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MonthiraYodtiwong/iStock
1. 現実個別消費の実質値
前回は、家計の実際の消費金額である現実個別消費について、人口1人あたりの国際比較をご紹介しました。
日本は為替レート換算でも購買力平価換算でも、2021年でOECD38か国中20位と先進国の中では中位水準であることがわかりました。
政府個別消費支出が加わっている事で、嵩上げされている分が多いようです。
今回は現実個別消費の実質値についてご紹介したいと思います。
実質値は、ある基準年の物価で固定し、各年の数値を数量的な変化として捉えた数値です。
実質値 = 名目値 ÷ 物価指数
この物価指数は、GDPデフレータではなく、現実個別消費デフレータが用いられるようです。
まずは日本の現実個別消費について、名目値と実質値の変化を見てみましょう。
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図1 現実個別消費 日本 名目・実質
OECD統計データより
図1が日本の現実個別消費について、名目値(青)と実質値(赤)の推移を示したグラフです。
名目値は緩やかに増加していますがやや停滞気味です。実質値は名目値よりも増加傾向が強いですね。
実質化の基準年は2015年ですので、2015年で名目値と実質値は一致します。
2015年以降の推移としては、やや実質値が名目値を下回りますので、近年では物価が上昇している事になりますね。
2. 1人あたりの国際比較
続いて、人口1人あたりの実質値について、ドル換算値での国際比較をしてみましょう。
まずは為替レート換算値からです。
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図2 現実個別消費 1人あたり 実質 為替レート換算
OECD統計データより
図2が現実個別消費(1人あたり)の実質為替レート換算値の推移です。
この数値は、人口1人あたりの現実個別消費について2015年基準の実質化を行い、2015年の為替レートで各年をドル換算したものとなります。
2015年の水準からすると、実質的=数量的にどのような変化となったかを表す指標と言えます。
日本(青)はかなり低い水準で、アメリカやイギリス、カナダと大きく差があるようですが、近年ではイタリアよりは高い水準となっています。
実質値ではイタリアやイギリスがリーマンショック以降かなり変調しているという特徴が見られます。
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図3 現実個別消費 1人あたり 実質 為替レート換算 2021年
OECD統計データより
図3が現実個別消費の実質 為替レート換算値について、2021年の国際比較です。
日本は23,721ドルで、OECD38か国中20位、G7中6位となり、OECD平均値をわずかに下回ります。
順位としては名目値と変わりません。
3. 購買力平価換算による比較
続いて、購買力平価換算による実質値の比較をしてみましょう。
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図4 現実個別消費 1人あたり 実質 購買力平価換算
OECD統計データより
図4は現実個別消費の実質 購買力平価換算値の推移です。
この指標は、基準年である2015年の物価で実質化し、更に2015年の購買力平価でドル換算した数値となります。
実質化により時系列的な実質値として、更に購買力平価でドル換算する事による空間的な実質化をしている事になります。
これが本当の意味で「実質値」を表しているのかは議論のあるところかもしれませんが、参考にすべき数値である事は確かだと思います。
日本は主要先進国の中でもやや低めの水準でしたが、近年ではフランスとほぼ同じくらいで推移していて、OECDの平均値を上回ります。
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図5 現実個別消費 1人あたり 実質 購買力平価換算 2021年
OECD統計データより
図5が現実個別消費の実質 購買力平価換算値について2021年の国際比較です。
日本は28,492ドルで、OECD38か国中18位、G7中6位となり、OECD平均値26,723ドルを上回ります。
経済指標の国際比較としては、かなり高めの水準となりますね。
4. 実質の成長度合い
実質値は成長率で見た方がより実感値に近い数値として比較できると思います。
ここでは、1990年と2010年を基準とした実質値の成長率を倍率で確認してみましょう。
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図6 現実個別消費 1人あたり 実質 1990年基準
OECD統計データより
図6は自国通貨建ての現実個別消費(1人あたり)を、1990年を基準(1.0)とした倍率で表現したグラフです。
基準年に対する数量的な成長具合を比較する事になりますね。
日本は概ねフランスと同じくらいの水準で変化していて、主要先進国の中ではやや低い水準です。
1990年に対して2021年では1.3倍強の成長度合いとなります。
アメリカが1.7倍、OECDの平均値やイギリスで1.6倍と比べるとやや低い状況ですね。
リーマンショックよりも、コロナ禍による影響度合いの方が大きい事も確認できます。
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図7 現実個別消費 1人あたり 実質 2010年基準
OECD統計データより
図7が2010年を基準とした倍率のグラフです。
2010年を基準とすると、日本はフランスよりも成長率が高い事になりますね。より豊かになっていると実感できる度合が高いといった事が数値化されていると見れば良いと思います。
ただし、OECDの平均値としてはさらに高い水準ですので、先進国の中では成長度合いが低い事は確かですね。
5. 現実個別消費の実質値の特徴
今回は、現実個別消費(1人あたり)の実質値についてご紹介しました。
実質値と言っても基準年で名目値と一致しますし、この基準年は時が経過すればより近年に変更されます。長期で比較する指標としてはあまり参考にならないかもしれませんね。
それよりは、基準年に対する成長度合いとして見た方が、より個々の国の体感に近い指標と言えるかもしれません。
実質成長率では、日本は先進国としてはやや低いながらも、プラス成長です。フランスと同程度か近年ではやや上回る程度という事になります。
家計の最終消費支出としては停滞していますが、政府の個別消費支出が増えていますので、現実個別消費としてはプラス傾向が強まりますね。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年4月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。