岸田文雄首相はそんなにだめなのか?:聞くチカラを行動力に転じていた首相

あらかじめお断りしますが、私が岸田氏を応援しているとか、嫌いとかいった感情は抜きにして今日のストーリーを展開していきますのでその点、ご了承願います。

もしも何年後かに「岸田首相はなぜあんなに不人気だったのだろう?」という議論があった場合、どんな理由があるのだろうと考えてみたことがあります。巷でいわれる理由が必ずしもしっくりこないのです。岸田氏が首相になった当初、聞くチカラが売りでしたが聞く一方で岸田色が出てこない、というイライラを感じたこともありました。ですが、徐々に岸田氏は聞くチカラを蓄えて自らの行動力に転じていたことを割と見過ごしているように思えるのです。

石川県アンテナショップ「八重洲いしかわテラス」オープン記念式典で永井豪氏から説明を受ける岸田総理 首相官邸HPより

先日、岸田首相の在任期間が田中角栄氏の886日に並ぶという日に「毎日毎日の積み重ねであるので在任期間の長さについては特段申し上げることはない」と淡淡と述べていたのが印象的でした。この毎日の積み重ねができる人は勉強したり何かに打ち込んだり、ビジネスをしたりする人には最も好まれる姿勢でありますが、政治家も当然ながらコツコツと積み上げることは重要です。

アメリカの大統領選でトランプ氏がなぜこれほど人気があるのか、という解説で3つのキーワードが上がっていました。物価高不満、特に海外などへのお金のバラマキ、移民問題だそうです。移民問題についてはアメリカとメキシコの国境を自衛するトランプ親衛隊もいるようです。それはともかく、この3つの問題にはすべて共通点があるのです。それは国民が国内目線で感じている点です。以前から何度も言っているように外交は選挙のネタにならないのです。国民は外国のことより今日や明日の飯のことが重要なのです。

これを日本の今の状態と照らし合わせてみましょう。物価は上がったとはいえ、欧米とは比較できないほど落ち着いています。また、ここにきて値下げに転じるアイテムも出てきており、物価は総じて相対的に見れば世界でも最もコントロールされているといって過言はないと思います。

経済はどうでしょうか?今年の春闘は今週集中回答日となりますが、昨年を上回る感じになりそうだというが現在の感触。また、この流れは中小企業にも広がる様子も見せています。以前にも書きましたが、最低時給も上がっていますが、場所により相当のプレミアムを付けないと人が集まらないという事態が続いており、賃金の底上げは比較的広範囲で展開されつつあるとみています。

ではなぜ、人は景気が悪いというのでしょうか?まず、それが口癖であることが日本人の性格である点はあるでしょう。それと社会の変化に対して自分の立ち位置を変えられなかった方がその不満をぶつけるからでしょう。特に日本は歴史的に「文句はお上に言え」です。きちんと努力している大半の方からすればそこまで景気が悪いという感じは街角景気の色合いからはやや違うのではないかと思います。

株価はご承知の通り史上最高値を付けました。実感がないというのは指数相場であることもありますが、そもそも株を買っている人はごく限られた方だけで過去30数年、株でだまされたと思っている人にとっては「オオカミ少年」ならぬ「見せかけの株価」ぐらいに思っているからでしょう。また、若い方で金銭感覚が非常に繊細な方々は株のように下がるリスクがあると競馬やばくちと同じ感覚になる方もいらっしゃいます。しかし「買わない宝くじは当たらない、買わない株では儲からない」と私は強く申し上げます。

経済の実態がよければ政権にはプラスの風が吹くのです。これはほぼセオリーといってよいのです。その点からすれば岸田氏の支持率が下がる一方であるのが不思議なのです。私はひょっとすると集団心理がそうさせているのではないかと思っています。つまり、岸田=ダメ首相=財務省のポチ=低人気=次はないという方程式です。誰も岸田氏を再評価しようとしていないのです。

なぜダメ評価を食らったのでしょうか?人事が悪かったことはあります。しかし、今回の裏金問題まで含め、それは岸田氏が悪いというより皆さんの大好きな自民党がそういう体質なのです。以前「自民党は腐っている」と申し上げたことがありますが、数ある議員の中からまだ汚染されていない部分を切り分ければ若手にはまだ有望株がいるでしょう。ただ、閣僚にはヒエラルキーの階段があり、これも昭和の風通しなのでしょう。例えて言うなら名門の体育会系のOBOG会のようなものです。もっとも自民党和歌山県議連の行動は阿呆の一言でしたが。

増税メガネともいわれますが、安倍さんは2度、消費税を上げているのです。たぶん、安倍さんには声を上げにくいけれど岸田さんには好き勝手言えるという大衆的なイメージがある気がします。私が岸田氏が就任直後、長くなる、と申し上げたのは「お上」のイメージではなく「そのあたりの居酒屋でワイシャツを腕まくりして飲んでいるのが似合う方」なのです。

最近の日経ビジネスの記事に与野党の一部の声として「岸田政権は低空飛行で続きそうだとの声がある」と報じています。詳細は記事に譲りますが、「岸田-麻生-茂木ライン」が崩れ、「岸田ー森山-浜田の首相官邸国対ライン」へのシフトがポイントです。最近、タブロイド系の記事では次期総裁は誰か、という話題が時折出始めていますが、5人も10人も候補の名前があるので岸田氏の線はないという話がそもそも間違っているのです。団栗の背比べで誰もこれという決め手の人がいないとみるべきで、それを言い換えれば岸田氏が案外有利という論理になります。

個人的には岸田氏はオネスト(正直)だと思います。行動力がないといわれていますが、そんなことはないでしょう。ウクライナにも行ったし、広島サミットも成功裏に収めました。派閥解散も政倫審にも自らの判断で動きました。自民党内では岸田氏への怨嗟の声があるという話も聞きますが、私は今、自民党の浄化作戦が進んでいるのだと考えています。しょうもない議員を振り落とす、それをするには案外岸田氏が最適任であるようにすら思えるのです。

あの薄ら笑いは余裕の笑いに見えます。一部の岸田嫌いのコメンテーター達はぼろくそに放言しているし、このブログをお読みの方はムカついている方も多いと思います。しかし見方はいろいろあるので、もう少しフラットな目線でいたいところです。私は秋の総裁選挙は案外見ものだと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年3月11日の記事より転載させていただきました。