問われる7兆円支援金:武見大臣「間違い」認めた高齢医療の私たちへの負担

中田 智之

Viktor Aheiev/iStock

高齢者医療費の「無償化というのは間違いだった」。

武見厚生労働大臣は3月25日の参議院予算委員会で、音喜多駿 参議院議員(日本維新の会)にこう答弁しました。

もとは5割負担だった高齢者医療が1973年に無償化されると受診率は急増し、病院のサロン化が問題に。1999年の高齢者医療の負担ボイコット運動をきっかけとして一部見直されたあとも75歳以上のほとんどは9割引で医療を受けています。

高度経済成長で働き手も多かった当時はともかく、少子高齢化で衰退途上国となった今や“安すぎる”高齢医療は私たちの生活や日本の未来に暗い影を落とすことに。

そういった状況を打開するため音喜多議員が予算委員会で訴えた「現役世代の社保天引きに上乗せされた7兆円“支援金”の廃止」「窓口払いの原則3割化」は、どういった社会を私たちに示しているのでしょうか。

窓口払い3割化は、私たちの生活にどう影響するか

ことし2月末に日本維新の会が発表した『医療維新』は、筆者も現代ビジネス上で提言してきた「窓口払いの原則3割化」や「高額医療費制度見直し」が含まれた意欲的なものでした※1

あらかじめ説明しておくと窓口払いが安いほど外来受診の需要が増加する一方で、命にかかわるような入院治療の数や健康状態には影響しないことが統計上わかっており※2、高齢医療の窓口払い見直しの根拠となっています。

とはいえ、政治家ならば誰もが人数も投票率も大きい高齢者の票を意識し、これまで医療費の抑制は財務省を“悪者役”として、全員の負担が大きくなる形で進められて来ました。

今回、日本維新の会は、主要国政政党で初めて高齢者医療費を負担する側の現役世代の味方として、改革推進の立場を明らかにしたことになります。

その中で私たちの給料と大きくかかわりそうなのが、「支援金等の廃止」とされた部分。

下図のように後期高齢者医療費20兆円のうち7.4兆円は“支援金”といわれ、現役世代の給料から天引きされる社会保険料に上乗せされています※2

維新案では後期高齢者自身が年金などから天引きされる医療保険料1.7兆円も含めて税財源化し、その他の医療制度改革で歳出削減に努めたうえで、不足分は消費税や資産課税などの増税で補うというビジョンを示しています。

支援金が廃止となれば私たちの給料からの天引きは年間10万円近く減り、そのぶん手取りアップということに。

しかし一方で、消費税もまた家計に打撃、資産課税は年金制度が不安視される中でわたしたちの将来に備えた資産形成を難しくするデメリットがあります。

改革を応援する意味も込めて、国民としてはより高い要望をだしたいところ。はたして支援金を廃止したうえで「増税なき構造改革」は可能なのか、独自に検証してみました。

医療費改革に増税の必要なし

まず「窓口払いの原則3割化」は、およそ10%の需要抑制効果※2。このとき高齢者医療費総額は20兆円から18兆円に圧縮され、窓口払は1.6兆円から4.3兆円へと増加します。

高齢者自身が年金からの天引きなどから支払う医療保険料1.7兆円と、消費税や赤字国債による公費9.3兆円を現状維持とするなら、支援金を廃止したあと2.7兆円が不足することに。

この不足分2.7兆円と1年あたり0.46兆円の増加分は、ぜひ医療制度改革で捻出するよう求めたいところです。

たとえば、医師の仕事を薬剤師や看護士へとタスクシフトする、延命治療を見直すなどといった改革案は、これまで厚労省内で無数に検討されてきましたが、実現したのはわずかリフィル処方箋のみでした

様々な抵抗がある中で医療の古いやり方の見直や効率化を推進するためには、なんとしてでも財源を捻出しなければならないという強い動機が政府に必要です

そのためには国民の側からは、まずは“支援金”廃止による手取り給料のアップを求め、そのうえで安易な消費税や資産課税の増税に反対するのが良いのではないでしょうか。

 

 

 

<参考文献>