衆議院の政倫審を巡り、与野党の攻防が続いています。公開されるのか完全非公開なのか? 政倫審は原則的には非公開ですが、今回の一件に関しては国民の関心が高いので堂々とフルオープンで臨めばいいと思います。
今回は議員特権について解説してみます。
議員報酬をめぐる議論はなぜすすまない
議員特権を巡っては、これまでも国会議員の「第2の給与」とも呼ばれる、月額100万円の「文書通信交通滞在費(文通費)」が問題視されてきました。
しかし、名称が「調査研究広報滞在費」に変更され使途の範囲も拡大されることになりました。「使途の明確化や情報公開」など重要な論点は先送りされています。国民の血税が活動の原資となっている国会議員は、自分たちの襟を正すことを考えなくてはならないはずです。
日本の国会議員は世界最高水準の歳費を受け取っていると言われています。世界的にどの程度のランクにあるのか調べてみます。
議員報酬ランキング上位10位を紹介します。調査時期(2019年)は1ドル=110円であることから同水準で算出しました。(出典:「This is what politicians get paid around the world」)
【議員報酬額上位10位】
1位 | シンガポール | 88万8428ドル(約9772万円) |
2位 | ナイジェリア | 48万0000ドル(約5280万円) |
3位 | 日本 | 27万4000ドル(約3014万円) |
4位 | ニュージーランド | 19万6300ドル(2159万円) |
5位 | アメリカ | 17万4000ドル(1914万円) |
6位 | オーストラリア | 14万1300ドル(1554万円) |
7位 | イタリア | 14万3352ドル(1576万円) |
8位 | ドイツ | 13万3279ドル(1466万円) |
9位 | カナダ | 13万0710ドル(1437万円) |
10位 | オーストリア | 11万7903ドル(1296万円) |
次に各国の国会議員数を調べてみました。上位10位は上記のとおりです。(出典:IPU(Inter-Parliamentary Union))
【国会議員数】
1位 | 中国 | 2975人 |
2位 | イギリス | 1425人 |
3位 | イタリア | 949人 |
4位 | フランス | 925人 |
5位 | エジプト | 892人 |
6位 | ドイツ | 807人 |
7位 | インド | 779人 |
8位 | タイ | 737人 |
9位 | 日本 | 707人 |
10位 | 北朝鮮 | 687人 |
国会議員は国民平均年収の何倍の報酬を得ているか算出しました。各国の数字はOECDのデータを元にしています。シンガポール、ナイジェリアの比率が突出しています。しかし、OECD加盟国(38カ国)を対象にすると日本が1位になります。(出典:OECD)
【議員報酬と国民平均年収比較】(単位:国民平均年収/議員報酬 ÷ 国民平均年収)
1位 | シンガポール(370万円/26倍) |
2位 | ナイジェリア(240万円/22倍) |
3位 | 日本(418万円/7.2倍) |
4位 | ニュージーランド(425万円/5.0倍) |
5位 | イタリア(348万円/4.5倍) |
6位 | アメリカ(625万円/3.0倍) |
6位 | ドイツ(483万円/3.0倍) |
8位 | カナダ(82万円/2.9倍) |
9位 | オーストラリア(596万円/2.6倍) |
10位 | オーストリア(504万円/2.5倍) |
手当を含めると日本は何位?
日本の国会議員には多くの手当があります。
調査研究広報滞在費(旧文通費)が毎月100万円、期末手当(賞与)が年額635万円、立法事務費などの必要経費が月額65万円、JR特殊乗車券・国内定期航空券の交付や、3人分の公設秘書給与や委員会で必要な旅費、経費、手当て、弔慰金などが支払われます。
また、政党交付金の一部が、各議員に支給されます。1人あたりいくらかかるのか計算してみましょう。
- 基本給:1552万8000円(月額129万4000円)
- 期末手当:635万円
- 文書通信費:1200万円(月額100万円)
- 立法事務費:780万円(月額65万円)
- JR特殊乗車券、国内定期航空券:北海道選出の議員であれば羽田⇔新千歳(ファーストクラスなら往復10万円×月4回×12カ月=480万円)となる
- 秘書給与:2100万円(政策秘書900万円、第一秘書700万円、第二秘書500万円と仮定)
- 政党からの支給:0~1000万円程度。
合計:6000万~7000万円程度と推測
ちなみに、国内定期航空券があれば、ファーストクラスを利用することができます。
「国民の税金でファーストクラスに乗ることなどできない」という議員はエコノミーを利用するかもしれませんが、まず存在しないでしょう。
政党からは役職に応じて黒塗りのVIP車もあてがわれます。秘書3人を雇用し、かかる費用も国から支給されます。秘書給与に関する費用は年間2000万~3000万円ともいわれています。
議員会館の賃料は無料、議員宿舎には格安で居住することができます。2014年に賃料引き上げを行いましたが、周辺相場の2割程度で借りることができます。
24時間体制の警備がほどこされセキュリティは万全です。部屋から緊急通報のボタンを押せば秒速でスタッフが駆けつけます。
毎回先延ばしになる議論
調査研究広報滞在費(旧文通費)をめぐる問題の本質は日割りや名称を変更することではありません。「報告・領収書提出義務」がないことです。
「使途の明確化や情報公開」など、重要な要点はいつも触れられずに先送りされています。与野党ともに曖昧に決着をつけようとする姿勢が強く見受けられます。これは、非常に残念なことです。
議員は国の代表ですから、相応の報酬があることはもちろん理解できます。しかし、税金によって支払われる以上、議員の仕事に見合うかどうかを国民1人ひとりが注視しなければなりません。やはり、旨味がありすぎてやめられない味なのでしょうか。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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