大谷選手への心配:野球界からの永久追放は避けられるか?

野口 修司

NHKより

「大谷選手を野球界から永久追放」という事態が起こらないことを、心から祈っている。

かつて私はスポーツ取材を行っており、多くの大リーグ選手と対談する機会があった。その中には、オクラホマ州にある阪神のランディ・バースの自宅に、約20社の競争の中で、一番乗り。彼の考えを聞くこともあった(写真)。

当時、彼は息子の病気によりペナントレース途中で米国に戻ったため、日本人ファンから強い非難の声を浴びていて、取材拒否を続けていた。仕事優先で家族をあまり大切にしない日本人の不理解に、彼は少々不満をもっており、日本メデイアの取材には応じていなかった。私は彼と電話で話した時、すぐにその点を突いた。すぐに自宅に来いと言われた。

ランディ・バース氏(左)と筆者

取材相手の中には、ピート・ローズという有名な選手も含まれていた。全盛期はかなり前のことだが、彼は最多安打や最多出場など、一時期非常に有名なスーパースターだった。取材時期はイチロー選手の全盛期であり、「日米通算」安打数を日本のメディアが誇っていた。

いまはだいぶ違うが、当時、日本の野球はアメリカと比べて球場の広さやボールの重さ、投手のレベルなどで、まるでアメリカの2軍レベルと見做されていた。私は日本でプレイした著名大リーガー数人、レジー・ジャクソンやカムソックなどにも聞いたが、皆半分オフレコのような形で、日本の野球のレベルは2軍並みと言った。日米野球は親善のアトラクション、お祭りだが、実際のペナントレースでは「明らかな差が出る」とした。

ローズは、私などの日本人がイチロー選手を賞賛することに対して、「日本の野球レベルにおける記録を合算して、俺の記録よりも上だと思うのか?もしそうなら、俺の高校時代の安打数も合わせて対抗してやる」と言い放った。

しかし、そのローズは野球賭博で、大リーグから「永久追放」された。あれだけのスーパースターで米国民の誇りと言われた選手でも追放されるくらい、米国は法には厳しいのだ。

今回の事件は、全米38州では合法とされているスポーツ賭博が、まだ違法とされているカリフォルニアで起きたもの。

この騒ぎで最も注目すべきは以下の点だ。

大谷選手自身が、通訳がスポーツ賭博に関与していることを認識しつつも、「自ら」賭博の胴元に送金したことが証明されれば、本当に深刻な問題になる可能性がある。好意だろうが友情だろうが関係なく、賭博絡みと知った上で、ブックメーカーに送金した行為が「違法」と見做される可能性があるのだ。

ロサンゼルス南郊オレンジ郡にいる胴元、ボイヤー (Boyer) の顧客リストに大谷選手の名前があった。ボイヤーの銀行口座に、大谷選手の名前で巨額が複数回振り込まれた。だがボイヤーの弁護士は、通訳との接触はあったが、ボイヤー自身と大谷との直接的な接点・交信はなかったと言った。

もし大谷選手自身が、賭博絡みと認識した上で送金したなら、フェロニー(重罪)になる可能性が出て来る。さらに最悪なのは、野球界からの永久追放になり得る。可能性は非常に小さいが、早めの対策が必要だ。

あくまで「永久追放」は、自分が関係する試合を賭け対象にする場合。もう通訳の言葉は誰も信用していないが、賭けの対象には野球は入っていないという。

事実なら、永久追放はない。だが一時出場停止はあり得る。

別の論点。ドジャースは巨額窃盗とする。だが大谷選手のお金を胴元の口座に、通訳がどのように振り込む手続きができたか?

一説では、通訳は大谷選手のマネージャー的な仕事、つまりお金も一部管理していた可能性がある。そうなら窃盗ではなく、明白な横領だ。

そうでないケース、大谷に任されていないお金を盗む窃盗なら、セキュリテイが厳しい昨今、常識で考えて、それはほぼ不可能。通訳を告訴した大谷選手側には、このようにして通訳に盗まれたという証明義務がある。当然、何とかそれでコトを収めようとするが、証明に失敗すれば、逆に捜査当局や、万が一の陪審・判事への心象が悪くなる。

大谷選手は、主に日本だけでの人気のイチロー選手やゴジラ松井選手らと比べて、比較できないほど高い評価を受ける。米国で本物のスーパースターとして非常に高い評価を得ている。当然、ヤッカミのようなものもあり、彼には厳しい目が注がれている。また、今回の事件を利用してお金を稼ごうとする者も出てくる。これは平和な日本では考えられないことかもしれないが、米国にはありとあらゆる有名人絡みの事件を利用するハゲタカのような人間がたくさん存在する。

私は米国で50州すべて訪問するなど、取材をしながら生活してきた。たかだか半世紀弱の経験だが、やはり人種差別をモロ体験した。面と向かって「イエロー・モンキー」と2回言われた。大谷氏も本当に凄いスポーツ選手だが、やはり「イエロー・モンキー」だ。

三リシアや白人至上主義者は、直接訪問取材したが、面と向かっては優しい。気持ち悪いくらい差別感情など出さない。だが普通の状況で、少々対立すると、白人の一部は、いきなり露骨に憎悪を剥き出しにする。

人種差別は永遠になくならない。あれだけ無茶苦茶をやっても3割以上が同感、次期大統領可能性がかなり大きいトランプへの根強い支持をみよ。全米に拡散しているようにもみえる。

その感情が大谷選手に水面下で牙を剝かないことを心より祈る。

若い人は「OJシンプソン事件」を知らないだろうか。ちょうど30年前、私は現場生取材をした。有名なスポーツ選手と人種差別が絡んだ最悪の事件だった。実は殺人で有罪だと私は信じているが、二転三転して無罪の評決が出た。泥沼で間違った司法判断が出たと思っている。各論ではかなり違うが、正義とはなんだろうか?と深く考えさせられた。大谷選手事件もあのようにならないことを祈る。

最初はFBIやIRSなどの当局が、昨年10月くらいから逮捕を目指していたのは、有名な賭博の胴元ボイヤーらであり、大谷選手はその視野に入っていなかった。

しかし、通訳が大谷選手を守るために公の発言を覆したことも、疑惑の根源になっている。

通訳は実際には、状況の深刻さを理解していなかった。

彼は最初から、弁護士に相談しつつ、黙秘権を行使すべきだった。一説によれば、大谷側がアレンジして断れなかったという。そうなら、それで済むと思い込んだ大谷側の問題が浮かび上がる。

賭博依存症は通訳自身の問題だが、公に発言することは、大谷選手を巻き込む可能性が生じる。米大手チャンネルESPNの女性記者が、90分の電話インタビューの様子など、通訳の発言の詳細を多くのメデイアに現在、口から泡を飛ばしていまも説明している。

ESPN記者への通訳の発言、しばらくしてからインタビューで言ったことは嘘だったと言った通訳。それを聞いた記者の発言は、万が一の大谷選手の刑事裁判で使われる可能性がある。通訳がやったことは、本当に軽率な行動だった。

大谷選手とドジャーズが望むことは、通訳による「巨額窃盗」だろうが、このまま済むかどうか、本気で暗雲を感じる。

私は通常、テロリズムや安全保障、経済・金融問題を取材しており、FBI(連邦捜査局)の捜査は、何度も取材した。ワシントンのFBI本部にも訪れて、現場取材や責任者とのインタビューを行ったこともある。

さらに私自身がテロ容疑者として疑われ、拙宅にFBI捜査官が2人訪れたこともある。当然、本物のテロリストではなく、テロ取材のジャーナリストであることが分かって無罪放免になった。捜査対象になると分かるが、甘えは一切許されない。

大谷選手が大物選手であるかどうかは関係ない。FBI、IRS(国税局)などの米国当局は、嘘を見破るノウハウを持ち、あらゆる方法で事実を発掘する。そのエネルギーは想像を絶する。今回は大谷選手には非常に厳しい状況と言える。

MLBも独自の捜査を開始した。結果として、大谷選手には厳しい措置が取られる可能性がある。

現在の顧問弁護士チームはまあまあ有名。スポーツ・映画などエンタメが得意らしい。だが窃盗で告訴。これをみてもレベルが低い。この種の刑事事件に巻き込まれている有名人の扱いに慣れており、捜査当局と渡り合える経験豊富な専門弁護士を早急に雇うべきだ。

さらに、米国を知らない日本人識者が「大谷本人から説明が欲しい」とか無知をいう。違う。この通訳事件に関しては、最初から最後まで黙秘権を貫くべきだ。

彼は現在、米国史上で一番世界に誇れる日本人だ。私は大谷選手の安全を本気で心配する。