「福祉国家」は不況を長引かせる?

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こんにちは、自由主義研究所の藤丸です。

「福祉国家亡国論」という本があります。著者の山本勝市氏は、元・自民党の衆議院議員であり自由主義経済学者でした。ハイエク研究の第一人者でもありました。

「福祉国家亡国論」は、簡単に言うと、

”行き過ぎた福祉により、個人の努力による備え(自助)や家族や地域社会との助け合い(共助)の精神が失われ、重い税負担と官僚による所得再分配により国は亡国への道を歩むことになる”

という過剰な福祉への警鐘を鳴らす本です。

本が書かれたのは、今から約50年前です。それから現在に至るまでに、福祉への公共支出は増え続け、現役世代の社会保険料は上がり続けています。まさに、山本勝市氏が警告したように、日本は福祉による亡国への道を着実に進んでいるようです…。

これを何とか食い止めることが、自由主義研究所の目的の一つでもあります。

山本勝市

山本勝市氏の「福祉国家亡国論」はこちらです。(※陰謀論の本ではありません。)

ところで、福祉とは高齢者福祉や医療だけではありません。

経済への福祉もあります。

日本では多くの人が、とにかく「倒産」「失業」を『悪』だとみなし、倒産や失業が少なければ少ないほど良い、と考えていると思います。

政府が生産性の低い企業に補助金や融資などの援助をすることで、倒産を防いだ結果、「ゾンビ企業」が増え、国際競争力のある企業はどんどん減ってきています。

また、日本にはいわゆる解雇規制問題や終身雇用の文化があり、労働者が解雇されたり転職することは良くない事のような風潮もあります。

このような企業にも労働者にも、一見「優しく」みえる福祉政策は、短期的には良く見えるかもしれませんが、長期的には弊害がとても大きいのです。

業績の悪い企業は、消費者に選ばれる商品を効率よく生産できないのですから、経営者はその事業から撤退すべきです。次に挑戦する新たな事業で、大成功を収めるかもしれないのに、うまくいかない事業を、国からの援助で無理に継続することは、長期的には良いことではありません。

労働者は、例えば解雇されると一時的には大変かもしれまんが、次に就職する場所が、自分の天職かもしれません。本人に合わない職場で、十分な能力を発揮できないことは、労働者自身にとっても職場にとっても不幸なことです。

今回は、この「福祉国家」の問題点の一つである、経済への影響という観点から、「The Welfare State Prolongs Recessions(「福祉国家」は不況を長引かせる)」という短い論文を紹介しようと思います。

アメリカの自由主義系のシンクタンク「ミーゼス研究所」のHPに2024年3月12日に掲載のPatrick Barron氏の論文です。

The Welfare State Prolongs Recessions

太字と(※)は筆者です。また、一部は意訳しています。

The Welfare State Prolongs Recessions(「福祉国家」は不況を長引かせる)

生産段階における不平衡

景気後退とは、単に経済的な混乱に対する呼び名に過ぎません。

「生産段階が均衡を失っています」
「資源が誤った最終製品や誤った生産段階に配分されました」
「消費者の嗜好が変化したり、市場要因ではなく政治的要因によって資源が配分されたりしています」

原因は何であれ、解決策はいつも同じです。

市場の正当な欲求を満たすための生産要素の再配分を妨げる、あらゆるボトルネックを取り除くのです。

民間購買力の向上

ここで、福祉国家という大きな問題があります。

福祉国家の目的のひとつは、資金繰りが悪化した企業や、資金繰りが止まってしまった労働者や企業に援助を提供することです。

政府出資の福祉は、一時的な扶助を提供するために設計されています。

問題は、他の政府支出が削減されないことです。生活保護は「権利」となり、常に既存の支出に上乗せされるのです。

つまり政府は、唯一重要な経済である自由市場経済から、さらに大きな支出を奪っているのです。

マレー・N・ロスバード(※自由主義者、オーストリア学派の経済学者)は、重要な唯一の支出は “個人の購買力 “だと説明しました。

ロスバードは『Making Economic Sense』の中で、「政府の課税と支出はすべて、非生産者による消費支出という寄生的負担の利益のために、真の生産者による貯蓄と消費を減少させる」と述べています。

マレー・N・ロスバード

彼はその大著『権力と市場』(Man, Economy, and State with Power and Market)の中で、このテーマについて述べています。

「要するに、厳密に言えば、政府の生産性は単にゼロではなく、マイナスなのです」

政府支出の増加は、定義上「民間の購買力」を削減する必要があります。

つまり、福祉支出は「民間の購買力」の増加が最も必要なときにそれを奪い、結局は経済の回復能力を妨げることになります。

国民が望む新しい製品やサービスに再配分されるべき資源は、増えるどころか減ってしまうのです!

それだけでなく、福祉支出は、企業が資本を再配分するために必要な行動をとるのを阻害し、労働者が転職したり新しい技能を身につけたりする意欲や能力を低下させる傾向があります。

福祉を終わらせる

しかし、解決策を示すのは簡単ですが、実現は困難です。それは、企業へと個人への両方の福祉を廃止すること、だからです。

「企業を閉鎖に追い込み、人口の大部分を困窮に追い込むのか?」と思う人もいるかもしませんが、その必要はありません。

資本と労働力を最も緊急に必要とされる場所に再配分するための障壁を取り除くことが不可欠なのです。

さらに、資本家が良い時に貯蓄し、市場のニーズに常に敏感であることによって、会社の財務の健全性に責任を持たなければならないのと同様に、労働者も同様に責任を持つ必要があります。

資本家も労働者も、雨の日のために貯蓄をする必要があるのです。

資本はより生産的なプロセスに継続的に投資する必要があり、労働は将来必要とされる個人のスキルに投資する必要があります。

残念なことに、成功した企業から得た利益には高率の税金が課せられ、労働者には国が提供するプロパガンダが適用されています。

これが長い長い不況のレシピなのです。

第一次世界大戦後の「ウォーレン・ハーディング恐慌」と、その10年後の「ハーバート・フーバー/フランクリン・D・ルーズベルト恐慌」を比較してみましょう。

ウォーレン・ハーディング(第29代アメリカ大統領)

ハーディングは連邦予算を削減しました。

ハーディング恐慌はあっという間に終わったため、そのことを知る人はほとんどいません。

ハーバート・フーバー(第31代アメリカ大統領)

フランクリン・ルーズベルト(第32代アメリカ大統領)

1930年代のフーバー/ルーズベルト大恐慌については、誰もが耳にしたことがあるでしょう。

フーバーとルーズベルトは連邦予算を増やし、資本と労働力の自由な再配分に規制障壁を設けました。大恐慌は長期にわたってアメリカ経済に打撃を与え続けました。

ジョン・メイナード・ケインズは、生産は消費に先行しなければならないという「セイの法則」を放棄し、貨幣の印刷によって総需要を増加させるという間違った神話を定着させてしまったのです…。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

「福祉国家」の道を歩み続けている日本ですが、その大きな弊害が実際に表面化してきています。福祉国家政策からは速急に転換することが必要だと思います。

「福祉」という耳障りのいい言葉を使っても、国家による福祉政策は、社会主義への道、隷従への道にほかならないのです。


編集部より:この記事は自由主義研究所のnote 2024年4月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は自由主義研究所のnoteをご覧ください。