文春砲「五輪汚職・高橋被告の激白」が暴露する政治家の狡猾

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罪は民間人に押し付ける

週刊文春は「五輪汚職、高橋被告が独占7時間」というインタビュー記事(2月15日号)を掲載し、五輪組織委員会に高橋治之被告を理事として招き入れた安倍、森元首相に憤懣をぶちまけています。「なぜ俺が全ての罪を被るのだ。政治家はどうなのだ」との怒りを文春砲は伝えています。

スポンサー契約を巡り、約2億円の賄賂を受け取ったとする事件で、高橋被告は無罪を主張し、一方の贈賄側は罪を認めて有罪が確定したという奇妙な展開になっています。ですから高橋被告が自分に不利な情報を語るはずはなく、インタビュー記事を鵜呑みにできません。鵜呑みにしていいのは安倍、森両元首相への憤懣で、それは事実だと想像します。

政治家の狡猾さにいいように利用されたとの思いでしょう。民間人、民間企業の責任をきっちり追及するとともに、法の精神を軽んじる政治家の振る舞いも解析しなければなりません。

派閥のパーティー券収入を巡る裏金疑惑でも、安倍派の歴代の事務総長ら幹部7人は不起訴で、民間人(職員)である会計責任者、秘書らが起訴されました。民間人、民間企業だけが追及され、政治家や事務総長(財務次官OB)が免責となっている五輪組織委疑惑の構図と酷似しています。

高橋被告は電通の元専務で、「スポーツビジネスの第一人者」、あるいは「スポーツビジネス利権のボス的存在」でした。危ない橋も多く渡ってきたでしょうから、特に五輪誘致のような賄賂、裏金、過剰接待が絡むプロジェクトの舞台裏は熟知していたはずです。

ですから12年12月に総理に返り咲いた安倍・元首相から「五輪招致を手伝ってほしい」と求められると、高橋被告は「五輪というのは終わってから帳面を出せ、記録を出せとか言われて事件になることがある。表立っては協力できません」(インタビュー記事)と、申し出を断りました。

次が問題です。「すると安倍さんは『絶対に迷惑がかからないようにします。それは僕が保障します』という。それを信じて招致に関わるようになった」(同)。高橋被告は組織委の理事に就任しました。

いかに総理とはいえ、犯罪的要素が派生してくるかもしれない懸念に対し「迷惑を掛けない」、「僕が保障する」といったのが事実とすれば、絶句に値する。全く似た記事が過去にあったのを思い出します。

月刊文芸春秋が確か22年8月の五輪疑惑を特集し、ノンフィクション・ライターによる同じような記事を載せました。「五輪誘致に絡むと後で逮捕されることにもなりかねない」と尻込みする高橋氏に対し、「安倍首相が『逮捕されるようなことにはしない』というので信じた」と。

「検察を俺が抑えてやるから心配するな。司法なんかなんとでもなる」という意味でしょう。思い上がりというか狡猾というか。

首相官邸には警察、法務省の幹部OBが補佐官などになり、司法の現場に口を出していたというのは常識的でしょう。桜見の会、モリカケ疑惑、財務局における公文書偽造事件などに、そうした事例が見受けられます。「僕が保障するから」と、安倍氏はいったということはありえます。

もう一つは高橋被告が「森・元首相から、あなたはマーケティング担当理事です」なんて言われたことは「一度もない」(同)と断言していることです。「委任の契約書にも、職務について何も明記されていない。職務権限のあるマーケティング担当理事なんてものは存在しないのです。マーケティングは森会長一任に決まっていた」(同)。

検察に対する森氏の供述書では、高橋被告に職務権限があることになっている。もし職務権限がなければ、高橋氏側がスポンサーから受け取った報酬は賄賂ではなく、コンサルタント料という解釈も通らないわけではない。贈賄側は賄賂と認識している。

ここは重要なポイントです。ですから被告側から、「裁判長、元会長(森氏)の証人尋問が必要です」との要求がでているのは不思議ではありません。

組織委の事務総長・武藤敏郎氏は財務次官OBです。「外部理事もみなし公務員の扱いになり、職務はこれこれです」と、高橋氏を招請した際に説明を尽くし、証拠を残しておくべきでした。後になってから、「職務について契約書には何も明記されていない。みなし公務員との説明も受けていなかった」と抗弁される道を封じておくべきでした。

「AOKIの青木・元会長が見舞金の名目で現金200万円を森氏に渡したとされる問題で、森氏は金銭の授受を否定している」(同)。見舞金にしては多額です。密室での現金のやり取りは証拠が残らない。見舞金はスポンサー契約をしてもらった実質的な謝礼だったかもしれない。

キャッシュレス時代、お金の流れに透明性を持たせることになるマイナンバーの時代というのに、政界は時代遅れの現金を大事にする。マネーロンダリング(資金洗浄)ためでしょう。パーティー券収入の過少記載、闇に包まれたキックバックの不記載は、ある種のマネーロンダリングです。

政界にはマネーロンダリングが大手を振って存在しています。政治家の金銭取引は銀行口座経由を義務付け、マイナンバーを紐付けし、透明性を持たせる。このことが五輪疑惑、パーティー券裏金疑惑ではっきりしました。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年2月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。