「クルド人は日本人ではない」

オーストリアの極右政党「自由党」の故イェルク・ハイダー党首(1950~2008年)は当時、移民・難民の増加による外国人の犯罪増加について、「ウィーンはシカゴになってはいけない」と檄を飛ばしたことがあった。ハイダー党首にとって米国の都市シカゴはマフィア、ギャングが闊歩する犯罪都市というイメージがあったのだろう。オーストリアではシカゴを犯罪都市というキャッチフレーズで使っていると聞いたのか、シカゴ市関係者から怒りの声が上がり、一時、米国とオーストリア間の外交問題にまで発展した。

ウィーン子が大好きなメアシュヴァインヒェン(モルモット) 写真は愛称ジャッキー、2024年3月、ウィーンで撮影

ちなみに、自由党のキャッチフレーズは時代の流れと共に変わっていった。「シカゴ」から現在は「カブール」と変わってきた。すなわち、「ウィーンはカブールになってはいけない」というのが最新版のキャッチフレーズだ。

政治家を含め、人は自分が生まれ、成長した国、都市との繋がりを忘れることができない。自分が住んでいる市や地域に異国の外国人が殺到すれば居心地が悪くなるから、現地住民と外国人との間でさまざまな軋轢や衝突が起きる。日本では埼玉県川口市でクルド系住民と現地住民との間でちょっとした衝突が起きているというニュースを聞いた。

曰く、「自転車盗難、信号無視や暴走をはじめ、深夜に集まり大声で会話、ルールを守らないごみ捨て、産業廃棄物の不法投棄、脱税まで。さらに、日本人女性に対するナンパ行為、未就学児童の増加と一部の不良化など…枚挙にいとまがない」という(世界日報電子版3月23日)。上記の言動を目撃したり、体験した川口市民は戸惑い、怒りが飛び出したとしても理解できる。

作家の曽野綾子さんが2015年の産経新聞のコラムで「外国人を理解するのに居住を共にするのは至難の業だ。居住だけは別にしたほうがいい」といった趣旨を述べておられた。クリスチャンとして思いやりが深く、外国旅行を重ね、外国人をよく知っておられる曽野さんが海外で見て実感した現実だ。川口市の例のように、深夜隣人の外国人が騒いだり、公衆の決まりを守らなかったりすれば、多くの日本人は我慢も限界がきて、怒りも湧いてくるだろう。外国人が少ないエリアに引っ越したくなる人が出てきても不思議ではない。

ウィーンはカブールではないように、川口はクルドの町ではない。異国で居住する外国人は先ず、居住する国、社会の慣習、伝統を尊重しなければならない。当たり前のことだ。人は他者を100%理解できない。異国で別の宗教、文化で成長してきた外国人を理解するハードルはそれ以上に高くなる。

類は類を呼ぶではないが、同じ家系、民族、出身国の人々が近くに集まり住むことで、コミュニティが生まれてくる。クルド系・コミュニティ、セルビア・コミュニティといったようにだ。また、棲み分け理論ではないが、天敵から可能なだけ離れて生きていくためには、それぞれが特定の地域に住む。人もある意味で他の動物とは大きな相違がないのかもしれない。自分と歴史、民族、宗教、慣習が違えば、それだけ警戒心が生まれてくる。

当方はウィーン16区に住んでいる。外国人が多く住むエリアとして知られている。深夜、煩い声も時には耳に入る。サッカー試合後の歓声、怒声は当たり前だ。いちいち怒ったり、喧嘩してもらちがあかない。

ウィーン市には世田谷公園に日本庭園がある。週末には多くの市民が訪ねてくる。公園が開園された直後だと思う。竹筒に水が流れてはじく音(鹿威し)、風鈴の音が煩いというウィーン市民の声もあった。風鈴が音を出さなければ風鈴ではないように、水が流れる竹の音がなければ、日本庭園の静けさは生まれてこない。時を経て、理解するようになれば日本人が好む風情は分かってくるだろう。

日本では長い間、同じ民族が住んできた。教育水準も高いうえ、農耕農民として共存していくことを学んできた。一方、戦い、勝つか負けるかの明暗がはっきりとしている狩猟の世界に生きてきた国民は、どうしても闘争心が強まる一方、共存、連帯という面ではまだ未発展だ。一神教を信じる民族と多神教の国民ではその精神生活は異なる。目の前に砂漠しか見えない国では、目はどうしても上に向かい神への信仰が生まれてくる。人間、社会、国の相違点を挙げればきりがない。その相違点を対立や紛争の原因とせず、相違点の背景や歴史を知って和合を見つけ出すこと、それが人間の知恵だろう。これまで見えなかった共通点が浮かび上がってくるかもしれない。

日本は不法移民・難民への監視、受け入れの取り締まりを強化しなければならない。ただ、外国人嫌悪・排斥になってはならない。異国に住めば、日本人も外国人なのだから。

埼玉県川口市 Wikipediaより


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。