日本人は海外で本当に活躍できるのか?

先週号の日経ビジネスの特集は「アジア出稼ぎ日本人 人材大流動時代に生きる」と銘打ち、主にアジア、オセアニア地区で活躍する日本人若者を捉える一方、ベトナム人が日本に来なくなっていると報じています。この記事は前向きな記事なのか、後ろ向きの記事なのか、読みながら悩んでしまったのですが、記事の担当者は前向きで書いたと述べています。

記事ではラーメン店、寿司、トリマー、美容師といった手に職を持っている人がアジアの国々で仕事を見つけ、日本で働くよりも高い報酬を得ているという記事でこれは半年から1年ほど前に話題になった「海外の方が稼げる」というブームの流れが続いているものと思われます。

一方、日本人の技術が評価されるのは確かなのですが、ラーメンや寿司は日本そのものでシンガポールやタイの方にお願いしてもそれは難しいでしょう。トリマーについては実は弊社のテナントにペットショップがあり、そこに数多くの日本人トリマーが働いています。店主は「日本人は安定しているからよい」と高評価です。この安定というのは必ずしもスキルを意味しているのではなく、時間通り出社し、突然の休みも少なく、3か月で「私、辞めます」と言わないという意味での安定感です。

同様にやはり弊社のテナントに大手タイ式スパ店があり、そこも日本人従業員が3割ぐらい占めます。15年ぐらい前にオープンしたての頃はタイの方がたくさんいたのですが、最近は日本人を含め非タイ人ばかり。人材不足もあるのでしょうが、日本人は接客が上手なのです。それと優しいので顧客満足度が高いようです。スキルが特上ではなくてもそのあたりで経営側も顧客側も満足するのです。

つまり、ラーメンでも寿司でもトリマーでも美容室でもスパマッサージでもそこそこは出来る、それ以上に店の運営上絶対に欠かせられない安定感があり、信頼度が高い、これが日本人評価の6-7割だと思います。私も長年、日本の若者たちと接してきているのでこの分析には自信があります。

とすれば日本人は海外で本当に活躍できるのか、といえば個人的にはそう簡単じゃない、と申し上げます。それでも日本人が海外に渡れば稼げるのは物価水準と業務の効率性が理由だとみています。たとえば私が支援している介護ビジネスでも日本人の看護師経験者ならフルタイムで働けば35万円ぐらい稼いでいます。ローカルの人も雇っていますが、長続きしない、さぼる、休む、クレームがあるなどで散々なのです。

日経ビジネスの記事を読むとまるで日本人は神の手のような気にさせるのですが、そうじゃないのです。実際、私は日本人を月に7-8人ぐらいをコンスタントに面接していますが、最近は合格率が下がっていて、採用する人は半分程度です。日本人だって全員がレベル高い訳じゃないのです。

海外に出てくる日本人、特にカナダには女性比率が8割ですが、多くは人生の中で経験値を高めたいという方が多く、海外での仕事の経験を生かして日本で活用したいという方がほとんどです。かつては語学力が主たる理由でしたが今では自分が日本でやってきた仕事を海外でやるとどうなるのか、という自分への修業的な目的が増え、良い傾向が見られます。

正直、語学を目的に来られてもどこに照準を置くか次第ですが、個人的にはあまり意味がないと思います。理由は海外に来ても深い英語を話すことは少なく、1年すれば日本に帰り、英語との縁はほぼ切れるのです。時々若い人に意地悪な質問をします。「英語、話していますか?」「はい、学校の友達と」「それはもしかして韓国人やブラジル人?」「そうです」「カナダ人と話したことある?」「先生以外はほとんどありません」「家では?」「ホストファミリーはフィリピン人でほとんど話さないです」。

日本人の若者が海外に出る理由の大きな理由の一つは賃金格差ですが、もしも日本で物価水準が修正され、賃金が末端まで上昇するようになり、円高時代が再びやってくれば海外に出るモチベーションは下がるかもしれません。一方、人生の経験値を求めて海外に出たいという野心を持った人はどんどん出た方がよいでしょう。

ところでカナダは学生ビザの発給数が多すぎてそれら海外学生を受け入れる住宅が圧倒的に不足する事態となり、今年、突然カナダ政府が今後2年間、学生ビザの発給を35%減らす、と発表しました。海外に出たいけどその枠組みに入ることが今後、難しくなるわけです。アメリカはそもそもワーキングホリディ制度がない訳で北米への若者の足掛かりはやや難しくなりそうな気配です。

今後、日本人の若者に求められるのは更に研ぎ澄まされた世界に通用するスキルであり、それをプレゼンテーションするぐらいの能力とノウハウを持ち合わせることだと思います。とても難しいことですが、それをやりぬいてこそ、日本人が海外で本当に活躍できる時代が到来したとも言えるでしょう。

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では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年2月12日の記事より転載させていただきました。