4月10日に投開票が行われる韓国総選挙。同国は一院制なのでこの選挙の結果がダイレクトに政権に影響することになります。300議席の選挙前の勢力は与党「国民の党」が112、野党「共に民主党」が167、残りがその他となっており、尹錫悦大統領は逆風下での政権でありました。政権発足時から尹大統領は今回の選挙が通信簿だという意識を持っており、この選挙を相当意識して執務をしてきたと理解しております。
尹氏の強みは外交にあり、日本をはじめ、アメリカなどとの緊密な連携と関係強化を築いてきました。つまり、外にいる人から見れば韓国の今回の大統領、頑張っているじゃないか、という意識が強かったと思います。一方、国内経済はイマイチというか日本が陥ったのと同様、典型的な低成長社会に突入しました。23年度のGDPは1.4%成長で内需が伸び悩んでいるのが顕著に見て取れます。
外交は選挙の票につながらず、という前提であるならば韓国経済の低迷ぶりが選挙に影響する可能性はあります。雇用についてみると失業率そのものは24年2月で2.6%と日本並みによいのですが、中身がいびつで高齢者向けの雇用が伸びる一方、若者は非正規雇用にシフトするという「儒教型雇用政策」になっているのが見て取れいます。これは高齢者の生活苦が目に見えてひどく、それを補う政策とされます。
韓国の特殊事情の一つが異様に低い出生率です。23年の合計特殊出生率は0.72,これを23年10月から12月だけでみると0.65とあり得ない水準になっています。東アジアは概して出生率が低いのですが、韓国の特殊事情として私は結婚のしきたりがあるとみています。韓国で結婚するには男性側が家を用意するのが通例とされますが、住宅購入資金を用意できる人は限られ、当然賃貸が選択肢になります。その賃貸は伝貰(チョンセ)という特殊な仕組みがあり、その保証金が不動産価格の上昇に伴い、値上がりに次ぐ値上がりで現在日本円で数千万円近くになっています。これを準備するのは容易ではなく、最近は女性側と共同して払うケースも増えています。それでもそれだけの資金を出せるのかという根本問題があるとみています。
北朝鮮との関係も選挙に左右するとみています。金正恩氏は韓国を敵対視する姿勢を明白にしましたが、その変化は尹政権になってから強まったのは確実です。それまでの共に民主党政権の時は韓国が融和的姿勢だったので金氏はさほど気にしていなかったとみています。ところが尹氏になってから明白な西側諸国寄りの姿勢を示したため、厳しい発言が目立つようになります。問題は尹氏や政権の意向と国民感情がずれている可能性です。つまり、「腫れ物に触ってくれるな」「自分たちの生活を根本から脅かせるような刺激をするな」というボイスです。これは選挙で確実に反応する事態だと思います。
一方で今回の選挙戦全般を通じて見えるのは投票率は高くなりそうだけど話題性がほとんどなかったという点だと思います。日本のメディアでのカバレッジもほとんどなく、粛々と選挙が進んでいるという感じです。
その中で与野党の罵りあいは下品の極みです。野党党首は「台湾海峡の緊張は韓国には無関係だ」に始まり、「どうにか生活できるレベルでよいなら与党に投票するか、家で寝ていろ」など北朝鮮の金与正氏も真っ青になる品のない言葉を連呼する状況です。こういうのを恥ずかしいと思わない韓国の社会や文化は国際感覚からははるかに遠く、韓国が殻から抜け出せない最大の問題なのに上に立つ者がわかっていないことが残念であります。
選挙は蓋を開けてみないとわかりませんが、現状、野党が議席数を伸ばすことが確実視され、300議席のうち180-200議席まで増やす可能性が出てます。200議席、つまり2/3を超えると大統領の弾劾ができる仕組みなのでここは与党にとっては絶対防衛線になるかと思います。
個人的に韓国ウォッチャーをずっとやってきていますが、この数年は韓国に大きいな変革がなく堂々巡りであり、このブログでも発信することは少なくなりました。個人的には韓国は低成長が続き、長期的に苦しむだろうとみています。その場合、中道左派の「共に民主党」が支持されやすい構図になるのでしょう。一方、北朝鮮が口先だけでなく、実際に何かコトを起こした場合、共に民主党では太刀打ちできないだろうというのもまた事実であります。緊急時だけ日本にすがられても困る、というが日本の立場でしょう。
さて、どのような選挙展開となることやら。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年4月9日の記事より転載させていただきました。