世の中、トレンドに敏感な人が流行を造る、とされます。昔からよく言われたのがアパレル業界でだいたい2シーズンぐらい前からトップデザイナーあたりが「次はこの感じで」という流れを作ってきたといわれています。それが外れることなく、きちんとビジネスとして成り立ってきたのは消費者を納得させる術があったからなのでしょう。
報道でキャンプ用品のスノーピークがMBOを実施し、成立したと報じられています。同社はアウトドア用品の店として1964年に設立された企業で現在は東証のプライム銘柄指定を受けていました。同社が躍ったのがコロナ前から始まったキャンプブーム。ソロキャンプといった話題が巷に流れ、Youtubeでその関連番組を見入る人が多かった時期です。当時、原宿のキャンプ用品店を訪れた際、あまりのごった返しでびっくりしたことがあります。私も学生の頃はキャンプもしたのですが、店に来るのは地味な人ばかりでチューリップの「心の旅」を口ずさむような人ばかりだったのですが…。
そのスノーピークがMBOに「追い込まれた」のは直近の決算の利益が99%減の100万円しかなかったことが大きいでしょう。拡大戦略がたたり、損失計上を余儀なくさせられた、ということです。この立て直しのためにファンドと組んでもう一度、地道に「心の旅」をするのでしょう。
個人的に動向を見ているのがワークマン。業績的には22年決算でピークとなっており、今後の立て直しができるのかが注目です。同社も「安い」「作業着」といったところからスタートし、「#ワークマン女子」の展開が話題になったのですが、これをどう見るかであります。アパレルはユニクロという巨人が鎮座する中で新たな切り口という観点から各社工夫をしています。消費者側も「上から下まで全部ユニクロ」ではいかにもということで代替ブランドを探す中でワークマンが着目されたとみています。ただ、女子は移り気なのです。基本は1シーズンなので、翌年にはないと考えると「女子ビジネス」はなかなか困難だと思います。
よってワークマンブームが一時期ほどではないとすれば企業側が深手の傷を負わないうちに次の手に打って出るという工夫が求められるところでしょう。
似たようなブーム話で世界的規模で終わったのがスニーカーです。スニーカーそのものは80年代から安定した商品だったのですが、近年の盛り上がりはインスタが生み出したブームともいわれています。珍しいものや限定ものに転売ヤーが飛びつき、とんでもない価格がつきます。メーカーも小売り側もこれぞとばかりにスニーカービジネスにシフトします。ところが2023年に一気にブームが終焉したのです。
たぶん、消費者とメーカーの距離感が出すぎてしまったことが一因ではないかと思います。つまり消費者が訳が分からなくなるほど新作を造り、一足数万円が当たり前という売り方もどうだったかと思います。ただ、これでスニーカーが無くなるわけじゃなくて元の水準に戻るだけなのです。つまり潜在需要はあるけれどブームという上積が無くなるので企業側は在庫処分に精を出すわけです。するとそれは消費者側からすれば「売れないのねぇ」で逆に見向きもされず、金額重視のお客さんだけが手に取っていくという苦しい循環に入っているわけです。一般的にはこの下向きサイクルは3-5年ぐらいかかります。
「流行に、乗らない…」の真打はテスラかもしれません。あのビジネスモデルはスニーカーやキャンプブームなどとはレベルが違います。世界がこぞってEV様、テスラ様、マスク様になったのです。私は10年ぐらい前にEVが次の時代の車になると申し上げました。確かにトレンドはそうなっていたのですが、私の誤算はライバルが出なかった点です。BYDがあるじゃないか、と車を知る人はいうかもしれません。が、中国の車は北米と日本では基本的に無理。つまり、テスラに対抗できるEVメーカーが欧米か日本から出れば面白かったのです。が、各社二の足を踏みました。今は書きませんが、理由はいろいろあるでしょう。
テスラの最大の試練はこれから来ます。それは中古車市場が同じ車であふれた時、中古価格が下落し、マーケットバリューが下がるリスクです。もしも中古車市場で車種を選ぶ選択肢があればテスラの特性を生かすということも可能だったのですが、いかんせん、同じ車がタクシーのように並んでいる現状を見て、これはブームだったのだろうと思わずにはいられないのです。
もちろん、好きな方は好きなのです。スニーカーと同じ、ずっと前から好きで自分はブームとは関係なくその商品を愛しているというファン層はぶれません。ただ、上にも書いたように「市場の上積み」はブームで踊らされ生み出された付加分だということを認識しなくていけないのです。
私が以前テスラには乗らない、と断言したのは「流行に、乗らない…」なのです。私は私の信念で消費をします。それがたまたまブームになろうが、マイナーなままであろうが私の満足度を充足してくれるならそれでよいのです。つまり、「みんなが買うから僕も私も…」という消費にはならないのです。それは頑固だからでもなく、興味がないわけでもなく、商品価値を見出していないわけでもありません。単に「流行に飛びつかない」ということを幼少期から身に着けていたから、ということかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年4月16日の記事より転載させていただきました。