インドの「反改宗法」とラブ・ジハード

バチカンニュース(独語電子版)は21日、インドの「反改宗法の禁止」を求める声を紹介していた。世界最大の人口大国インドで4月19日から議会下院選挙が実施中ということもあって、インドに対する関心が高まってきている。選挙結果は6月4日に発表される予定だ。

日印首脳会談で岸田文雄首相を迎えるモディ首相(2023年9月19日、G20ニューデリー・サミットで。首相官邸公式サイトより)

インドの「反改宗法」について考える前に、同国の宗教事情を調べてみた。2011年の国勢調査によると、人口の79.8%はヒンドゥー教が占め、それに次いでイスラム教が14.2%、キリスト教が2.3%、シーク教が1.7%、仏教が0.7%、ジャイナ教が0.4%と続く。ちなみに、インドではキリスト教は主に西部と南部の地域に集中しているという。

インドでは憲法で宗教と良心の自由が保障されているが、インドの29州のうち、7州-グジャラート(2003年)、アルナーチャル・プラデーシュ(1978年)、ラージャスターン(2006年)、マディヤ・プラデーシュ(1968年)、ヒマーチャル・プラデーシュ(2006年)、オリッサ(1967年)及びチャッティースガル(1968年)では、「改宗禁止法」が採択されている。これらの反改宗法は通常、力の行使、勧誘又は何らかの不正手段による改宗を禁じており、また、改宗させようと活動する者を幇助することも禁じている」(日本法務省入国管理局の情報ノート、「インド・宗教的少数派」から)。

バチカンニュースによると、英国のキリスト教人権活動家らはインドで施行されている広範な反改宗法の廃止を求めている。世界中で迫害されている教会を支援する団体「リリース・インターナショナル」は声明の中で、人民党(BJP)が2014年に政権にカムバックして以来、インドで「キリスト教徒に対する不寛容が劇的に増加している」と述べている。「反改正法」が施行されている州はナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党によって統治されている。

興味深い点は、改宗で大きな問題となるケースはヒンドゥー教徒が少数派宗派に改宗したり、少数宗派の信者と婚姻した場合だ。改宗禁止法は、虚偽表示、脅迫や武力行使、詐欺、不当な影響力、強制、誘惑、結婚などによる宗教の変更や、ある宗教から別の宗教への改宗の試みを禁止している。「リリース・インターナショナル」のエグゼクティブ・ディレクター、ポール・ロビンソン氏は「反改宗法は信教の自由を保障するインドの憲法に違反している」と強調している。「法律はクリスチャンが自分の信仰を他の人に伝えることを妨げている」というわけだ。

ヒンドゥー教徒がイスラム教徒と婚姻する場合、キリスト信者との婚姻より迫害はさらに深刻だ。「ラブ・ジハード」(愛の聖戦)という言葉がある。ヒンドゥー教徒の女性がイスラム教徒の男性と結婚するためにイスラム教に改宗した時、家族関係者は「ラブ・ジハード」として「反ヒンドゥー教の陰謀だ。娘は洗脳された」と裁判に訴える、といった具合だ(日本法務省入国管理局の情報ノートから)。

イスラム教徒は教えを積極的に人に伝えようとする。それに対し、ヒンドゥー教至上主義者からは「ラブ・ジハード」として警戒される。インドではキリスト教徒や他の宗教的少数派がヒンドゥー至上主義者に強制的に改宗させられる事例が結構多いという。

バチカンニュースは20日、「インド南部テランガーナ州ではヒンドゥー教の暴徒が宣教師が運営する学校を襲撃するという事件が生じたが、警察側から取り締まられたのは学校側で『宗教間の敵対を助長した』と逆に訴えられた」と報じている。

宗派間の対立、葛藤はどの時代、どの地域でも生じてきた。そして一つの宗派から他の宗派に改宗する信者も少なからず生まれてきた。改宗は学校や職場を変えるよりもその波紋は大きい。

最後に、「改宗」という言葉を聞くと、アイルランド出身の作家で「ドリアングレイの肖像」や「幸福な王子」で良く知られているオスカー・ワイルド(1854年~1900年)を思い出す。彼はプロテスタントだったが、死の前日、カトリック教徒に改宗している。その動機が耽美派のワイルドらしいのだ。曰く「カトリック教会の式典のほうが華やかだから」というものだった。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。