今、アメリカと中国で宝くじが売れまくる理由

黒坂岳央です。

近年、米国と中国において、宝くじがよく売れている。

North American Association of State and Provincial Lotteries (NASPL)によると、2023年は11.3億ドルの売上を記録し昨年から5%増加した。また、中国財政部は2023年の宝くじの売上高が前年比36.5%増の5,796億9,600万元と発表している。

一方で日本は宝くじの売上の減少が続く。ジャンボ宝くじの売上は平成からずっと右肩下がりである。代わりに投資詐欺、ロマンス詐欺、特殊詐欺の被害件数及び総額が増加していることから、詐欺案件に一縷の望みを託す構図が見えるようだ。

なぜ今、宝くじがよく売れているのか?

Michael Burrell/iStock

アメリカと中国で宝くじを買う人たち

アメリカではこぞって宝くじを買うのは低所得者層というデータがある。

メリーランド大学のハワード調査報道センターが行った調査によると、米国では貧困層(needy communitiesという)の住むエリアに宝くじを訴求する広告キャンペーンを打ち出しているとされる。

世界の国々の中でも大変強い経済と雇用、そして高値を更新し続ける株式を考えると違和感を覚える人もいるかもしれない。(そもそも、株高は必ずしも健全な経済実態を反映するものではないが)端的に言えば、これは米国において所得の2極化が進んだと見ることができる。高い政策金利にも関わらず、雇用者数が高い理由はインフレによる生活苦から、Wワークをする人が増えたことで見かけ上の数字が増えたという仮説を提唱する専門家もいる。米国における世論調査でアメリカ人の77%が「犯罪が増加した」との回答もある。その背景にも所得の2極化がある。

また、中国で宝くじを買う人が増えた背景には、若者の高い失業率が背景にあると見られる。中国の宝くじ売り場は明確に若者へ販売を訴求する店作りをしている。宝くじ売り場はファッショナブルな外観デザインが施され、「美国成真(Americanos come true)」と看板を掲げている。「宝くじコーヒーショップ」では、注文をしたコーヒーに無料の宝くじがついてくる。メディアの報道を見ると、店の前には長蛇の列を作っているが、並んでいるのは若者が多く、中にはベビーカーを押す子連れの親もいる。

生活に余裕がある人は宝くじを買うことはない。余剰資金を得たなら、それは資産運用に回すのが普通だからである。宝くじは10年、20年単位で蓄財する資産運用と異なり、今すぐ結果がわかる。当たりを引けば人生が一変するほどの当選金を手にすることができる。これは即金を求めるほどの生活苦が背景にあると見るべきだろう。

宝くじの高額当選は人生を救うのか?

宝くじの高額当選は度々大きな話題を呼び、当選者はまるで人生の勝者のような取り扱いを受けることが多い。だがその末路はいつも輝かしいものとは限らない。

過去記事、宝くじの高額当選が人生を狂わせる理由でも書いたが、ビジネスや投資で時間をかけて試行錯誤した結果、得た大金と宝くじの高額当選で得た大金とでは質的に異なる。前者は獲得プロセスを経験していることもあって、苦労して得たものは簡単に手放すことはないし、何より高額の所得を得られるようになる人格とはムダな散財を不快に思うものである。だから必要なものは巨費を投じても、不要なものには1円も支払わないという価値観であることが少なくない。

一方で宝くじは違う。獲得プロセスは時間も労力も得ていない。加えて、経済的に困窮している状況下で大金を得るので、使い道はいくらでもあ上に大金を計画的に運用するという戦略も持ち合わせていない。故に投資詐欺に騙されて失ったり、消費に使い切って結局また宝くじを買わねばならない人生へと戻っていく。宝くじの高額当選は根本的に人生を救済する手段にはなり得ないのだ。

宝くじは無知への課税という有名な言葉がある。他、tax on people who are not good at mathという言葉に置き換わることもある。いずれにせよ、宝くじに人生を託す人が増える社会は健全ではないだろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。