私はグルメではないので語る資格はないかもしれませんが、少なくとも人間である以上、毎日何らかのものを口にしているわけでそれなりにこだわりはあると思います。こだわりは各自の感性の問題でそれが標準化されるものではないですが、大きなトレンドはあるのでしょう。最近思った食にまつわるあれこれをいくつか綴ってみたいと思います。
カナダの牛肉
大手スーパーの精肉コーナーの牛肉は1ポンド(454グラム)あたりで20㌦(2200円)前後と以前より相当高くなりました。こうなるとメンタル的に手が出ないことが多くなります。メンタル的というのは買って買えないことはないけれどそこまでして毎週食べなくてもよいだろう、という気持ちの芽生えであります。一時期言われた牛はSDG’s的にはよくないとか、そもそも北米で牛肉の消費量が大きく減っているなどそれらの情報に影響を受けていないとも断言できません。不思議なのは時々行く中華系の肉屋(数軒)はどこもほとんど牛肉を扱っていないのです。豚が主流で鶏がちょっとあるだけ。
顔なじみの一つであるステーキハウスのバー。バーテンダーが「ひろ、今日のスペシャルはブタだ!」。こんな調子でステーキハウスなのに牛肉以外の肉の提供が増えているのです。数年前は客でごった返していた大型店のこの店も空席が目立つようになり、日によっては「大丈夫かな?」と思わせるのは価格が上昇しただけが理由とは思えないトレンドチェンジを感じさせます。
ビールは流行らない?
数年前までのクラフトビールブームは何処に行ったのでしょうか?やはり行きつけの一つのクラフトビールバーも最近はめっきり客が減っています。この店はビールなら1000円ぐらいですが、ワインだと1800円ぐらいするので否が応でもビールを飲ませる仕組みになっています。それでも客が来ないのか、日曜日の夜のビールは一日中700円、それでも客はポツポツ。一時期、高アルコール度のドリンクでパッと酔ってパッと帰るという話もありましたが、それもありません。なぜだろう、という問いにある人は大麻があるでしょ、と。個人的にはいくら合法だとしてもビールを飲まなくなったのは世界的トレンドと思われ、それは主因ではないと思います。私になりに思うその理由はずばり「酔いたくない」のだと思います。
なんだもんじゃ
カナダ人夫婦のご接待で本人たちの希望もあり、この時期に東京湾の屋形船ランチに行ってまいりました。この屋形船、てんぷらではなくてもんじゃ食べ放題だったのですが、私ももんじゃなどほとんど食したことがなく、スタッフに聞きながら見様見真似で土手を作り、中に汁を流し込み…とどうにか形にしました。私はおいしいと思いましたが、やっぱりカナダ人の口には合わないのか、あまり手が伸びず、野菜焼きやソーセージがうまい、うまいと。
浅草あたりで買い食いするのは一口、二口程度だから驚きの味と思うのでしょう。これがランチなりディナーのメインコースとなるとそれはまた別腹なのでやっぱり普段食べているスタイルの食生活がお望みのように感じました。以前、別のカナダ人夫妻が東京でステーキが食べたいというので松坂牛だったか、非常に高級なステーキ屋にお連れした時も初めの数口は感動していましたが、最後、あのサシの脂身が重くて食べきれず、ジャパニーズビーフの印象がイマイチだったのは今でも後悔の念に駆られる思い出の一つです。
進化した寿司
私の長年の友人が経営する知る人ぞ知る西麻布の寿司屋に7-8年ぶりに行きました。器類からこだわりぬき、おちょこは切子グラス、皿なども全部カスタムメード。それよりも圧倒されたのは寿司職人が生み出す包丁わざとプレゼンテーションで2時間ちょっとのエンタテイメントを堪能させて頂きました。寿司ネタの一部に熟成ものを多く採用し、またマグロ一つにしてもどこで獲れた何キロのマグロというネタの詳細情報に思わず引き込まれました。
横に座っていた友人は「どう、7-8年前と比べてだいぶ変わったでしょ?」と。寿司職人は寿司を握るだけではない、見せるのだ、いや魅せるのだというショービジネスを感じました。寿司職人は10年修業しなくてもできるという意見もありますが、この手の店はやはり職人技が光ります。ちなみに私を担当してくれたのはこの道26年のベテランに安心すら感じたのでありました。まさに衝撃の寿司一夜でした。
日本に来ると確かに食のレベルはすさまじいものがあり、圧巻です。これがあるからカナダでレストランに行きたくなくなるのです。とはいっても美食三昧で足のつま先がピリピリと痛風になるのもカンベンなので程よいところでカナダに引き上げた方がカラダによさそうだ、と思う次第です。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年2月18日の記事より転載させていただきました。