トランプ政権のホワイトハウス補佐官だったピーター・ナバロは3月19日、マイアミ連邦刑務所に出頭し、入獄前に自身に対する訴訟を「三権分立に対する前例のない攻撃だ」と批判した。21年1月6日の連邦議事堂襲撃事件を調査した下院特別委員会(J6委員会)からの召喚状に応じなかったとして、22年6月に2件の議会侮辱罪で起訴され、昨年9月に懲役4か月の実刑判決を受けた結果の入獄だった。
これを報じた「CNN」は19日、大要次のように書いている。
この事件では、司法省がナバロを議会侮辱罪で拘束し、司法省に送致した後、議会の求めに応じて、議会の召喚状を無効にした罪で元ホワイトハウス顧問を起訴するという異例の措置を講じた。以前は、米国下院が召喚状を阻止した証人を逮捕していたが、トランプ政権でそれがより困難になり、訴訟と司法省の照会を通じてのみ召喚状の執行を求めることになった。
J6委員会の設置もナバロの逮捕も、ペロシが率いた下院民主党が過半数を占めていたからこそのことだった。ペロシは共和党がJ6委員に推薦した議員のうち反トランプのリズ・チェイニー(22年の中間選挙で落選)とアダム・キジンガ―(同選挙に不出馬)だけを容認し、他は拒否した。これに怒った下院共和党は代わりを出さなかった。
だが現在、その下院の委員会委員長は、22年11月の中間選挙で過半数を占めた共和党が独占している。そのひとつ下院司法委員会のジム・ジョーダン委員長は、目下「ナバロ」の意趣返しとばかりにファニ・ウィリスを責め立てている。85~86年のレスリング61kg級全米学生チャンピオンだったこの委員長の攻撃は執拗だ。
ジョージア州フルトン郡地方検事(黒人女性)のウィリスは、黒人弁護士ネイサン・ウェイドを特別検察官に雇ってトランプの選挙妨害訴訟(RICO訴訟)を担当させた。ところがウェイドが雇い入れ以前からウィリスの愛人であり、彼に支払われた70万ドルの報酬を使って二人で大名旅行をし、その代金をウェイドが支払ったとの利益相反疑惑が生じた。
この事件はスコット・マカフィー判事の裁定に沿い、ウェイドが身を引くことで、ウィリスがRICO訴訟を継続することとなった。が、ウィリスには別の「倫理違反・職権乱用・資金の不正使用」の疑惑があった。それに関してジョーダンと下院司法委員会は2月2日、ウィリスに召喚状を発行し、2月23日までにウィリスの事務所による「連邦資金の受領と使用」に関する文書を要求していたのだ。
ジョーダンはウィリスへの3月14日付の書簡で大要次のように述べている。
貴方は委員会の召喚状に応じて追加の文書が提出される可能性があると示唆したが、委員会は最初の回答から3週間が経過しても追加の回答資料をまだ受け取っていない。従って、委員会は、委員会が優先したカテゴリーの召喚状に対するすべての回答文書を、遅くとも24年3月28日午後12時までに提出することを期待している。提出しない場合、委員会は議会侮辱訴訟の提起などさらなる措置を取ることを検討する。
ではウィリスの事務所による「連邦資金の受領と使用」とは何かといえば、「ワシントン・フリー・ビーコン(WFB)」紙が1月31日と2月2日に詳報している。その概要はこうだ。
事件は23年1月に、事務所内で「連邦資金の受領と使用」が不正に行われようとしていたことを内部告発したアマンダ・ティンプソン(当時は地方検事局で非暴力少年犯罪者に「少年法廷制度の代替手段」を与える責任を負う立場にあった)を突然解雇したことについて、ウィリスが「勤務成績不振を理由に内部告発者を解雇した」と述べたことで公になった。
20年にフルトン郡地方検事に選出されたウィリスはその12月、21年のエグゼクティブ・リーダーシップ・チームにティンプソンを指名し、「変化とブランド再構築という重要な役割」を担う選ばれた従業員グループの役割を確保するために400人の応募者を勝ち抜いた(地方検事局)事務所の文化だ」と述べて、彼女を絶賛していた。
が、ティンプソンによれば、21年7月の会議で、ウィリス最側近のマイケル・カフィーが「連邦青少年ギャング防止センター」の設立助成金488,000ドルを「swag(装飾品など)」・コンピュータ・出張費などに流用しようとするのをティンプソンが止めた後、ウィリスはティンプソンを降格させた。カフィーはそれらの使途はウィリスの「ビジョン」の一部であると述べていた。
結局、「センター」は開設されておらず、また連邦補助金の使途に機器や消耗品の購入は割り当てられていないことから、ウィリスはティンプソンに「貴女の評価を尊重する」と述べ 「私は貴女の評価が間違っていると言っているわけではない」と謝罪し、カフィーの運営は「失敗だった」と述べた。ティンプソンは21年11月に行われたこれらのやり取りを録音していた。
ところがウィリスは22年1月14日、ティンプソンに署名入りの解雇通知書を発行し、「貴女は随意従業員であるため、もはや勤務の必要はない」と述べた。数週間後、ティンプソンは、本来は完全かつ明確に記載されるべき解雇理由に「従業員の解雇」と記された通知を受け取った。
ウィリスは、ティンプソンの主張は「虚偽」であり、進行中の内部告発訴訟は「根拠がない」「我々の補助金プログラムの記録を精査すれば、それが非常に効果的であり、司法省と協力して司法省のすべての要件に従って実施されていることが分かるだろう」と述べている。
ウィリスは3月27日にジョーダンに送った書簡で、「本日追加文書の作成に取り組んでいる」とし、「3月14日付の貴兄の書簡を受け取りました。当事務所が2月2日付の委員会の召喚状に対する対応が不十分であるという主張を断固として拒否します」としつつ、連邦補助金についてこう釈明している。
貴兄が書簡で述べたように、私達はすでに連邦補助金によって資金提供されている私達のプログラムに関する重要な情報を貴兄に提供しています。さらに、24年2月23日付の私の書簡で貴兄に表明したように、この事務所は現在準備を進めているところです。関連文書を定期的に貴兄に提供しており、連邦補助金資金に関する迅速な情報を貴兄に提供するために誠意を持って取り組んでいます。
以上を整理すれば、ジョーダンが2月2日に出した2月23日を期限とする書簡に、ウィリスは対応した。が、ジョーダンはそこで示唆された「追加の文書が提出される可能性」が実現されていないとして3月14日に、3月28日12時を期限とする追加文書の提出求め、履行されない場合の議会侮辱訴訟提起を仄めかしたということ。
ウィリスは3月27日の書簡で「準備を進めている」と述べている。が、それが提出されたとして、下院司法委員会がそれに納得せず、議会にウィリスを召喚して公聴会を開く可能性もある。下院公聴会といえば下院共和党議長エリーゼ・ステファニクが23年12月5日の下院教育労働委員会で、ハーバード・ペンシルバニア・MITの各学長をキャンパスでの反ユダヤ主義放任を理由に詰問し、結局、2人が辞任するに至った様子が思い出される。
今後、ウィリスが下院公聴会への召喚が実現するのか、その場合にどう釈明をするのか、あるいはこれを無視して議会侮辱罪に問われるのか、注目したい。