これは政治案件で結構剣呑な話だと思います。T-4後継は単に中等練習機の調達だけでは済まない話です。
空自の次期練習機、初の日米共同開発へ ブルーインパルス機後継
日米両政府が、航空自衛隊の戦闘機パイロット用の練習機「T4」の後継機を共同開発することで調整していることが分かった。岸田文雄首相が国賓待遇で訪米し、4月10日にワシントンで予定されているバイデン大統領との首脳会談で合意し成果文書に明記することを目指している。練習機の日米共同開発は初めて。生産コスト低減に加え、自衛隊と米軍で訓練段階から共通の機体を使うことで連携を強化する狙いがある。複数の日米関係筋が23日、明らかにした。
一方、配備から35年以上が経過し、老朽化が進む。最新鋭のステルス戦闘機F35や、2035年の配備を目指し英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機向けの訓練に十分対応できないとの指摘が出ている。
共同開発には、自衛隊と米軍が連携して作戦を遂行する「相互運用性」向上への期待がある。人工知能(AI)や通信技術の進化で航空戦闘の様相も複雑化し、パイロットに求められる技量も一層高度化している。
量産効果を高め生産コストを下げる狙いも大きい。
そもそもなんで米空軍はT-7レッドホークを導入するのに、屋上屋を重ねるような新型練習機が必要なのか。それが必要ならば米海軍だって必要じゃないでしょうか。次期練習機は2026年度から開始しで候補はTextronとLeonardoが提案するM-346N、Lockheed Martinと韓国航空宇宙産業が提案するTF-50N、BoeingのT-7Aです。
そのT-7の開発は遅れています。
これはあれこれ理屈はあるのでしょうが、単にT-7の開発が難航し、ものにならなない可能性があるのではないでしょうか。その根底にはボーイングの当事者能力の喪失があるのではないでしょうか。そのような機体が必要であれば米海軍も必要はなずですが、そんな話は出ていません。
同じような練習機を二種類揃える意味は薄いと思います。T-7の失敗に備えて二の矢を継いでいる、そのリスクヘッジに日本を利用しようという話かもしれません。つまりはATM代わりです。
米国企業は一般に短期利益と株価を極大化する強欲資本主義的なところがありますが、ボーイングは極端です。人間や設備、研究開発を削って配当を増やして株価を釣り上げてきました。その結果メーカーとしての当事者能力が失われています。今にして思えば、T-7は共同開発のサーブ一社に任せるべきだったかもしれません。
英国やイタリアもF-35を導入していますが、そのような屋上屋を重ねる訓練システムを導入するとは聞いていません。むしろ今後日本同様にF-35とGCAPの2枚看板となる両国の現用あるいは次世代の練習機を導入するべきではないでしょうか。
既にT-4はガタガタで稼働率も低く、訓練にも支障をきたしていると聞きます。悠長にこれから構想を練る段階から始めて間に合うのか。またそのような「危ない機体」でブルーインパルスに曲芸をやらせていいのか。事故でもあれば空幕長の首が飛ぶかと思います。
その意味ではもっと早くに次期練習機を入れるべきだったでしょう。
更に問題は単にT-4の後釜を決めればいいという単純な問題ではありません。まず初等練習機であるT-7の後継の問題。これをテキサン2やツカノで置き換えるのであれば、初頭から中等それ以上までカバーすることは不可能ではありません。これらの機体はコクピットは最新の戦闘機と同様です。果たして高等ジェット練習機が必要かという議論もあるかも思います。またこれらの武装型を陸自で導入することも検討すべきです。運用コストを下げて、攻撃ヘリより高速、長時間滞空できて、調達運用コストは格段に安い。
更に練習機をベースに軽戦闘機を開発するオプションもあります。今後主力となるF-35はステルス機であるし、維持整備費も高い。今後も有人によるアラート任務を行うのであれば、安価な軽戦闘機が必要です。
更に申せばその機体とロイヤル・ウイングマンのような戦闘機に随伴する無人機も必要でしょう。これを軽戦闘機と兼ねるという話もあるでしょう。しかもこの手の無人プラットホームはGCAPでも検討されるでしょう。
端的に申せばT-4は限界に来ており、更新は待ったなしです。それを空幕は延々と先延ばしにしてきました。FXのときもF-22にこだわって無駄に時間を浪費して、自らの打てる手を減らしてきました。
しかもプライムをどうするのかという問題もあります。T-4の後継であれば川重が最有力候補でしょうが、上記のようなネットワークやシステム化という面での能力を同社がもっているとは思えません。しかも国内の「専門メディア」=マニアメディアはT-4を大絶賛してきましたが他国の練習機に比べて相当劣る、特に機体剛性には問題ありの2流3流の機体です。メーカーとしての能力は低いです。まして軽戦闘機型まで開発するとなるとなおさらです。かといってMHIはGCAPで手一杯でしょう。
それを考えればレナルドのM-346を早期に輸入で導入すべきでしょう。日本飛行機あたりに整備をやらせればいいでしょう。日本独自の軽戦闘機型を開発するならばレオナルドと共同でやればいいでしょう。
【本日の市ヶ谷の噂】
海自が誇るP-1哨戒機の稼働率は約3割に過ぎない。これまで多額の予算が「能力近代化」の名目で費やされて来たが実態は不具合の改修に使用された模様。癌はIHIのP-1専用エンジンF7。ブレード破損が多発し、その予防のために頻繁に飛行停止を行っている。もう一つの癌が光学のシロウトである富士通製が担当したHAQ-2光学/赤外線探査装置。P-3C同様機内に出し入れできるタイプだが頻繁に故障、現場ではこれ以上P-1を入れてくれなと泣きが入っている、との噂。
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月刊軍事研究4月号に陸自の18式防弾ベストに関する記事を寄稿しました。
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Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。
・次期装輪装甲車、AMV採用を検証する その2 AMVのライセンス生産によって日本の装甲車事業は壊滅する
・次期装輪装甲車、AMV採用を検証するその1 駿馬を駄馬に落とす陸自のAMV採用
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2024年3月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。