黒坂岳央です。
映画To Leslie トゥ・レスリーが今月6月に公開され、SNS上で様々な反応が見られた。この映画は実話が元になっており、アメリカにおける宝くじの高額当選者がいずれも貧困層で、多くが当選後に破産するという難しい問いを投げかけている。
これはアメリカに限ったことではなく、日本においても宝くじの高額当選者がその後、厳しい末路を辿る現実がある。筆者は宝くじに当選した経験も買った経験もないのだが、その思考や心理プロセスはなんとなく分かる気がしている。思うところを取り上げたい。
人が大金を渡されても持ち続けられない理由
過去記事お金持ちであり続ける難しさで書いたことだが、お金持ちの定義は「大金を得た人」ではなく「お金を持ち続けられる人」である。収入が多くても遺産相続を受けて大金を得ても、人は手元のお金を自ら運用の失敗で減らしてしまう。
よく宝くじの高額当選者の破産に対して「バカだな。自分なら堅実に使うのに」という声が見られるが、実際にそうした堅実派の人たちでもいざ大金を得ると実行することは困難を極めるものだ。その根拠を取り上げたい。
まず収入が増えても生活レベルを引き上げるなどで支出を増やしてしまうのが普通だ。これはパーキンソンの法則と呼ばれ、世界的に見られる人がもつ機能性の一つである。お金に余裕がない人ほど積極的に宝くじを買う。そして運良く大金を得るとこのパーキンソンの法則が機能し、湯水の如く使い切ってしまうのだ。
これは筆者の思い込みではなく、主張を裏打ちするデータがある。メリーランド大学のハワード調査報道センターが行った調査によると、米国では貧困層(needy communitiesという)の住むエリアに宝くじを訴求する広告キャンペーンを打ち出していることが明らかになっている。経済的に抑圧された人々が開放された購買意欲や贅沢への誘いと否定する難しさは、想像も超える引力が働くようだ。
そして宝くじを買うことで会社を辞めてしまう人も少なくない。これは1000万円以上の高額当選者に無料で渡される、「その日から読む本」という無料小冊子が存在していること自体がその状況証拠と言えるのではないだろうか。
仕事を辞めてしまうことで収入は断絶され、しかし支出は続くので当選金は一方的に目減りし続けることになる。どれだけ元手が大きくても減り続ける苦痛に耐えられる人は多くない。また、仕事以外に社会とのつながりを持っていなければ、承認欲求や社会的欲求を欠いてしまい、酒浸りになる人も少なくない。筆者の知っている人で宝くじではないが、持ち株の売却で数億円を手にした結果、最後に破産してアル中になった人物がいるので分かるつもりだ。
ビジネスや投資で財を成した人との違い
宝くじの高額当選者がお金を持ち続けることが難しいことを述べた。一方でビジネスや投資など自分の手で財を成した人はお金を持ち続けられる可能性が高い。同じ大金を得たもの同士なのに何が違うのか?
結論、ビジネスや投資で財を成したケースは蓄財プロセスがある点で、宝くじの高額当選者と全く違う。自分はまだまだ大したレベルではないただの小者だが、自己体験を述べたい。自分のビジネスで粗利を稼いだり、資産運用で蓄財すると売上、経費、粗利という勘定科目と日々付き合うことになる。粗利を得るために必要な勉強をしたり、必須機材やサービスに事業投資をする。その過程で本当に必要なもの、不要なものを見極める眼力が鍛えられる。
自分は駆け出しの頃の方がお金の使い方はヘタでムダが多かったが、最近は仕事に必要な経費は投じても、不要なものは無料でも要らないという思考になった。また、この一連のビジネスプロセスを経て必要なものは手元にあるので「ドーンと派手に消費したい!」といった欲求は完全解消したという感覚がある。仕事を通じて頼りにされたり、感謝の言葉をもらえば無用な自慢をするためにムダな出費をする必要もない。こうなると蓄財が促進しやすく、お金を持ち続けられる人格が形成されるのだ。
一方で宝くじはプロセスは極めて簡略化されており、宝くじを買うという行動以外にはなにも必要がない。運を高める要素はひたすら買い続ける以外にないのだから、当選するまでの過程でファイナンシャルリテラシーの向上も一切ない。結果、いざ当たると散財してすぐに手元から消えてしまうのだ。
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様々な要素をトータルで俯瞰すると、宝くじの高額当選はお金持ちへのチケットというより、むしろ貧乏へのチケットかもしれない。その可能性を排除することは極めて難しいと感じるのだ。
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