後期高齢者を3割負担にすれば保険医療費が5兆円減る

池田 信夫

医療費の財源をめぐっては、原則1割負担になっている後期高齢者を3割負担にすべきだという批判が強い。後期高齢者医療費は18.4兆円。人口の14%しかいない75歳以上に医療費46兆円の4割が食いつぶされているのだ。このうち保険料負担は1.5兆円、窓口負担は1.5兆円で、40%が現役世代からの支援金である。

厚生労働省

後期高齢者の7割は1割負担

この問題は厚労省も認めているが、負担増には特に公明党の反対が強く、2022年度の一部改正も難航した。これで年収200万円以上の後期高齢者は2割負担になったが、3割負担と合計しても27%。残りの72%は1割負担のままある。これを一律3割負担にすると、窓口負担は2倍以上の3兆円強になると見込まれる。

NHKより

さらに負担が増えることによる需要抑制効果がある。これについての有名な社会実験は、1993年に行なわれたランド医療保険実験である。それによると医療費の自己負担ゼロの場合に比べて、25%負担になると入院が20%減り、医療費も図のように20%減った。

ランド医療保険実験の結果

後期高齢者に同様の傾向がみられるとすると、医療費18.4兆円が20%減ると14.7兆円。このうち窓口負担が3兆円になると、保険医療費は11.7兆円。これは現在の16.4兆円より4.7兆円少ない。

この他に前期高齢者(2割負担)にも3.6兆円が拠出されているので、これも3割に統一すると、保険医療費は少なくとも5兆円は削減できるだろう。

自己負担が増えても健康にはほとんど影響がない

自己負担増で健康がそこなわれるという批判もあるが、これについても2008年から行なわれているオレゴン医療保険実験では、無保険者とメディケイド(医療保険)の加入者を比較し、次の図のようにほとんど差がなかった。

オレゴン医療保険実験の結果

高度医療については高額療養費制度があるので、一般加入者でも月5万7600円、住民税非課税世帯(後期高齢者の多くはここに含まれる)は月2万4600円が負担の上限である。

3割負担にすれば現役世代の手取りが増える

以上はきわめて大ざっぱな計算だが、すべての保険診療の窓口負担を3割に統一すると、需要抑制効果を含めて保険医療費は約5兆円減り、現役世代からの支援金6.9兆円を2兆円程度まで圧縮できる。これは国債で穴埋めし、時間をかけて給付を削減すればいい。

これによって健保組合の健康保険料は半分に減り、サラリーマンの手取りは5%ぐらい増えるだろう。現役世代の所得を増やすことがベストの少子化対策である。

これ以上、健康保険料の不公平が拡大すると、保険医療が崩壊する。是正すべき問題はたくさんあるが、まずすべての被保険者を3割負担にし、フェアな制度にすることが第一歩である。これは厚労省令の改正と閣議決定だけででき、国会審議さえ必要ない。