1. 労働生産性の定義
前回は労働生産性の要因分解についてご紹介しました。
1970年代の高成長が、日本だけでなくイギリスやイタリアでも起こっていたのは大変興味深い傾向でした。
OECDで計算されている労働生産性(労働時間あたりGDP)は、以下の式となります。
労働時間あたりGDP = GDP ÷ 労働者数 ÷ 平均労働時間
OECDの労働者(Employment)とは、雇用者(Employee)に個人事業主(Self-employed)を加えたものです。
日本の統計では、内閣府 国民経済計算の就業者に相当すると考えられます。
また、平均労働時間は労働者(就業者)全体の平均労働時間です。OECDの生産性のデータ(Level of GDP per capita and productivity)では、しっかりと労働者の平均労働時間が掲載されています。
この労働者の平均労働時間は一体何に相当するのでしょうか?
今回は、OECDの労働生産性に用いられる労働者数と平均労働時間が、日本の統計データのどの部分と合致するのかを確認してみたいと思います。重箱の隅をつつくような内容ですので、読み飛ばしていただいても結構です。
2. 労働者数
まずは確認しやすい労働者数のデータから見てみましょう。
図1は、OECDで公開されている労働者数(Total employment)と、内閣府の国民経済計算で公開されている就業者数を重ね合わせたグラフです。内閣府のデータは、1993年で1993SNAから2008SNAに基準が変わっています。
両者がほぼぴったりと一致している事が確認できますね。特に、2008SNAとなる1994年以降は完全に一致しています。
OECDの労働者数は、内閣府の就業者数という事になります。
また、OECDの労働者数は、次の2つの項目でも一致しています。
- Level of GDP per capita and productivityのうち、Total employment(Number of person employed)
- Population and employment by main activityのうち、Total employment, domestic concept
3. 平均労働時間
つづいて、平均労働時間(Average hours worked per person employed)についてです。
まずは、主要先進国の推移を見てみましょう。
図2がOECDで公開されている労働者の平均労働時間です。
日本はバブル崩壊までは2000時間を超えていて、他の主要先進国と比較するとかなり長い労働時間だったことがわかります。その後徐々に減少していき、近年ではアメリカ、イタリア、カナダやOECDの平均値を下回ります。
ただし、ドイツやイギリス、フランスは更に平均労働時間が短くなりますね。この平均労働時間にはパートタイム労働者も含まれますので、パートタイム雇用率が高くなれば平均労働時間も短くなりやすい状況です。
各国のパートタイム雇用率は記事をご参照ください。(参考記事: 日本はパートタイムが多い?)
日本はサービス残業が未だに多いと言われていて、統計データでは補足できない労働時間も多そうです。一方で、残業時間が減っている仕事も増えていそうですね。
この労働者(=就業者)の平均労働時間はどこから出てきたのでしょうか?
日本で平均労働時間を集計している統計は、雇用者に関しては内閣府の国民経済計算、企業規模別の労働者に関しては毎月勤労統計調査があります。
それぞれの平均労働時間を、OECDのデータと重ねてみましょう。
図3が日本の平均労働時間のグラフです。
青:OECDで公開されている労働者(就業者)の平均労働時間
橙:国民経済計算の雇用者の平均労働時間
緑:毎月勤労統計調査の5人以上の事業所の平均労働時間
赤:毎月勤労統計調査の30人以上の事業所の平均労働時間
(2024年2月より、国民経済計算にて就業者の平均労働時間が公開されるようになったので追加しています。)
それぞれかなり近い推移となりますが、労働者数のようにぴったりとは一致しません。
1993年あたりまでは、国民経済計算の雇用者の平均労働時間が近い水準ですが、1994年以降で乖離があります。それよりも、毎月勤労統計調査の5人以上の事業所の平均労働時間の方が近い水準となりますね。
ただし、5人以上の事業所のデータは1990年以降しか集計されていません。
いずれにしても、雇用者の平均労働時間と労働者の平均労働時間はかなり近い水準で扱われている事になりそうです。
4. 労働者数と平均労働時間
今回は、OECDの生産性の計算に用いられる労働者数と平均労働時間について、日本の統計データとの関連を確認してみました。
労働者数は、雇用者数+個人事業主=就業者数として間違いなさそうです。
一方で、平均労働時間は、雇用者の平均労働時間で代表させているようにも見えますが、若干の調整がされているようにも見えます。
2024年より国民経済計算では就業者の平均労働時間が公開されていますが、OECDの数値とは乖離があります。
今後、OECDのデータが修正される可能性もあるかもしれませんね。その場合、時間あたりの生産性としては数%程度下方修正されるかもしれません。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。