このところ、連日、有名人の訃報が報道されている。個人的にも、昨年末に届いた喪中葉書は例年になく多かった。
わが国の超過死亡の推移を、国立感染症研究所(感染研)が報告しているが、2022年まで観察された超過死亡が、2023年には一転してみられなくなった(図1)。ところが、人口動態の速報値によると、2023年の年間死亡数は、1,590,503人で2022年の1,582,033人と比較して減ってはいない。
わが国では、過去5年間の死亡数をもとにした予測死亡数との対比で、超過死亡数が計算されている。著者は、死亡数が増加した2021年や2022年を含めたことで、予測死亡数が嵩上げされた可能性について言及したことがある。
欧州連合統計局(Eurostat)では、2020年から2023年の超過死亡数を、コロナが流行する以前の2016年から2019年の月別死亡数の平均値との差で算出している。各国間の超過死亡数を比較するにあたっては、感染研の発表よりこの方が便利なので、筆者は、Eurostatの方法に倣って、日本の超過死亡を計算している。
OECD統計局(OECD.Stat)も、2020年から2023年における加盟国の超過死亡数を公表しているが、Eurostatと同様に、2015年から2019年の週別死亡数の平均値との差を超過死亡数としている。
図2は、フランス、ドイツ、英国、米国に日本を加えた超過死亡数とコロナ感染死亡数を示す。米国の超過死亡数については、2023年9月第2週までの数値しか記載されていないので、他の国も2023年については、9月第2週までの数値である。日本の超過死亡はOECD.Staの発表する一覧表には含まれていないので、著者が計算した値を用いた。
日本の超過死亡数は、すでに人口動態速報値によって、2023年までの年間超過死亡数を計算することができる。2020年は、30,741人、2021年は97,902人、2022年は226,967人、2023年は248,596人で4年間の累計は604,206人に達する。感染研からの発表と異なり、2023年は、2022年に比較して、さらに増えている。
2020年の欧米諸国における超過死亡数は、日本の超過死亡数を凌ぎ、米国の超過死亡数は実に日本の20倍に達する。また、2020年、2021年のヨーロッパ諸国におけるコロナ死亡数は、超過死亡数を凌いでおり、この時期の超過死亡はほとんどがコロナ関連死によるものである。米国でも、2020年、2021年におけるコロナ死亡数は超過死亡数の64%、74%を占め、ヨーロッパと同様に超過死亡の多くはコロナ関連死によると思われる。
日本の超過死亡数は、2020年は5カ国のなかで最も少なかったが、2021年以降になると激増し、2023年には米国の超過死亡数を上回っている。図3は、2023年における人口100万人あたりの超過死亡数を示すが、日本の超過死亡数は、米国の3倍、フランスの5倍に達する。
欧米諸国では、2020年、2021年の超過死亡の多くはコロナ関連死によるものであるが、コロナの流行も収束に向かい、コロナ関連死も減少した2023年においても、超過死亡がみられるのはなぜであろうか。
図4は、2023年の超過死亡のうち、コロナ感染死者数の占める割合を示す。欧米諸国は超過死亡のなかで、コロナ関連死の占める割合は30%〜40%であるが、日本はわずか10%である。2023年になると他の国の超過死亡は減少しているのに、わが国のみ超過死亡数が増加していることを考えると、コロナの流行では説明できない要因が、わが国の超過死亡を増加させていると考えられる。
英国では、2022年7月以降、高齢者ではなく、小児を含めた現役世代の超過死亡の増加が問題となっている。
図5は、米国における0〜44歳、45〜64歳、65歳以上の各年齢層における超過死亡数の推移を示す。2022年までは、超過死亡の多くは高齢者の死亡で占められていたが、2023年になると、英国と同じく、超過死亡の32%は、44歳以下の小児と若年成人によるものであった。
感染研の発表からは、超過死亡は、わが国ではあたかも過去の問題になったかのような印象を受ける。感染研の発表を受けて、大手メデイアは、一斉に、2023年に入ってから超過死亡が見られなくなったと報道している。なかでも、NHKの報道では、超過死亡を分析した東京大学、橋爪真弘教授が以下のコメントを加えている。
超過死亡がみられなくなったのは、2023年には超過死亡として現れるほど多くの人が、例年と比較して亡くなっていないことを意味する。ワクチンの影響については、接種後に亡くなる人が増えていないか詳しく検討され、副反応を検討する厚労省の専門部会で接種に影響を与える重大な懸念は認められないと判断している。
一方、東北大学の本堂毅教授は、感染研が超過死亡の算定に、死亡数が激増した2021年、2022年の死亡数を入れて予測値を算出し、嵩上げされた予測値でもって2023年には超過死亡がみられなくなったと発表していることを問題視して、感染研に公開質問状を送っている。
感染研の脇田所長は、2020年以降のデータを死亡数の予測に用いたことを認めたうえで、以下のように回答している。
2020年以降のコロナ流行期のデータを含むことで、コロナの影響を含むことになり、得られた予測死亡数が実態をより反映すると考えている。感染研が超過死亡を発表する目的は、パンデミッック発生以前との死亡者数の変化を単に比較することではない。今後、コロナ感染が恒常的になることを前提に、本来ならば発生したと考えられる死亡数と実際の観測値との差を超過死亡と定義することにある。
超過死亡とは、WHOでは次のように定義されている。
Excess mortality is defined as the difference between the total number of deaths estimated for a specific place and given time period and the number that would have been expected in the absence of a crisis (e.g.; COVID-19 pandemic).
全世界が、コロナの流行による超過死亡を問題視し、コロナ流行前の死亡数をもとにした予測値を用いた超過死亡数を発表しているなかで、感染研が、コロナの流行期の死亡数を含む予測値を用いた超過死亡を発表することは、海外との比較を困難にしている。
今回の検討で、EurostatやOECD.Staで用いられている方法で、わが国の超過死亡数を算出すると、他の国では、2023年の超過死亡数が減少しているなかで、わが国のみが増加しており、それも、人口あたりの超過死亡数は欧米諸国の3倍から5倍に達することが明らかになった。しかも、超過死亡数のなかで、コロナ関連死亡は10%にすぎない。
超過死亡の原因を、コロナの感染や医療逼迫によるコロナ関連死と発表してきた感染研にとっては、認めたくないのかもしれない。この4年間、不都合な事実を隠蔽してきた厚労省にとっても、超過死亡の増加は、国民に知られたくない不都合な事実なのだろう。