11月最初の月曜日の翌日の火曜日と法律で決まっている、即ち、今年は11月5日に投票が行われる米大統領選の候補者選びが始まった。1月15日のアイオワ州共和党党員集会ではトランプがニッキー・ヘイリーに圧勝し、続く23日のニューハンプシャー州(NH)共和党予備選挙でもトランプが唯一残っている対抗馬ヘイリーを屠った。(※日付は以下も現地時間)
同じ日、NHで行われた民主党予備選挙でバイデンが勝った。が、投票用紙に印刷のないバイデンの名を有権者が手書きしたことしかニュースにならなかった。2月3日のサウスカロライナ州(SC)民主党予備選挙でもバイデンが圧勝したが、95%近い得票で他の2候補を寄せ付けなかったことが可笑しかった。ロシア大統領選を想起させたからだ。
ここまで読んでお気付きと思うが、米国の大統領候補選びの方法には「党員集会」と「予備選挙」の二つがある。斯くいう筆者も先般の投稿ではこれを混同し、後で編集部に修正して頂いた経緯がある。本稿ではこれらの違いについて整理し、これらを巡るネバダ州の出来事について述べる。
かつては主流だった党員集会に代わって最近は予備選挙が増加し、党員集会のみでの選考は、20年時点ではアイダホ、アイオワ、ハワイ、ミシガン、ミズーリ、ネバダ、ノースダコタ、ユタ、ワイオミング、米領サモア、グアム、北マリアナ諸島、ヴァージン諸島の9つの州と4つの準州で開催されているに過ぎない。
予備選挙と党員集会の両方を行う州もあり、例えばアラスカとネブラスカでは、共和党は予備選挙を実施するが、民主党は党員集会を行う。他方、ケンタッキーでは民主党が予備選挙を行うのに対し、共和党は党員集会を開く。後述するネバダは23年に民主党が予備選挙、共和党は両方を開くことに変更した。
二つの方法の主な相違点は、党員集会は政党の主催であり、参加者は登録した所属政党の有権者のみで候補者への支持を公然と表明する。一方、州が主催する予備選挙は、候補者と代議員を選出する直接的な州のプロセスであり、有権者は本選挙と同様にこれと思う候補者に無記名で投票する。
予備選挙には大きくは「公開」と「非公開」の二つがあり、公開の予備選挙では登録有権者が所属政党に関係なく、どの候補者にも投票できる。つまり、民主党員が共和党候補者に投票する(その逆も)ことができる。が、非公開の予備選挙では、有権者は登録している政党の候補者にしか投票できない。
長年、米大統領選の緒戦は1月のアイオワ党員集会で始まり、次にNH予備選挙の順で進められる。多くの場合、この辺りで候補者が篩に掛けられるため、各候補者はこれらの緒戦と討論会とに金と労力を注ぎ込む。今回、討論会に不参加だったトランプは、バイデン司法省の起訴をそれに代えた格好だ。
予備選挙と党員集会の早期化と大規模化により、民主・共和両党の候補は夏の終わりに開かれる全国大会前、多くの場合は3月初め(今年は5日)のスーパーチューズデーにほぼ決まってしまう。トランプがヘイリーに対し、対民主党・対バイデンに金と力を注ぐべく、早期の降板を促す理由がここにある。
そこでネバダ州のことになる。共和党の候補者選びは、2月8日のネバダでの党員集会、そして24日のSC、27日のミシガンの予備選挙へと進むが、実は2月6日にネバダで民主・共和両党の予備選挙が行われるのだ。それが「トランプを苛立たせている」(4日「アクシオス」)。
その理由は、ネバダ州が23年に予備選を導入し、州共和党が候補者は党員集会と予備選挙の片方にしか参加できないと決めたこと起因する。トランプは党員集会に、ヘイリーは予備選挙に参加するが、党員集会への参加者が、予備選挙の期日前投票を済ませた5万人に及ばない可能性があるというのだ。
予備選導入の背景には、民主党が多数を占めるネバダ州議会が、20年のアイオワ民主党党員集会での混乱を受けて、21年にネバダに予備選を設ける方向で動いたことがある。23年5月、共和党は党員集会の継続をネバダ州に訴えたが適わず、党主催の党員集会を24年2月8日に開催すると発表した。
ネバダ州共和党は、2月8日の共和党党員集会で一定票を獲得した候補者に全国大会の代議員26名を比例配分するが、2月6日に州が主催する予備選挙の投票には拘束力を与えず、代議員の配分は考慮しないとしている。が、トランプとしてはヘイリーより票が少ないのでは面白くないという訳だ。
トランプ陣営の不満は、同州の共和党選挙責任者アリダ・ベンソンにも向いている。彼女はトランプの党員集会参加を主張しながら、1月初旬まで開催地が決まらず、ボランティアも動員しないまま産休に入ってしまい、先に降板したラマスワミの側近が、唯一の同州常勤党職員を支援する事態になっている(前述「アクシオス」)。
トランプ同盟者のネバダ州知事ジョー・ロンバルドは、予備選投票用紙のヘイリー以外の選択肢である「これら候補のどれでもない」に投票することを有権者にも勧めている。ネバダ州は75年制定の法律により「どれでもない」に投票することも認めているが、知事がこれではさすがに拙かろうに。