モーセと「神の娘(バト・ヤー)」の話

キリスト教最大の祝日「復活祭」(イースター)が終わった。1日は聖月曜日だったので、オーストリアなどカトリック教国では休日だった。そこで前評判の高かった3部構成のネットフリックスのシリーズ「神と交わした約束:モーセの物語」をストリーミングポータルで観た。3月27日から観ることが出来る。

ネットフリックス「神と交わした約束モーセの物語」でモーセ役を演じるアヴィ・アズライ氏(ネットフリックスからKath.ch)

エジプトから神の約束の地カナンに向かってモーセが60万人のイスラエル人を率いて「出エジプト」するスケールの大きい物語はこれまでも何度も映画化されてきた。当方も昔、名優チャールトン・ヘストン主演の映画「十戒」を観たことがある。

ネットリックスのシリーズは「神と交わした約束:モーセの物語」というタイトルが付き、第1部「預言者」、第2部「災い」、第3部「約束の地」の3部作から構成、各1時間半程度だ。テキストパネルを使って、各エピソードでは神学者や歴史家が登場し、モーセの物語についてその見解を語るから、モーセの人柄やその歴史的背景がより理解できるようになっている。

第1部「預言者」では、イスラエル人がエジプトに定住し、約400年間にわたって奴隷生活を強いられてきた。その当時、エジプトのファラオは国内でユダヤ人が強くなりすぎることを恐れ、ヘブライの新生児を殺すよう命じた。モーセの母親は生まれたばかりの息子を生かすために籠に入れてナイル川に流す。ファラオの娘がそれを見つけ、赤ん坊を王宮で育てる。モーセはエジプトの王子として成長するが、奴隷のユダヤ人がエジプト人によって虐待されているのを目撃し、エジプト人を殺す。その結果、王宮から追放される。シナイ山を通って逃亡し、ミデヤンの地で定着した。そしてミデヤンの祭司の娘チッポラと結婚し、子供もできた。ホレブ山に登ったモーセの前に神が現れ、エジプトに戻って自分の民を解放し、約束の地に導けと語りかける。神は「私は、アブラハム、イサク、ヤコブの神であり、有って有る者」と言う。

第2部「災い」では、モーセは神の命を受けてエジプトに戻り、ファラオにイスラエルの神に供え物を捧げるためにイスラエルの民を解放してほしいと頼む。ファラオはそれを拒否するが、その度にエジプト全土に災いが起きる。映画ではイスラエルの神のパワーに恐れを抱くシーンがうまく描かれている。ファラオは「イスラエルの神の言いなりになれば、自分の神とそれによって築かれたエジプト全土の王国は崩壊してしまう」と言い、さらに頑なになっていく。

第3部では、ファラオから解放されたイスラエルの民を率いて約束の地カナンに出発する。途中、水がない、食べ物がないと嘆くイスラエル人を説得しながらモーセはカナンの地を目指す。神はモーセに「十戒」を与える。そしてマナを降らせてイスラエルの民に食糧を与えるなどをして、神の業を見せる。聖書ではカナンを目の前にしながらモーセは死に、後継者ヨシュアが民を率いてカナンに入る。

モーセはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3大唯一神教で預言者、解放者として崇拝されている唯一無二の存在だ。映画では主なプロットは、旧約聖書のヒーローの生涯を時系列で描いており、イスラエルの俳優アヴィ・アズライ(Avi Azulay)がモーセ役を演じている。

「神と交わした約束:モーセの物語」の中で興味深かった話は、ファラオの娘Bithiaだ。BatYahと言われた。Yahはヘブライ語で神を意味することから、Bithia姫は「神の娘」という意味だ。ヘブライ聖書の准教授であるヘブライ・カレッジのラビ、レイチェル・アデルマン氏は「聖書解釈(ミドラーシュ)ではファラオの娘は、神によって『神の娘』として養子にされたという。バト・ヤー、ヘブライ語の『神の娘』を意味する。彼女以外に『神の娘』という呼称を持つ人はなく、その名前は唯一無二だ」という。

Bithiaは妊娠したが、流産した、悲しみからナイル川で死のうとしていた時、赤ん坊の泣き声を聞く。流れてきた籠を引き上げると、そこには男の子の赤ん坊がいた。Bithia姫はその赤ん坊の自分の子として王宮で育てることにする。モーセはヘブライ語ではMosheで、「水から引き上げた」という意味がある。モーセが逃亡から王宮に戻った時、彼女はモーセを抱擁する。モーセが神の命でイスラエル人をカナンに導かなければならないことを知って驚くが、ファラオとモーセの間にあって何とか両者を和解させようとする。解放者モーセの背後に、神の娘(バト・ヤー)の存在があったわけだ。

モーセがカナンの地を目の前にしたが、入ることが出来ないことを嘆くと、妻チッポラは「子供たちが約束の地に入るだろう」と答え、3部作は終わる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。