“ファクターX”が失われた原因は?

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コロナウイルスの流行初期には、日本は感染者や死亡数が少なく、“ファクターX”と呼ばれる日本人特有の未知の要因が存在すると言われていた。図1は、世界6か国における人口100万人あたりのコロナによる死亡数を図示したものである。

日本のみならずアジア3カ国の死亡数は、流行初期の2020年には、米国や英国の100分の1以下であったが、ワクチン接種を開始したところ、2022年の後半になると、日本と米英の死亡数は逆転している。

図1 人口100万人あたりのコロナウイルス感染による死亡数の推移
Our World in Data

政府・分科会会長としてわが国のコロナ対策を主導した尾身会長は、著書の中で、わが国の死亡数が、2022年に増加した理由を、次のように説明している。

2022年には、感染力が極めて強いオミクロン株が主流となり感染制御が困難になった。さらに、感染対策を緩めたため高齢者を中心に死亡数が増加した。今後も死亡数は増えると予想されるが、これまでのところは比較的低く抑えられている。

2022年に流行した株は世界共通であり、欧米では感染対策をいち早く緩めている。欧米では死亡数が減少したのに、日本の死亡数が2022年の後半になって激増した理由については、尾身会長の説明では納得し難い。

図1を見ると、日本、台湾、ベトナムにおけるコロナの感染者や死亡数が、米英と比較して極めて少数であったが、ワクチン接種開始後は共通して増加している。3カ国のワクチン接種回数は米英を凌いでおり、ワクチンを打つほどコロナに感染し易くなることを示す研究も報告されている。

ワクチンを打つほどコロナに罹りやすくなる直接的な証拠

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2023年になっても、コロナの流行が収束する気配は見えない。図1に示すように、わが国における100人あたりのコロナワクチンの追加接種回数は、世界でもダントツである。 多くの国では、昨年の初めから、ワクチンの接種回数は頭打ちであ...

そこで、ファクターXが失われた理由を、ワクチン接種にある可能性を考え、世界各国におけるワクチン接種回数と感染者、死亡数との関係を検討した。

表1には、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、南米の各12カ国におけるワクチン接種回数、ウイルス検査回数、感染者数、死亡数、超過死亡を示す。検討期間は、ワクチン接種が始まった2020年12月1日から2023年4月30日までとした。図2に示すように4大陸間で、感染者数と死亡数に大きな差が見られる。

表1-1 ヨーロッパにおけるワクチン接種回数とコロナ感染者、死亡数
Our World in Data、Worldometer

表1-2 アジアにおけるワクチン接種回数とコロナ感染者、死亡数
Our World in Data、Worldometer

表1-3 アフリカにおけるワクチン接種回数とコロナ感染者、死亡数
Our World in Data、Worldometer

表1-4 南米におけるワクチン接種回数とコロナ感染者、死亡数
Our World in Data、Worldometer

図2 4大陸間におけるコロナ感染者、死亡数の比較
Worldometer

しかし、コロナ感染者数や死亡数はウイルス検査回数に大きく影響される。実際、今回検討した48カ国のデータを用いて、ウイルス検査回数と死亡数との相関を検討したところ、正の相関が見られた。検査回数が少ない国では、実際はコロナ感染死であっても、コロナによる死亡と診断されずに、死亡数が少なく報告されている可能性がある。

そこで、より実態を反映していると考えられる超過死亡を検討した。ワクチンの接種回数と超過死亡には相関は見られず、少なくとも、ワクチン接種を増すことで超過死亡が減少することはなかった(図3)。

図3 ワクチン接種回数と超過死亡

感染者や死亡数と同様に、ワクチンの接種回数やウイルス検査回数も4大陸間で大きな差が見られた。

ヨーロッパ諸国は、ワクチンの接種回数、ウイルス検査回数はともに多く、アフリカ諸国はともに少ない。アジア諸国は、ウイルス検査回数は少ないがワクチン接種回数は多い。日本は、ワクチンの接種回数は48カ国中3番目であるが、ウイルス検査回数は26番目であった。南米は、ワクチン接種回数やウイルス検査回数の多い国と少ない国が混在していた。

そこで、ワクチンの接種回数と感染者数、死亡数の関係を検討するにあたって、48カ国を合わせて検討するのは困難と考え、アジア12カ国を対象に検討した。

図4にはアジア12カ国におけるワクチン接種回数と感染者数、死亡数との関係を示す。

図4 アジア諸国におけるワクチン接種回数と感染者数、死亡数

ワクチン接種回数と感染者数、死亡数とにはそれぞれ相関係数0.75、0.44と正の相関が見られた。すなわち、ワクチンをたくさん打った国の方が、感染者や死亡数が多いことを示している。日本は、ヨーロッパのどの国よりもワクチン接種回数が多く、アジア諸国の中でもトップである。

今回の検討は、2023年4月30日までであるが、日本はその後も6回目、7回目と追加接種を進めている世界で唯一の国である。

2020年に存在したファクターXが失われた理由は、その後のワクチン接種である可能性が示された。今回の検討は、世界各国間におけるワクチンの接種回数と感染者数、死亡数の関係から得られた結果である。今回の結果を確認するには、日本人におけるワクチン接種回数と感染者数、死亡数との関係を検討する必要がある。

2022年8月までは、厚労省からワクチンの接種回数と感染率との関係を示すデータが公開されていた(表2)。

表2 ワクチン接種歴別の新規陽性者数(2022年8月1日〜8月7日)
2022年8月18日第95回アドバイザリーボード資料

この時点ですでに、ワクチンを2回接種すると未接種者よりもコロナに感染しやすくなることが示されている。

翌月からは、データの公開は中止された。それから、すでに1年半経過し、ワクチンの接種も7回と回を重ねている。日本のワクチン行政を検証するにあたって、ワクチン未接種者と接種者における感染率と死亡率を比較したデータは必須であるが、残念ながら公開されていない。