子育て支援金なる「隠ぺい増税」は民主主義を揺るがす

原 英史

kanzilyou/iStock

「子育て支援金」制度の撤回を求める緊急声明を有志で公開した。

「子育て支援金」は、少子化対策の財源として、健康保険料に上乗せして徴収しようというものだ。今国会に法案が提出され、政府は当初「実質負担増はない」「月500円弱」などと説明していたが、その後、世帯収入によっては負担額がずっと大きいこと(年収600万円の世帯で2028年度に月1000円など)が明らかになった。

だが、問題は負担額の多寡ではない。子育て支援金には根本的に欠陥がある。第一に、健康保険の目的外の流用であり、本来許されない。第二に、現役世代に重く負担がのしかかり、少子化対策に逆行する。合理的な説明を見出すことはできない。

緊急声明の賛同者には、多様な識者が名を連ねた。財政政策などに関して意見が異なり、ふだんは決して同じ方向を向かない人たちも並ぶ。それぐらい「子育て支援金」制度はおかしい。

ところが、国会での法案審議は粛々と進行し、4月15日の週にも衆議院で可決の見通しのようだ。野党はいったい何をしているのか、理解に苦しむ。ここまでおかしな法案がすんなり成立するようでは、国会の存在価値すら問われるのでないか。

わかりやすくいえば、子育て支援金は「隠ぺい増税」だ。「増税」には国民の反発が強いから、社会保険料と称し隠ぺいしているに過ぎない。

しかも、増税ならば税率を明確に法律で定めなければならないが、「隠ぺい増税」なのでそれもない(あとから各保険者が定める)。だから、負担額がどの程度かの説明がコロコロ変わるようなデタラメもまかり通る。

民主主義の根本の一つは、国民に税をどれだけ課すかは、国民の代表である議会で決めることだ。「隠ぺい増税」は民主主義の根幹を揺るがすものにほかならない。

だから、子育て支援金は、許してはならない。「もっとよい制度案がある」といった相対的比較の問題ではない。

今こそ野党は、民主主義を守るため、何としても可決を阻止すべく徹底して戦うべきではないのか。そして、少なからぬ与党議員も、「本当はこんな制度はおかしい」と理解しているのだから、声を上げるべきではないのか。

子育て支援金は、財源規模1兆円程度、世帯の月負担は数百円からせいぜい数千円程度だ。それで小さな話と思う人もいるのかもしれないが、断じてそんなことはない。今後、さらに高齢化が進む中で、財政・社会保障を持続可能にするため、痛みを伴う歳出削減を行うにせよ、国民にさらなる税負担を求めるにせよ、国民との信頼関係が不可欠だ。

国民を欺く「隠ぺい増税」は、国民との信頼関係を決定的に損ない、日本の国家運営全体を危うくしかねない。