ヨーカ堂の再生は計画通り可能なのだろうか?:セブン社の日本的経営体制

セブンアイホールディングスの井坂隆一社長も苦労が絶えない経営者の一人だと思います。昨年、衆目を集めた百貨店部門の売却は結果として見ればずいぶん安い売却だったこと、百貨店部門の従業員と禍根を残したこと、そして投資ファンド、バリューアクトとの激しい攻防で体力を消耗し、本業の好調さを打ち消してしまう結果となりました。

イトーヨーカドー Wikipediaより

そのバリューアクトは昨年の同社株主総会で井坂氏らの退任要求を突き付けていましたがそれが否決され、その後、保有していたセブン社の株式を売却した模様で大株主リストからは名は消えています。全部売却したのか、一部を保有しているのかはわかりませんが、同投資ファンドとしては、一旦幕引きとしたのでしょう。

それもあってのことだろうと思います。セブン社にとって残されたもう一つの荷物、GMS(総合スーパーマーケット事業)であるヨーカ堂や福島県を中心とした北関東で展開するヨークベニマルの処遇についてようやく重い腰を上げ、外部の資金を取り込み、再上場させるという計画を打ち出しました。

そのヨーカ堂は四期連続赤字、売り上げはこの25年で30%減り、店舗数は180から100を切るところまで来ました。つまり昨日今日の不振ではなく、この何十年か、ずっと下向きだったわけです。ではなぜ、そんな下向きの事業をセブン社がぶら下げていたのか、と言えば故伊藤雅俊氏と鈴木敏文氏との関係であることは周知の事実です。

伊藤氏と鈴木氏はどういう関係だったのか、私が詳述された書き物などを読み解く限り、両者の性格は水と油に近かったのだろうと思います。ですが、事業は双方が違う価値観を持ち合わせることでより強固な基盤ができるという考え方もあり、辣腕をふるった鈴木氏とそれを静観した伊藤氏は双方、一定のリスペクトは持っていた、だからこそ表面的な敵対関係は生まれなかったと理解しています。

ですが、大人の対応をしてきた伊藤氏はお亡くなりになり、鈴木氏もセブンを退任後、古巣のトーハンに戻り、役員をしていましたが、昨年の株主総会で退任、相談役となり実質的にはビジネス界の前線からは退いています。

セブン社にとってようやくヨーカ堂のリストラに手を付けやすくなったということかと思います。ただ、上述したようにヨーカ堂の不振はずっと続いており、なぜそれが放置されたか、ここにキーがあります。私が読み取るのは故伊藤氏のファミリー会社がセブン社の大株主として君臨し、一定の影響力を未だに持っていること、投資ファンドとの敵対関係と百貨店事業の処分というシークエンス上の問題、そんな中でようやく一番やりたくないヨーカ堂処理問題に手を付けたということかと思います。

ズバリ言ってしまえばセブン社にとってヨーカ堂はお荷物であり、鈴木氏が最も触りたくない分野だった、それが放置の原因だろうとみています。つまり鈴木氏の置き土産を井坂氏が処理している、そういう構図であります。また井坂氏も社内政治に翻弄され、好調のコンビニ事業と不調のGMSという光と影を抱える中で人間の性として光の方にどうしてもなびき、井坂氏でさえ、なるべく先送りしてきたのが正直なところでしょう。

ではセブン社が目標とする中間持ち株会社設立、外部資金を取り込み再上場させるというシナリオは可能なのでしょうか?個人的にはこの通りのストレートな展開はほぼないとみています。

分かりやすい例えです。もしも皆さんが自分が持っている不動産なり自動車なりを売却、あるいは何か持ち物をメルカリに出展にする際になるべく高く売りたいので掃除したり、修理したりして体裁よくしますよね。それと同様、企業も傘下の事業を売却するなら徹底したリストラを施し、最終的にちょっとでもよいので黒字にさせることで磨きがかかり、買い手なり投資家なりが現れるものです。

セブン社ではGMS事業に興味ある人も精通する人も限られ、メインストリームではないのです。よって事業をある程度改善改革して見栄えをよくすることすらできないまま中間持ち株会社に移行させられるわけです。平たく言えば不良債権として処理する銀行方式に似ているとも言えます。しかもコンビニ事業に於いてヨーカ堂の食品部門が果たす役割が残っていて全部は手放したくない、そういう自己都合があるため、投資家を募ったり思い切ったリストラがしにくい素地を作ってしまったとも言えます。

ひたらく言えばセブンの経営陣は切った張ったの勝負が下手なのです。サラリーマン経営者ばかりで諸条件全てを満たす円満解決を目指すため、結果として株主が損をする、そういうシナリオになってしまうのです。

セブン社は極めて日本的経営体制であり、内向きで辣腕をふるうことが出来ない状況にあると感じます。この手の経営はコンビニ事業が将来何らかの形で衰退する時代を迎えた際、対応が出来なくなるるリスクがあり、私から見ればどんどん魅力が低減する会社になっていくのだな、と感じてしまうのです。今時一本足打法経営は褒めらたものではないのに、美酒に浸りきっているともいえそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年4月15日の記事より転載させていただきました。