【訂正】公明党はなぜ後期高齢者の9割引医療を守るのか

維新の後期高齢者医療費3割負担の提案に対して、他の党は与野党ともに沈黙を守っているが、公明党が初めてコメントした。

いま3割負担にしないと将来の現役世代は5割負担になる

この投稿が200万回以上表示されて1000以上のコメント・引用がついているが、ほとんどがこんな感じだ。

まさか公明党の幹部が、医療保険が賦課方式であることを知らないはずはあるまい。これは今年の保険料を今年の医療給付で使い切ってしまう制度だから、今年の窓口負担と将来世代の老後の負担は無関係である。

9割引医療で医療資源が浪費される

今の9割引医療を続けると、過剰医療で医療資源が浪費される。かつて老人医療の無料化で日本の病床数が世界最高になったように、寝かせておくだけでもうかる老人がベッドを占拠し、病院が老人ホームになってしまうのだ。

その膨張した医療費を負担するのは、ますます人数の減る現役世代である。彼らが老人医療費を支給される立場になったとき、次の図のように医療・介護のコストは今後15年で30兆円も増え、94兆円になる。その6割が老人医療費(65歳以上)である。今は医療+介護で63兆円のうち老人医療費が約40兆円である。。

厚労省の資料

健康保険料の半分は老人医療費に支援金として仕送りされているが、2040年には老人医療費・介護費が60兆円に激増する。おまけに分母の生産年齢人口が1000万人減って6000万人になるので、支援金も激増する。

現役世代一人当たりの老人医療費の保険料負担は現在の60万円から2040年度には100万円になる。そんな状況で、9割引医療が守れるはずがない。3割負担でも無理だ。将来の窓口負担は5割を超えるだろう。

3割負担の目的は受診抑制

それを防ぐ対策も明らかだ。今のうちに窓口負担を増やし、過剰医療に歯止めをかけるしかない。一律3割負担にする最大の目的は負担増ではなく、受診抑制なのだ。

これについて厚労省はいまだに「受診抑制は望ましくない」という立場だが、受診抑制による健康への悪影響はほとんどないというのがオレゴン医療保険実験の結果である。

オレゴン医療保険実験の結果

もう時間は残されていない。団塊の世代が後期高齢者になる2025年までに3割負担を実現し、過剰医療をなくさないと、現役世代の保険料負担も窓口負担も加速度的に増える。

公明党は後期高齢者の党

ところが2020年に後期高齢者の窓口負担を引き上げたときも、公明党は2割負担に最後まで反対し、年収200万円以上に限定した。この成果を全国の公明党地方議員が支持者に報告した。

このとき厚労省は年収155万円以上を2割負担とする案を出したが、公明党は240万円以上を主張した。菅首相は170万円まで譲歩したが、公明党がねばり、結果的に200万円で合意し、2割負担の対象は23%に減った。公明党は、年収240万円以下の厚生年金受給者を丸ごと1割負担にしようとしたのだ。

その理由は明白である。公明党の支持母体である創価学会の会員は、高度成長期に地方から出てきた中卒労働者が多い。彼らは団塊の世代より上で、今は80代になり、まさに9割引医療の受益者なのだ。

しかし彼らも後期高齢者になり、党勢は衰退する一方だ。そこで自民党が170万円と決めたあとで首相とのトップ会談を開催し、公明党が限度額を200万円まで引き上げたとコア支持層にアピールしたわけだ。

問題は公明党だけではない。自民党はおろか、維新以外の野党もみんな3割負担に沈黙している。このままでは社会保障が破綻することはわかっているが、それより老人票が大事なのだ。こういう党に現役世代が鉄槌を下すチャンスは選挙しかない。

【追記】社会保障給付の見通しの計算ミスを訂正した。