3月24日、テレビ朝日の「ナニコレ珍百景」がランプの宿を紹介した。たどり着くには宿が提供するシャトルバスを利用するしかない。電気が通じていないのでテレビも視聴できない。携帯の電波も届かないからネットには繋げない。
そんなランプの宿、青森県黒石市の青荷温泉に外国人観光客が大勢宿泊するという。この環境が彼らにはぜいたくなのだそうだ。SNSでバズり、次の客が来る好循環が起きている。
日本電信電話株式会社等に関する法律(NTT法)は、「国民生活に不可欠な電話の役務のあまねく日本全国における適切、公平かつ安定的な提供の確保」をNTTに求めた。これが、通信におけるユニバーサルサービス義務化の始まりである。
青荷温泉のような条件不利地域まで、あまねく提供するには費用が掛かる。固定電話なら電柱を立てて電話線を引かなければならない。そこで、固定電話と携帯電話のすべての加入者が1電話番号当たり月額2.2円(税込)を負担している。これがユニバーサルサービス基金である。
ユニバーサルサービスの対象は、2022年に電気通信事業法が改正されて、ブロードバンドサービスにまで拡大されている。このように対象を拡大して全加入者に負担を求めていくのは正しいのか。
米国では、ユニバーサルサービス基金は憲法に反するとの訴訟が起き、審議が続いている。加入者すべての負担を求める制度は税金と同等だが、連邦議会で議決することなく、FCC(連邦通信委員会)の裁量で基金額が定められている。これは違法だと反対派は主張している。
ネットが繋がらないランプの宿は、宿泊客に好評である。フルデジタルの時代だからこそ、ネットを遮断して精神を休めさせるランプの宿が評価されているのだ。ランプの宿にまでブロードバンドサービスを提供する必要はあるだろうか。宿泊客は喜ぶのだろうか。
3月1日にNTT法の改正案が閣議決定された。しかし、ユニバーサルサービスに関する事項は含まれておらず、総務省の情報通信審議会で議論が続くそうだ。そうであれば、通信のユニバーサルサービスは必要不可欠なのかからきちんと議論するのがよい。
情報通信政策フォーラム(ICPF)では、4月12日に谷脇康彦氏を講師にお招きして、セミナー「データ駆動型社会への転換」を開催する。ユニバーサルサービスに関心をお持ちの方も含め、多くの方々に参加いただきたい。