文章を書くときの慣行として「5W1H」というものがあります。
欧米では「Five Ws」ですが、日本ではさらに「1H」をプラスして「5W1H」と呼ばれます。文章のテクニックとして「六何の法則」などともいわれています。
「5W1H」の落とし穴
多くの文章術の本で「5W1H」は必須スキルだと書かれています。When(いつ)、Where(どこで)、Who(だれが)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どのように)を押さえて書くというものです。じつは、まったくの無用の長物です。「5W1H」を意識しすぎるとかえって伝わらなくなります。
役立たないというのではありません。商談用の文書や報告書を作成したり、共通認識を持たせるためには役立ちます。しかし、考えてみてください。日常会話で「5W1H」で話している人などいません。それでは、「5W1H」で書いた日記を見てみましょう。
<例:5W1H で書いた日記>
朝7時に起床し、お昼の12時(when)に彼女の家に車で迎えに行った(Where)。その後、お台場まで2人(Who)でドライブ(What)デート(Why)を楽しんだ。22時には彼女を家まで送った(How)。
極端な書き方ですが、「5W1H」をすべて使用して文章を作成するとこうなります。不明点やモレはありませんが、まったくしみじみきません。
会社の報告書やレポートに使用するなら、これほど合理的で無駄のない文章の書き方はありません。「5W1H」を意識した報告書を書いてみます。仕事上の トラブルが発生し、社内に共有する目的だと仮定します。
<例:ホワイト食品乳業(仮称)とのトラブルについて>
昨日の14時(When)に、ホワイト食品乳業(Where)に納品された商品に不良品が混入している(What)ことが、明らかになった。営業担当の清水(Who)が16時に訪問し、総務部田中課長に謝罪(Who)をした。不良品は速やかに回収し、明後日までに再納品することで合意(How)した。原因は調査中でわかり次第報告する(Why)。
「5W1H」が報告書向きであることがわかります。ロジカルに書かれているので、ことの顛末が第三者にもよくわかります。事実を淡々と伝えれば、基本的な報告書は完成します。
「ロジカル」で感動は生まない
ビジネスの世界では、「5W1H」を意識してさらにロジカルを意識することで、ビジネスを潤滑に進めることができるという人がいます。また、このように伝えられる人が「デキる」と評価される向きさえあります。しかし、それは幻想です。
ロジックやロジカルは相手を説得したり、事実を客観的に伝えるためのフレームワークにすぎません。そこからは何も価値は生み出されません。どの会社にも、必ず「ロジカル・バカ」みたいな人がいますが、人の気持ちはロジカルでは動きません。
テーマが「裏金疑惑」だろうが、「経営課題」だろうが、「サザエさん」だろうが、ロジカルに説明することはできます。ただそれはあくまでも、報告書という体裁の場合だけです。
ニュースの報道も「5W1H」ですが、これは事実を端的に伝えるため。視聴者を感動させる要素は必要ありません。ロジックやロジカルにだまされてはいけないのです。
繰り返しますが、人に伝えたいと思うならロジカルではなく、感情に訴えて「共感」を生み出すことが必要になります。社内の「ロジカル・バカ」には気をつけてください。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
■
2年振りに22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)