立憲全勝、自民全敗も政策思想を欠く空白の争い

政治空白と円売りの連動を懸念

衆院3補選で立憲民主党が3勝、与党の自民党が3敗しました。「岸田首相の政権運営に打撃」、「自民1党優位体制に崩壊の予兆」、「岸田首相では次期衆院選を戦えない」との声が強まっています。日本の政治は長い空白期に入ると思います。

kanzilyou/iStock

立憲民主党と含む野党に、「厳しさの増す国際環境の中で、日本をどうしていくのか」という統一された政策思想があるとは考えられません。「全勝万歳」をした後、どういう政治をするというのか。「打倒自民党体制」を叫んでばかりが政治ではないはずです。

他方、経済面をみると、超長期にわたる大規模金融緩和・財政膨張政策の「負の遺産」が背景にある円安・日本売りが止まりません。財務省が1㌦=160円という34年ぶりの円安に対し、円買い介入をしても効果に限界があり、円安は長期化すると思います。

民間企業からも「異常とも言える円安だ。日本の国力そのものが危険にさらされている」(森田NEC社長)、「経済のファンダメンタル(基礎的条件)を考えれば、行き過ぎた円安だ」(十倉経団連会長)などの声が噴出しています。それに対し、日銀は動くに動けない。

ともに袋小路にはまり込んだ政治と経済が「負の連動」を始めないよう祈るばかりです。経済も社会、世界的な大変革期を迎えているのに、自民党の世襲議員が牛耳る政界・政治の改革は進まなかった。政治が政権維持のために主導した経済面でも、産業界・企業が大規模金融緩和と財政膨張策に依存しすぎて、大変革期への対応を怠った。

政経は「負の連動」をしてきたと、思えて仕方がない。

自民党全敗の原因は「政治とカネの逆風が直撃」(日経)、「裏金が自民に逆風」(読売)、「裏金対応で信を得られず」(朝日)と、メディアは分析しています。それは表面的な話で、問題の根はもっと深いところにある。

法律に触れる「裏金」そのものより、裏金を使ってどのような政治をしてきたか。今後、自民党はどのような政界構造に変えていくつもりなのか。そのことに有権者は不信の目を向けたのです。

注目度の高かった東京15区で当選した酒井菜摘さんは「野党第一党として責任を持ってまっとうな政治を実現していく」、「利権やおカネでなく、国民の声を受けて動くという訴えに理解をいただいた」と、喜びの声を語りました。掘り下げ方が全く足りません。

「まっとうな政治で何を実現していくのか」、「国民の声を受けてどう動くのか」を語らなければなりません。政治の初歩的条件を述べたのにすぎません。中身がないのです。それは与党も同じです。

「ポスト岸田」に向けて動きが活発になると、メディアは言います。そうなんでしょう。例えば、「小石河連合」(小泉、石破、河野氏)が党内支持を拡大する可能性がある(読売)そうです。

では、かれらはどういう政治政策思想を持ち、どのような政治をするのかに触れていない。「小石河連合」に限らず、自民党が総裁候補を決めるにあたり、「誰と誰の関係がいい」、「誰と誰の関係が悪い」という視点から、多数派工作がなされる。政策思想、政策ビジョンは後づけです。

「メディアの解説も人間関係で次を予想するだけで、政策やビジョンの中身に踏み込んでいない」と、北岡伸一・東大名誉教授は指摘してます。

政治資金規正法を改正して、カネの流れを透明にし、きちんとチェックし公表する流れです。議員は資金報告書を自ら点検し、「確認書」に署名する。それは政治をするにあたっての基礎的な条件に過ぎません。

カネを正しく使ってどのような政界構造に変えるのか。その議論がないまま、裏金疑惑に幕引きがなされるようでは、自民党体制に対する失望は続くでしょう。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年4月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。