ウクライナ人記者たちの「2年間」

ロシアのプーチン大統領が軍をウクライナに侵攻させて今月24日でまる2年が経過し、ロシアとウクライナ両国の戦争は3年目に入った。侵略者のプーチン大統領ばかりか、ウクライナ国民にとっても戦争が3年目に入るとは予想していなかったはずだ。

ロシアとの戦争2年目の24日、国民に向かって演説するゼレンスキー大統領(ウクライナ大統領府公式サイトから、2024年2月24日)

「いかに必要であろうと、いかに正当化できようとも、戦争が犯罪だということを忘れてはいけない」と語った米小説家ヘミングウェイの言葉を思い出す。どれだけ多くの命が失われ、莫大な被害と犠牲が過去730日間の戦闘で払われてきたことであろうか。特に、ウクライナ国民にとってはその思いが強いはずだ。22年2月24日を期して、これまでの日常生活は急変し、家庭はバラバラになり、人生そのものが激変していった。ウィーンに避難してきたウクライナの女性や子供たちの困惑した表情を見るのにつけ、そのように痛感せざるを得ない。

ウィーンに事務局を置く国際新聞編集者協会(IPI)から週刊ニュースレターが届いた。欧州連合(EU)加盟国における報道とメディアの自由の侵害を追跡、監視し、対応するヨーロッパ全体のメカニズム「報道の自由迅速対応」(MFRR)は、「ウクライナのジャーナリストとの連帯を再確認し、彼らの安全と報道の完全な自由の保証と、ジャーナリストが活動を続けるために必要な財政的および技術的支援を提供する新たな取り組みを求める。ウクライナのジャーナリストたちは過去2年間、しばしば多大な個人的犠牲を払いながらも、地域社会と外の世界のためにこの戦争の恐怖を報道する中で、信じられないほどの勇気と回復力を示してきた。私たちは、ロシア軍による安全の脅威や戦争によってもたらされた経済危機に対処するために、ウクライナのメディアに対する国際支援の継続を求める。我々は、ロシアに対し、国際人道法を遵守し、ジャーナリストに対するあらゆる攻撃を自制するとともに、ロシア軍がそのような攻撃に関与している数多くの事件を調査するよう繰り返し要求する」と主張している。

IPIによると、現在までに少なくとも11人のメディア関係者が殉職し、34人が取材中に負傷したという。「戦争を取材するジャーナリストに対する直接攻撃の数は、昨年は減少したが、前線のジャーナリストは引き続き大きなリスクに直面している。昨年は戦争取材中に少なくとも12人のジャーナリストが負傷した」という。

IPIが管理する「ウクライナ戦争報道自由追跡調査」には、ウクライナでのメディアに対する攻撃件数は404件記録されており、その大部分はロシア軍またはロシア占領当局によって行われたものだ。ウクライナのメディアは頻繁にサイバー攻撃にさらされており、戦争に関する報道が妨げられている。また、占領下のウクライナ領土で働いていた少なくとも17人のジャーナリストがロシアに投獄されたままだ。

ウクライナ人ジャーナリストが直面している安全上の脅威の大半はロシア当局に責任があるが、MFRRの監視は、ウクライナ人ジャーナリストが国内で活動を続ける中で、国内関係者による障害にも直面しているという。例えば、2023年、ウクライナ当局が情報提供を拒否したり、ジャーナリストの活動を妨害したりする事件が31件記録されており、そのほとんどが戦争を言い訳になっているという。

ジャーナリストもまた、「愛国心の欠如」を理由に他の関係者から嫌がらせや脅迫を受けることが増えている。著名な調査記者ユーリ・ニコロフ氏は最近、自宅で見知らぬ人物から嫌がらせを受け、ニコロフ氏が兵役を逃れていると非難されたりしている。

ウクライナ治安局(SBU)の関係者らは、調査機関Bihus.infoのジャーナリストに対して組織的な監視を行い、ジャーナリストの信用を傷つけようとしているというのだ。

ウクライナのメディアは依然として悲惨な状況にある。ロシアの本格的な侵略が始まって以来、同国の広告市場は3分の2減少し、巨額の収入減につながっている。MFRRは、「国際社会と特に欧州の利害関係者に対し、ウクライナメディアへの長期財政支援への取り組みを新たに拡大すべきだ。継続的な支援がなければ、ウクライナのメディアは戦争の状況を世界に伝え続けることができなくなり、多くのジャーナリストが払った犠牲は無駄になってしまう」と警告を発している。

以上、IPIのニュースレターからその概要を引用した。

戦時下のウクライナでジャーナリストが直面する困難さは通常のジャーナルストでは想像できないものがあるだろう。彼らが世界に向かって発信する情報がなければロシア軍の戦争犯罪の全容を掌握できない。戦場で命がけの取材活動する多数のウクライナ人ジャーナリストたちの健闘と安全を祈らざるを得ない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。