日米両政府は、今年4月に国賓待遇で米国を訪問する岸田文雄総理とバイデン大統領による日米首脳会談で、米英とオーストラリアによる安全保障協力の枠組み「AUKUS」を通じた技術協力を確認する方向で調整に入った。来日中のキャンベル米国務副長官が21日、東京都内で産経新聞などの取材に応じ、明らかにした(3月22日付「産経新聞」朝刊一面トップ記事)。
同記事によると、キャンベル副長官は、インド太平洋地域で一方的な現状変更を試みる中国を念頭に、日本とAUKUSの協力について「考慮するのは当然のことだ」と強調し、「日本が相当大きな力を発揮できる(技術開発の)分野があることは明らかだ」と述べたという。想定される協力分野として、人工知能(AI)技術を活用した対潜水艦戦やサイバー能力の高度化などを挙げたらしい。
日本では、ロシアと軍事的なつながりの深いインドを含む「クアッド」(日米豪印戦略対話)の枠組みが重視されているが、AUKUSは米英豪という、自由を中核とする普遍的な価値観を共有する海洋国家連合であり、島国日本としては、こちらのほうがふさわしい。
その意味でも、歓迎すべき動きだが、キャンベル副長官は産経の取材に対して、「日本が原子力に関することに敏感なのは認識している」とも述べ、AUKUSが第一の柱とする豪州への原子力潜水艦配備に向けた支援に日本が参加する可能性は否定したという。
ならば、画竜点睛を欠く。きっと、「核兵器のない世界」を夢想する岸田文雄総理に配慮したせいであろう。じつに残念でならない。
他方、米インド太平洋軍のジョン・アキリーノ司令官が今月20日、米下院(軍事委員会)の公聴会に出席し、中国軍(人民解放軍)が、2027年までに台湾に侵攻しようとする習近平国家主席の目標を達成しつつあることを「あらゆる兆候が示している」と証言した。
振り返れば、2021年3月にも、当時のデービッドソン米インド太平洋軍司令官が「中国の習近平指導部が3期目の任期満了を迎える2027年までに、中国が台湾に侵攻する可能性がある」との見方を示していた。予算審議に関連した退任間近の発言ではあったが、証言が与えたインパクトは大きい。
同年11月には、米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会(USCC)」が公表した年次報告のなかで、「中国軍は台湾に軍事侵攻するために必要な初期的能力をすでに獲得している」と強い危機感を示した。
同年5月発行の英『エコノミスト』誌も、「地球上で最も危険な場所(The most dangerous place on Earth)」と題し、「米中は、将来にわたって台湾有事を避けるため、もっと真剣に努力しなければならない(America and China must work harder to avoid war over the future of Taiwan)」と訴え、世界の注目を集めた。
2023年の1月27日には、米空軍のミニハン大将が内部のメモで「2025年に中国との間で戦争になる気がする。それが間違っていることを望むが」と警戒感を示したことが波紋を呼んだ。
翌2月2日には、米CIA(中央情報局)のバーンズ長官が講演のなかで、「2027年までに台湾侵攻を成功させる準備を整えるよう、習近平主席が人民解放軍に指示した」との情報を明かした。
だとすれば、残された時間は少ない。安倍晋三元総理は「中国との外交は、将棋と同じ」と述べていたが(『安倍晋三回顧録』中央公論新社)、そうした「神経戦」を繰り広げる余裕はなさそうだ。
安倍政権で「外交スピーチライター」(内閣官房参与)を務めていた谷口智彦教授(慶応大学大学院)は、「『安倍晋三 回顧録』公式副読本」と銘打たれた『安倍元首相が語らなかった本当のこと』(中央公論新社ノンフィクション編集部編)で、「もし安倍政権がもう1期あるとしたら、『皇統』か『台湾』が喫緊の課題になった時だと私は思っていました」と語っている。
「台湾」について「もし安倍さんが存命なら、岸田政権が出した安保強化の方向に満足しながらも、実行実践を急げ、急げと、ハッパをかけ続けたに違いない。代わってその役目を担える人がまだ乏しいですね」とも語っている。やはり、残された時間は少なそうだ(詳しくは拙著最新刊『台湾有事の衝撃』)。
果たして日本国は、台湾有事の衝撃に耐えられるのであろうか。その答えは、3月25日発売号の「夕刊フジ」で始まる拙連載「続・台湾有事の衝撃」で明らかにしていきたい。
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