コスパ、タイパが目的化していませんか?

黒坂岳央です。

昨今、コスパ、タイパが当たり前の感覚になろうとしている。常に効率化、改善を意識する姿勢自体は正しいし、特にビジネスにおいてはコスパ、タイパを実現できる人こそが仕事ができると称されると考える。

その一方で、強く意識するあまりにコスパ、タイパ自体が目的化してしまうケースは意外と多いのではないかと思っている。

masamasa3/iStock

お金を増やすことが目的化する

最も陥りがちなのは「とにかくお金を増やすことを目的化する」という状態だ。自分のスキル、経験を磨いて、労働市場で付加価値の高い仕事について高給を得るということなら問題はない。なぜなら時間単価を増やすことで失うものより、得るものの方が多いからだ。ビジネススキルや経験もそうだし、リーディングカンパニーに行くことで同じような価値観で働く人に出会って交流を楽しむことだってできるだろう。

問題は資産運用で起きる。最近では米国インデックス投資を推奨する人が多くなり、「複利の力を使って若い時期から節約して全力投資をし続けよう」という提案をする人もいる。資産運用は時間が味方になるので、たしかに理屈の上ではこのような提案には合理性を持つ。40歳、50歳から始めるより20代から始める方が有利である事実は誰も否定できないだろう。経験値も稼げるし、投資を始めれば興味が湧いて深く調べたり勉強するという行動にもつながる。

ただ、これがあまりに過剰になるとどうだろう。爪の先に火を灯す勢いでとにかく投資にだけお金を使い、旅行や友達との交流は一切なく感受性豊かな若い時期を蓄財しかしないまま年を取ってしまうようなケースだ。自分は他人の生き方に意見を付けられるような立派な人間ではないが、自分自身は「もったいないな」と感じる瞬間がある。

自分は30代前半までお金はすべて自己投資や起業に使い、旅行や遊びにも惜しみなく投じた。当時のお金を指数に投資すればもっと資産はあっただろう。しかし、「勇気と想像力とサムマネー」という名言の通り、お金は必要なだけあればいい。だから若い頃、有り金を全部使って色々経験を買ってきてよかったと思っている。

お金は増やして終わりではなく、有意義に使うところまででようやくその意義、目的が達成されるのではないだろうか。

友人との会話もコスパ、タイパ

これは過去記事で書いたことがあるが、ネットの記事や動画で筆者を見かけて旧友から連絡をもらうことがある。毎回、連絡をもらうと嬉しい。そこから昔話やお互いの近況報告が始まるととても楽しい時間になる。問題はその次だ。途中からビジネスライクな会話になっていき、専門的な助言を求められ始める。

あまりけちくさい事は言わず、自分の知っていることはなるべく話すようにしているが、連絡があるたびに解決してもらいたい問題や課題が持ち込まれると残念な気持ちになる。「友達だから無料でいいよね」みたいな姿勢が見えてしまう瞬間があるのだ。

本人にとってはコスパ、タイパはいいかもしれない。気軽に連絡ができて、対面で食事をしながら2時間みっちりアドバイスを受けられる。「奢ってよー稼いでいるからいいじゃん」みたいに言われ、自分が全額支払いをしたこともある。自分は純粋にバカ話とか家族や他の旧友の近況話で盛り上がりたいのに、なんだかうまく利用されているような感覚になることもある。

コスパ、タイパはあくまで効率的に目的を達成するための手段に過ぎない。手段が目的化した時、コスパやタイパという概念は意味をなさなくなってしまうのだ。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。