仕事の先送りをやめたいなら、先に仕事の順番を決めてしまえばいい(滝川 徹)

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仕事を終える度に次にどの仕事に取り組むか考えていると、簡単なタスクばかりに手を伸ばしがちだ。その結果、重要なタスクにいつまでも着手できない。こうした仕事の先送りに悩む人は多い。

解決の鍵は、上から順番に処理する計画を作ること。そう語るのは時短コンサルタントの滝川徹氏。今回は、滝川氏の著書『細分化して片付ける30分仕事術(パンローリング) 』より、計画に沿って仕事に取り組む効果の解説を、再構成してお届けします。

タスクリストで「計画」と「実行」を切り分ける

昔の私のように「あれも、これも……」とほかのタスクのことが気になっている状態では、目の前のタスクに集中して取り組めない。結果、自分ではその自覚はないものの仕事の生産性は落ちてしまう。

ではどうすれば目の前の仕事に100%集中して取り組めるようになるのか。そこで重要となるのが「計画」と「実行」を切り分けることだ。

たとえば仕事中、メンターがつきっきりで君の横について、どの仕事にいつ取り組んだらいいか的確に指示してくれることを想像してみてほしい。仕事をスタートするときに「まずこのタスクから処理しよう」と指示してくれる。

その仕事を終えたら「次はこれをやればいいよ」と次の仕事の指示をしてくれる。さらにその仕事を終えたら「次はこれ」と再度指示してくれる。仕事の優先順位もその人がしっかり見極めてくれる。君はただ言われた通りに仕事をこなしていけばいい。

もしこうしたメンターがいてくれたらどうだろう。君は「あれもやらなきゃ。これもやらなきゃ」と不安にならずにすみ、安心して目の前の仕事に100%集中して取り組めるようになるはずだ。

だが残念ながら、現実世界ではこんなことはおこりえない。しかし仕事をはじめる前に「上から順番に処理する」という明確なリストを作ることができれば、そのタスクリストはメンターと同じ役割を担ってくれることになる。

どういうことか。ものすごくシンプルな例を使って簡単に説明していこう。

たとえば就業時間を9時から18時までの9時間だとする。そのなかで行うべきタスクのリストを作る。その際タスク名だけでなく、各タスクにかかる見積時間(所要時間)もあわせて考える。

図1

図1では、わかりやすくするために各タスクの見積時間を30分として、全てのタスクの見積時間の合計時間は9時間とした。

仕事をはじめる前にこうしたタスクリストを作れば、君は安心して仕事を進めていけるはずだ。なぜならタスクリストに書かれた通りに上から順番にタスクをこなしていけば、18時に仕事を終えることがわかっているからだ。

始業とともに、リストの一番上に書かれているタスクAに着手する。タスクAを完了したらタスクBに取り組む。タスクBを完了したら次はタスクCに着手する・・といった感じでリスト通り上から順番にタスクを処理していけばよい。

どうだろう。タスクリストが先程のメンターと同じ役割を果たしてくれていることがわかるだろうか。

もちろん現実には、リスト通り完璧に仕事が進んでいくことはまずない。取引先から電話がかかってくるかもしれないし、上司や同僚から声をかけられることもあるだろう。

しかしそうした「割りこみタスク」に対する対処法さえ身につけていれば、それらが発生しても君はすぐにまたタスクリストに戻って再び流れるように仕事を進めていけるようになる。

戻るための「本線」がしっかり整っていれば、脱線を余儀なくされてもすぐまた軌道修正できるようになるのだ。

ここまで読んで「そんな機械みたいに上から順番にタスクをこなす必要なんてないだろう」と思った人もいるかもしれない。

たとえば図1の場合、必ずしもA→B→C・・という順番でタスクを進めていかなくても各見積時間の合計は同じ9時間なのだからC→A→B・・と取り組んでも問題ないはず。そう考える人もいるだろう。

もし完璧に遂行できる機械であれば、その考え方は間違っていない。しかし人間の場合、事前に順番を決めておかないと、タスクを実行できない=先送りしてしまうというやっかいな問題が生じる。

この先送りを起こさないために必要なのが「上から順番に処理する」というルールなのだ。なぜ「上から順番に処理する」ことが大切なのか。大切なことなので丁寧に説明していきたい。

タスクリストなしで仕事をする3つのデメリット

「上から順番に処理する」ことのメリットを説明するためにここでは逆に、上から順番に処理するタスクリストを使わないとどんなデメリットが生じるのか。話していこう。

デメリットは次の3点になる。

(1)認知リソースをムダに消費する
(2)冷静な判断ができなくなる
(3)先送りしやすくなる

一つひとつ説明していこう。

(1)認知リソースをムダに消費する

意外かもしれないが、次にどのタスクに取り組むか意思決定するだけでも認知リソース(≒いわゆる意思力のようなもの)は消費される。

リストに10個のタスクが順不同に書き出されているとする。ひとつのタスクを終えるたびに「次はどれに取り組もうか」と取捨選択する際も、考える分、頭を使うはずだ。ここでも我々は認知リソースを消費しているのだ。

どのタスクに取り組むか意思決定するのに、1回ならたいして認知リソースを消費しないかもしれない。だが1日10回、20回も意思決定していればそれなりに認知リソースを消費する。

我々は日々の生活において意識する・しないにかかわらず、さまざまな意思決定を行っている。アップル社の創業者スティーブ・ジョブズやフェイスブックを立ち上げたマーク・ザッカーバーグが、毎日の服装を同じスタイルで統一して日々の決断つまり意思決定の頻度を減らしたと言われているのは有名な話だ。

「上から順番に処理する」とルール化してしまえば、タスクAに取り組んだ後に次はどのタスクに取り組むかなどと考える余地がなくなる。その結果、認知リソースを消費せずにどんどん仕事に取り組んでいけるようになる。

認知リソースは非常に貴重な資源だ。これをムダ使いするメリットはひとつもない。「上から順番に処理する」タスクリストを使って、認知リソースを節約しよう。

(2)冷静な判断ができなくなる

先にも触れたが、日々仕事に忙殺されている状態では人は冷静な判断をすることが難しい。

たとえば仕事が多すぎるため取りこぼしがないようにTODOリストに今日やるべきA〜Eまで5つのタスクを順不同に書き出しているとする。今は午前10時。認知リソースが比較的豊富にある状態だ。

難敵のタスクBに集中して取り組もうと思った矢先、取引先から電話がかかってきた。先方の上司同席で1週間後にプレゼンをしてほしいと依頼される。ここで君が冷静なら電話を切ったあと、本来取り組もうとしていたタスクBに着手しはじめるだろう。

だが、ただでさえ抱えている業務が多いなかTODOリストにさらに新しい作業が加わった。その事態に焦りが生じる。焦りは冷静な判断力を奪う。判断力が低下してしまうと、目の前のやるべきタスクではなく新たに出現したタスクに「ひとまず今取引先から依頼されたプレゼンの準備に取り組もう」と考えてしまうのだ。

そうして気がつけば夕方になる。この時間帯になると認知リソースはほとんど残っていない。ここからタスクBに取り組もうと思っても、もう遅い。君は「タスクBは明日、集中して取り組むか」と考える。結果本来やるべきだったタスクBに取り組めずに1日を終えることになる。

このように、心に余裕のない状態では人は冷静な判断ができなくなり、安易な選択をしてしまいがちだ。これを避けるためには迷いが生じないように「上から順番に処理する」ルールにのっとる必要がある。

この話が次の(3)の「先送りしやすくなる」の話につながる。

(3)先送りしやすくなる

人がある行動を取ろうとするとき「やるかやらないか」の選択肢、つまり「迷い」があるとその行動は先送りされる可能性が高まる。この話は逆に「なぜ人は締め切りギリギリになると、仕事にとりかかれるのか」を考えるとわかりやすい。

たとえば1時間後にはじまる会議で使う資料をまだ作っていないとする。こんなギリギリの状態なら、君は資料作りを先送りしようなどとは微塵も考えず、資料作成にすぐにとりかかるはずだ。なぜか。

それは「今」資料作成に着手しなければ間に合わないからだ。このタイミングで君には資料作成に「今」取り組むか、「後」で取り組むかの選択肢がない。仕事を放棄しない限り、そのタスクを先送りするという選択肢が生まれない。だからこそ君は、確実に資料作成に着手することができる。

このことからわかるのは、人は「今やるか、後でやるか」の選択の余地がなければ仕事を先送りしないということだ。「上から順番に処理する」タスクリストはこうした人の習性を利用して、先送りのリスクを極小化するものだ。

リスト通りに上から順番にこなしていくとルール化することで、選択といった「思考」の入りこむ余地をなくす。ここがポイントだ。なぜなら思考の入りこむ余地があるからこそ、人には迷いが生じ、先送りが起きやすくなるからだ。

さまざまな思考の中には「今は疲れてるし、どうしようかな」という迷いも含まれる。こうした迷いが生まれ、選択肢が生じた時点で「負け」だ。しかも次のタスクが難解なものであれば、かなりの確率で先送りするハメになるだろう。

これはそこに「迷い」が生まれたからだ。迷いが生じて安易な選択をしてしまった経験は誰にでもあるはずだ。ロボットのようにルールにのっとり、迷いや選択肢の余地を自分自身に与えないことでどんどん仕事を進めていけるようになるというわけだ。

滝川 徹(タスク管理の専門家)
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。 

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年4月22日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。