ロシアはカラ=ムルザ氏を釈放すべきだ

ロシアの著名な反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が収監先の刑務所で死去して23日で1週間が過ぎた。その間、ナワリヌイ氏の母親リュドミラさんは22日ようやく息子の遺体に対面できた。リュドミラさんの説明によると、ロシア当局はナワリヌイ氏の密葬を要求したという。遺体が家族の手に渡れば、多くの国民が告別式に参加することをクレムリンが恐れているからだ、といわれている。一方、夫の遺志を継承してロシアの民主化運動を推進していくと発表したナワリヌイ氏の妻、ユリア夫人は22日、訪問先の米サンフランシスコでバイデン米大統領と面会し、夫の遺志を改めて伝えている。以上、ナワリヌイ氏の死去後の1週間の主要な動きだ。

ロシアのジャーナリスト、ウラジーミル・カラムルザ氏 Wikipediaより

ロシアの政情は今、3月17日の大統領選にその焦点が集まっている。大統領選では通算5期目を狙うプーチン大統領の当選は既成事実だ。プーチン氏の勝利を脅かす対抗候補者はいないからだ。焦点は投票率だろう。

ところで、欧米諸国は、ロシア反体制派ジャーナリストがナワリヌイ氏と同じようにシベリアの流刑地で25年の懲役刑で服役していることを忘れてはならない。このコラム欄でも一度紹介したロシア系英国人の反政府活動家ウラジーミル・カラ=ムルザ氏(42)だ。同氏はナワリヌイ氏の死後、同胞たちを激励し、「アレクセイが言っていたように、諦めてはならない。私たちが憂鬱と絶望に屈するなら、それはクレムリンが望んでいることだ」と語り、ナワリヌイ氏の死後、ロシアの民主化運動を継続していく意向を表明している(「ロシアの『報道の自由』は消滅した」2023年4月20日参考)。

プーチン大統領が2022年2月24日、ロシア軍をウクライナに侵攻させた時、これは戦争ではなく「特別軍事行動」と称し、戦争と呼んだ人物は刑に処されると語ったが、カラ=ムルザ氏は、「わが国の軍が隣国を侵略し、戦争を行っている」と述べ、CNNとのインタビューでは「ロシアは殺人者の政権だ」と厳しく批判したため、逮捕された。そして2023年4月の非公開裁判で、「ロシア軍に関する誤った情報を広め、望ましくない組織と関係を持っている」として懲役25年の有罪判決を受けた。ロシアの裁判所では、判決と量刑を言い渡すまで長い時間がかかるが、この日はわずか数分で裁判官が判決を下している。

カラ=ムルザ氏は、「犯罪者はその行為で罪を償わなければならないが、私は政治的見解のために刑務所にいる。モスクワの裁判は1930年代のスターリンの見世物裁判のようだ。自分が言ったり、書いたことはすべて事実であり、それを誇りに思っている」と述べている。

なお、彼の弁護士によると、懲役25年は、プーチン大統領を批判した人物に対する、知られている限り最長の懲役刑だ。同氏はプーチン大統領の最も厳しい批評家の1人と考えられている。彼は長年、クレムリンに対する西側の制裁を求める運動を行っていた。同氏はナワリヌイ氏や、2015年2月に殺害された野党政治家のボリス・ネムツォフ氏(当時56)と親しかった。家族と弁護士によると、カラ=ムルザ氏は過去2度、2015年と17年に毒殺未遂により神経疾患の多発性神経障害を患っているという。

カラ=ムルザ氏の妻、エフゲニヤさんはオーストリア国営放送とのインタビューの中で、「彼も亡くなったナワリヌイ氏と同様、モスクワに戻れば生命の危険があることを知っていたが、ロシアに帰国した。彼はロシアは本来もっと良くなるべき国だ、と信じていたからだ」と証している。

BBCは2023年4月18日、「カラ=ムルザ氏は、ソ連時代の有名な反体制派の家庭の出身。父親のウラジーミル・シニアもクレムリンを批判していた。10代で母親とイギリスに渡り、英国籍を取得。ケンブリッジ大学に進んだ。ジャーナリズム界で働いた後、ロシアの著名な反体制派指導者で政治家のボリス・ネムツォフ氏の顧問になった。ネムツォフ氏は2015年、モスクワで暗殺された。カラ=ムルザ氏自身も2度にわたって毒殺されかけ、回復のため家族とともにアメリカに移住した。その後、ロシアに戻り、同国のウクライナ侵攻後は身の危険が高まったが、ロシアにとどまり続けた」と報じている。

なお、エフゲニヤ夫人はBBCの取材に対し、「私は彼の信じられないほどの誠実さを愛するとともに憎んでいる。彼は(戦争反対を訴えて)街頭に出て逮捕された人たちと一緒にいなければならなかった」と述べている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。