性を素直に褒められない、貶めるようなことを言わずにはいられない、そんなところか。「できる」女性を認めたくないのであろう。

いつまで経っても成長できない自民党(の重鎮)を尻目に、党外では女性活躍に向けて潮目の変化を感じる。伝統的に男性優位の組織のトップに女性の就任が相次いでいる。

思いつくだけでも、2021年10月、「おじさんの団体」感の強い日本労働組合総連合の会長に芳野友子氏が選出された。2023年6月には高野由美子氏がオリエンタルランドの最高経営責任者になり、今年に入ってからは1月だけで田村智子氏が日本共産党委員長、日本航空の鳥取三津子氏が次期社長、翁百合氏が政府税制調査会会長に就任した。

以前から男性優位の組織における女性の抜擢はあった。しかしながら、かつてのそれは当該女性に能力や経験が備わっている場合でも、能力/経験よりも「女性」という属性に注目して選ぶ傾向にあったように思う。とくに停滞や危機を前に現状打開が求められるとき、変化の切り札として女性が抜擢された。男性優位組織において、女性は言わば異端者、したがって変化や新鮮さをアピールできる。

たとえば、郵政民営化が争点になった2005年の総選挙では、当時の自民党総裁の小泉純一郎氏が民営化に反対した37人の現職を公認せず、16人の女性を含む自らの息のかかった候補者を擁立した。この女性たちは、小泉氏の選挙戦のシンボル的な役割を果たし、同氏の勝利に少なからず貢献した。少々短絡的かもしれないが、小泉氏は「女性を梃子」に郵政民営化への切符を手にしたのである。

現在、支持率低迷、青息吐息の自民党の次期総裁として上川陽子氏や高市早苗氏の名前が挙がるのも、同じ論理のようにみえる。落ち目の自民党の「救世主」として女性を登用しようというわけだ。

しかし、このような利用するために担ぎ上げる女性抜擢はもはや時代遅れ、政界だけで通用するやり方ではないだろうか。実際、上記の女性たちは、経歴を見る限り、いずれも所属組織の叩き上げ、能力も経験も申し分がなく、実力によって選ばれことは間違いない。もっとも、あくまで私の推測に過ぎないが、遜色のない実力に加え、組織側に女性を積極的に登用しようという意図も多少あったかもしれない。

実力が拮抗している場合、組織の戦略として女性を選ぶとことはあり得る。というのも、男性優位組織における女性の抜擢は、組織イメージの改善に効果的だからである。事実、芳野氏の登用は連合の好感度を多少ながら挙げたように思われる。芳野氏は明るい衣装がお好みで、ソフト路線のアピールにはなかなか効果的、色に例えれば暗めのダークカラーが明るい暖色系に変化した感じだ。

テーマパークも航空会社も多数の女性従業員を抱えるうえ、利用客の半数、もしくはそれ以上が女性だということを考えれば、女性がトップに立つのは自然な成り行きである。共産党の初の女性委員長登場も、連合同様、少なくとも外形的なイメージは和らぐ。翁新会長については、与党税調の影響力に翳りが見えるだけに、国民目線の政府税調への期待を高める効果がある。

男性優位の組織において、甲乙つけ難い人物が並んだときにジェンダーを選考の決め手にすることは推進すべき事柄だ。しかも、最近ではリーダー職に相応しい実力を持つ女性も増えてきており、ボーイズネットワークの中で、その能力を生かす機会が与えられ難いことを考えれば、積極的に女性登用を推進すべきであろう。

とはいえ、女性リーダーはほんの一握り、日本には依然著しい男女間の格差がある。政治参画、経済参画、教育、健康の4分野における男女間格差を男性1に対する女性の比率によって測定するジェンダーギャップ指数によると、4分野それぞれの格差は前から順に0.057、0.561、0.997、0.973である(内閣府「日本の順位:125位/146か国(2023.6.21発表)」。

政治ほどではないにしても経済分野で女性は男性の半分あまりしか活躍できていない。そのため、企業のトップに登用するよりも、まずは女性就労率、わけても正規雇用率の引き上げ、賃金の男女格差の是正、女性中間管理職の大幅増など労働市場における女性全体の底上げを図るべきではないかという意見があるかもしれない。

確かにそうではある。だが、全体の底上げには長い時間を要する。そこで、上流から流れを変え、その勢いを下流に及ぼすのも一つの方法ではないだろうか。「女性によって」ではなく、「女性が」自ら流れを変えることを期待したい。