メキシコ大統領のアムロは麻薬組織から200万ドルを受け取っていた

アムロの後継者を大統領にさせないための陰謀

2018年12月にメキシコの大統領に就任したアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(アムロ)大統領は今も56%という比較的高い支持率を維持している。その彼が2006年の大統領選挙の時に麻薬組織からおよそ200万ドルの選挙資金を受け取っていたことが最近明るみになっている。

先ず、なぜ今頃になっておよそ20年前のことが取り上げられようになったのか? それには、今年6月に大統領選挙が予定されていることに関係があるように思われる。アムロは既に一期だけで職務を終えることは彼が大統領に就任した時に明らかにした。

現在、彼の後継者としてメキシコシティー市長クラウディア・シェインバウン氏(61)が立候補している。その一方で、対立候補としてチョチトゥル・ガルベス氏(60)がこれまで80年余りメキシコの政権を維持して来た2大政党(制度的革命党PRIと国民行動党PAN)から支持を受けて選挙に臨んでいる。

現時点ではシェインバウン氏が対立候補と20-25%の差をつけて優位に立っている。即ち、アムロの左派政党(国民再生運動MORENO)が継続して政権に就く可能性が高いということを意味することになる。

ところが、米国にとってこれまでのアムロの政権運営は都合のよくないものであった。アムロはキューバやベネズエラの政権に味方したり、米国への不法移民の流入についても米国に協力する姿勢は薄い。即ち、米国にとってアムロは都合のよくない政権運営を行って来たということなのである。だから米国はPRIかPANの政権が復活することを望んでいるということなのである。

そこでアムロのMORENO左派政権が継続することを阻止しようとして、今回のスキャンダルが明るみになったのではないかと筆者は推測している。米国が望んでいるのは米国に同調する政治姿勢を持った右派政権の復活である。

米国に都合のよくない政党からの大統領誕生を米国は避けたい

今回のスキャンダルが明るみになったのは、米国のジャーナリストティム・ゴールデン氏(Tim Golden)が情報紙ProPublicaにアムロに麻薬組織から選挙資金が渡されたということを報じたのが始まりである。しかし、それはアムロが2006年に大統領選に立候補した時のことであって、2018年に立候補して選ばれた時ではない。

アムロは2006年、2012年、2018年と3回立候補している。三度目の正直で彼が勝利したということだ。しかも、この3度目に立候補した時に、アムロは自らの政党を設立しての立候補で、左派色をより鮮明にして当選した。80年余りの右派政党による政権運営で社会的に歪が目立つようになり、有権者は左派系の大統領の誕生を望んだということなのである。ところが、それは米国にとっては都合のよくない政府の誕生であった。

このスキャンダルが明るみになると、米国やメキシコのメディアを始め、ラテンアメリカやスペインでもそれが報道されるようになった。

筆者はその中でもメキシコのデジタル紙シネンバルゴ(Sinembargo)で報じられている内容を柱に他紙の情報を交えて以下にそれを説明することにしたい。

上述紙によると、米国の麻薬取締局(DEA)は麻薬密輸業者エドガー・バルデス・ビリャレアル氏(通称ラ・バルビー)が200万ドルをアムロの2006年の選挙資金としてニコラス・モリィネド・バスタール(通称ニコ)に手渡したという。ニコは2000年からアムロの運転手として2012年まで勤めた人物だ。その交換条件として、アムロが大統領になった暁には麻薬業者の活動をし易いようにするということであった。

ラ・バルビーはメキシコで最大の麻薬組織シナロアの幹部である。即ち、アムロはシナロアからの資金を受け取ったということになる。

麻薬組織シナロアは常に歴代大統領と関係を持っている

DEAが調査を続けて行くうちに2010年に麻薬に関係していた元局員が米国で逮捕された。この元局員は刑務所に収監されないことを条件に政治資金を提供していたことを明らかした。そしてニコとの会話が録音されていて、ニコがマフィアからの資金の提供にかなり関係していたことが明らかにされたのである。

それまではDEAの局員は麻薬組織が選挙資金に関与していることを調査することに積極性に欠けていた。そこにはそれを裏付ける充分な証拠が不足していたからであった。ところが、2010年になると、メキシコで活動していたDEAの少数の局員がこの調査を積極的に進める意向を示すようになった。それに強力な味方となったのは、2008年にメキシコの米国大使館に28歳のロベルト・ロペス・ナヘラ(匿名ジェニファー)と名乗る弁護士が出頭してDEAの局員と会いたいことを伝えたのが起因である。

DEAの二人の局員が彼と会談をもった。そこで彼はそれまでラ・バルビーの弁護士として活動していたことを明らかにしたのである。ジェニファーの証言によって、当時の大統領フェリペ・カルデロン氏のもとで働く官僚が麻薬組織と癒着していたことが明らかにされたのである。そしてジェニファーはDEAに積極的に協力するようになって腐敗した官僚などを一掃することに貢献したのである。勿論、その中には彼が弁護士を勤めたラ・バルビーが関係していた政治家や官僚への汚職の全貌が明らかにされた。

そこからアムロにも選挙資金が流れていたことが明らかになったのである。勿論、2006年にアムロの対立候補であったフェリペ・カルデロン氏にも同様にシナロアから選挙資金の提供を受けたことは明らかになっている。2006年の選挙ではアムロは負けてカルデロン氏が勝利した。そしてカルデロン氏が大統領に就任すると、麻薬組織との戦いは熾烈になるが、唯一例外はシナロアで、これを契機にシナロアは大統領の庇護のもと組織を拡大して行ったのである。

DEAの職員がメキシコから撤退を余儀なくさせられた理由

またアムロが2018年に大統領に就任すると、エンリケ・ペーニャ・ニエト政権下で国防相を務めた4星のシエンフエゴ将軍が麻薬組織から資金をもらっていたということでロサンゼルス空港に到着するなりDEAの局員によって逮捕された。最終的に彼は米国の法廷で裁判を受けることなく、メキシコに送還された。

これを機縁に、アムロはメキシコで活動していた多くのDEA局員を国外に追放するという措置を取った。DEAはメキシコで麻薬組織の活動の情報を掴むことを仕事としていた。それをアムロは国家の尊厳を邪魔するものだとして国外に追放したのである。

しかし、メキシコのこれまでの大統領はDEAの同国での活動をを容認していた。ところがアムロが大統領になってからDEAの活動を邪魔する行動を取ったのである。そのような理由から、米国がアムロの候補者が今年の大統領選挙で勝利することを望まなくなっているのである。だから、今回のようにアムロにとって不利な20年前のスキャンダルが表に出て来たというわけである。