この秋冬の大注目展覧会は、オルセーのフィンセント・ファン・ゴッホ、フォンダシオンLVのマーク・ロスコ、オランジュリーのモディリアニ、そしてMAMこと市立近代美術館のニコラ・ド=スタール(全員、若くして自死もしくはほぼ自死)。
体感で、一番人気はド=スタール。フランス人の友人知人たちから、一番挙がるエキスポジジョンで、みんな感動してる。
何度か行きそびれ、ようやく!もちろん朝イチの空いてるタイミングで。
元々好きで、たまに作品と巡り合うとじっくり眺めていたけれど、まとまった作品を一度に見るの、初めて。思っていた通り素晴らしく、最初の作品から、きゃ~好き!とテンションあがる。
カシの景観をインクと水彩で描いた小さな作品。線も色使いも、とっても好み。二十歳の頃、初めて南仏を訪れた時のもの。これを見ておくと、後半、特にラストのアンティーブでの作品とのコントラスト(精神的な)がすごい。この頃はまだ、人生への初々しい喜びを感じるね。
どの作品も、具象を抽象にせずぎりぎり具象の世界に引き留めている感性がとっても好き。そして見事な色の配置。抽象のフィルターを通した、美しい静物画や風景画(人物も家族を少々)に夢中になる。
作品を見ているうちに、どうしてド=スタールが好きなのか、納得した。ジョルジョ・モランディに通じるものを感じるからだ。静物の並べ方とか色彩の絶妙なグラデーションとか組み合わせ、共通するものがあるよね。特に、りんごと洋なし、完全にモランディの雰囲気。
彼の生涯を追った映像もよくできていて、ラストは、アンティーブのピカソ美術館にある、未完成の遺作(今回、借りられなかった。巨大すぎて運ぶの大変なのでしょう)。
直前にパリで聴いたウェーベルンとシェーンベルクの音楽に精神を強く揺さぶられ、描き始めた大作。精神的に行き詰まっていたところへのこの音楽で、生きていられなくなったよう。この時期のウィーンアートは、精神を刺激するものが多い。
同じく死の年に描いたアンディーブの城砦と海。色も線もとても美しいけれど、地中海とは思えない色使い。最初に見たカシの風景画と、距離は近いのに、二十年という年月を経てなんという違い・・・。ニコラ・ド=スタールの決して穏やかではなかった一生を振り返ってしまう。
期待通りの大充実展覧会をたっぷり満喫。絶対もう一度こよう。
Arteでドキュメンタリーやってたそう。配信終わっちゃう前に見なくちゃ。
2024年1月再訪時の様子はこちら。写真たくさんあります。
編集部より:この記事は加納雪乃さんのブログ「パリのおいしい日々5」2023年12月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「パリのおいしい日々5」をご覧ください。