経営者をサポートする士業と呼ばれる専門家がいます。難関資格を保有する専門家として尊敬を集める一方、同じ資格保有者でも仕事内容や方針、そして能力も当然異なります。
「企業にとって最も身近な士業といえば税理士だと思いますが、もちろん税理士にもプロ士業とそうでない士業がいます。税務以外の仕事をしてくれる税理士はどんな税理士なのか、顧問税理士が働いてくれない場合はどうすれば良いのか、参考にしていただければ幸いです。」
そう語るのは士業向けの経営コンサルタントで自身も士業(特定行政書士)である横須賀輝尚氏。同氏の著書『会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業』から、プロ士業の見抜き方を再構成してお届けします。
提案をする税理士が10%も存在しない理由とは?
基本的に、ただの税理士と顧問契約したところで、ほとんど提案などはないと言ってもいいでしょう。税務は無理なくやってくれますが、資金調達や節税の提案などが税理士側から自然にくることはまずありえません。理由は「自分のリスクを増やしたくないから」です。
プロではない税理士の心情を代弁すれば、「できるだけクライアントからは何も言ってきてほしくないな。新しい節税商品の検討なんて面倒。無難に経営を続けてもらって、できれば業績を上げてもらって、それでもって顧問料も上げてくれないかな。」です。あ、あくまでも「プロではない人」ですよ。プロはこんなメンタリティではないですからね。あくまで、プロでない人です。
資金調達を求めるのであれば、税理士でなくても良い
税理士ならば、資金調達(特に融資)の相談にも乗ってくれる。はい、確かに乗ってくれますが、提案しない税理士についてお伝えした通り、相談には乗ってくれますが、あくまでも相談したときだけです。最低限の「今期は決算書の業績がいいから、借りた方が良い」的なアドバイスもなかったりします。つまり、資金調達も「得意」な税理士を選ぶ必要があるわけです。
税理士なら融資にも強そうなイメージがあるかもしれませんが、資金調達も税理士の独占業務ではありません。無資格でもできます。つまり、デフォルトの税理士業務ではないので、これも実力差は相当だと考えてください。要はこれもコンサルティング領域で、高い報酬を支払ってこそ、高額の資金調達が実現できる高度コンサルティング業務なのです。
そして、あなたも経営者ならわかると思いますが、「お金は借りられる時に借りる」べきです。金融機関は、業績が悪い時には決して貸してくれません(コロナ融資のような例外はありますが)。会社を堅調に維持するためには、常に借り続ける。しかも複数の金融機関から。これは会社経営の鉄則だと私は考えています(うちの会社も借り入れあります)。
ところが、税理士の中には「無借金経営バンザイ!」みたいな人も結構いまして、そういう税理士は「不用意な借り入れはすべきではない」と諭してくださるのですが、最終的に現金がある会社が潰れることはありません。まさにキャッシュ・イズ・キング。
だから、無借金経営バンザイな税理士事務所は、個人的にはちょっと遠慮したいところです。もちろん、無借金経営そのものが悪でもなんでもありませんので、あなたが無借金経営を目指すのであれば、特に資金調達能力に関しては、考慮しなくても良いでしょう。ちょっと私見が入りましたね。
なので、税理士に税務を依頼する。それとは別に、資金調達のプロとも契約する。そういったやり方もひとつです。税務はオーソドックスに税理士へ依頼し、資金調達のアドバイスは別のプロから受ける。これで数千万円の資金を調達してもらえるのですから、月額顧問料の数万円とかは、安いものですよね。
コンサルティング領域を依頼するなら、やはり「判断」のできる税理士
節税業務、資金調達業務を依頼するなら、やはり税理士個人の「判断」ができる人がベストでしょう。でなければ、高い報酬額を支払う意味もありません。そして、コンサルティング領域の依頼をする場合は、必ず提案を税理士からしてもらいましょう。
節税業務であれ資金調達業務であれ、どのように計画し、どのように実施し、どのような結果を出すのか。そして、それが報酬に見合う内容なのか。優秀な税理士に出会えれば、とにかくあなたの会社にキャッシュが増えます。それが、「オーソドックスな顧問契約の中で、無理やりやってもらう」のではなく、「成果に見合う報酬を支払って実現させる」ものだというのを、改めて理解していただければと思います。
税理士の替え時は?
まず、税理士を替えるということ自体は、あまり頻繁に行われるものではありません。よほど大きな事故でもない限り、あるいは資金繰りが相当厳しいなどの理由がなければ、わざわざ税理士を替えるということも考えないでしょう。新しい税理士にいちから会社の内容と経理の状況を伝えるのもなかなか大変なことですし、何より人間関係ができてしまうと断りにくいものです。
でも、そこはビジネスです。あなたの求めるサービスが提供されないのであれば、発破をかけるかそれでもダメなら税理士を替えるしかありません。
税理士は、やはりステージで替える(もしくは顧問税理士の対応を変えてもらう)ことが必要です。スタート時は、何も知識がないから積極的に教えてくれる税理士が良くても、事業規模が拡大してきたら、別のアドバイスが必要になることもあります。
あるいは上場を目指すことになれば、多くの場合に税理士の変更が行われます。中小企業向けに仕事をしている税理士では、上場に向けた会計ができないため、公認会計士のちからを借りることも必要になるでしょう。
いずれにせよ、税理士の役割としては、会社の数字を正確に把握すること。そして、会社にできるだけ借金や利益を問わず、資金・現金をもたらすことです。あなたが明確に目的を持って、優秀な税理士に依頼すれば、数百万円、数千万円の資金調達をすることは実に簡単なこと。ぜひ、もう一度その視点で税理士選びを真剣に考えてみてください。
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横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年4月8日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。