二階元幹事長不出馬表明がもたらすもの

数日前に記載した「今週のつぶやき」で「個人的に注目しているのが二階氏への対処で、もしかすると処分前後に離党するというウルトラCが出てこないとも限らない気がします。それは氏のプライドと年齢的問題、さらには党内での求心力が弱っていることがあります。ただ、弱っているのはそれだけではなく、足腰もよぼよぼ。私にはもはや妖怪にしか見えません」と書かせていただきました。

自民党 二階俊博元幹事長 NHKより

私がなぜそんなことを書いたのか、というと二階氏は非常にプライドが高い方で数多くの議員に慕われていた立場上「処分」という評価は絶対に受け入れられないはずと考えたからです。月曜日に二階氏が記者会見での次期選挙への不出馬表明をしました。二階氏はある意味、素晴らしい計算をされたと思います。

まず、次の衆議院選に不出馬ということですが、それがいつなのか、であります。この読みについては様々な意見があり、判断が難しいところですが、私は自民党の総裁選までやらないのではないか、という気がしています。安倍氏は「首相の解散権」という伝家の宝刀を使うのが好きな方だったと思います。敵が多いので刀を振り回す必要があったのです。一方、岸田首相はどう見ても解散権を使うのは好みではありません。

そもそも海外でもSnap Election (解散総選挙)は時代の要請ではなく、非常に少なくなってきています。アメリカはその仕組みがないし、英国、ドイツも非常に厳しい規制があります。イタリアはしょっちゅう選挙をやっているイメージがありますが、大統領の専権事項で内閣ではありません。カナダでも最近、解散総選挙はほとんど記憶にありません。民主主義の国家においてすらもはや選挙を頻繁に行うのは政治運営手法として主流ではないということです。

よって日本の専門家が岸田氏がアメリカから帰国したら、とか夏には選挙といった憶測があるのですが、私は岸田首相は解散総選挙に興味がないとみています。特に秋に総裁選が行われるということは政権与党としての今回の顛末を含めた判断が自民党の中で行われるということです。そこではどう逆立ちしても安倍派の候補者が有利な展開をすることはないでしょう。すると岸田氏はあえて不人気で金がかかる解散総選挙をやることで更なる国民の不人気を買うようなことはせず、秋までに自身の評価を高める算段を考えるでしょう。

誰が総裁に選出されたにせよ、その後に解散総選挙、これがもっともロジカルで国民の信任を問うという意味で一番正しいやり方なのは自明だと思います。

二階氏はそのあたりの流れも計算したと思います。そのうえで自身が議員を辞めるという表明で裏金問題の処分をかわしながらも、もうひと転がり暗躍できるわけです。

もう一点大事なのが二階氏の「自民党愛」です。氏にとって自民党は自分そのものであり、3万人も党員が減ったという事態を重く、かつ責任感を感じたのが今回の不出馬表明の背景だとみています。よって自民党再生のために総裁選に影響力を残すなら「新生自民党」を生み出すための後押しをするのではないかと思います。もう一つ、二階氏はチームワークを非常に大事にされた方です。若手議員が二階氏のところに挨拶に行けば軍資金の札束を持たせてエールを送ったという、真偽は不明ですが、そんな話も聞こえてきます。とすれば二階氏が推挙するのは自民党を一つの輪、あるいは和として結束感を強めることができる人材、これが推されるべき方ではないかと推測しています。

これでやりにくくなったのが安倍派で名前が挙がる方々です。「ドン」が不出馬という責任の取り方をいち早く表明した以上、疑惑の方々がなにもしないというわけにもいきません。一方、罰せられるのをただ待つというのも芸がありません。一部の方は離党を含めた処罰される前の自身の判断を促す格好になることもあり得ます。また80名に及ぶ疑惑の方々は次回の選挙は不利だと思います。逆に言えば岸田氏はなおさら解散総選挙の宝刀は抜けないともいえるでしょう。

自民党の冴えない話が進む中、NNNと読売新聞の調査では「支持政党なし」がついに50%を超えてしまいました。つまり国民と政治の離反関係がより進んでしまったということです。個人的には小選挙区制がもたらす議員の守備範囲の視野の狭さが気になるところであります。今回の問題をてこにして日本の政治が国民意識と比べ30年ぐらい遅れていることを認識し、大幅な刷新と若返りをはかる契機になってもらいたいものです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年3月26日の記事より転載させていただきました。