米議会4/29-5/2:グリーン議員はジョンソン下院議長に解任投票を要求するかに注目

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今週の最大の注目は、共和党グリーン議員がジョンソン下院議長の解任を求める投票を要求するかだ。解任投票をいつ実施するか明言を避けているが、党内からの批判にも直面している。あれだけウクライナ支援に反対しておいて、解任投票を実施すると騒いでいたのに実施しないと口先だけになる。

共和党下院議員でジョンソン下院議長の解任投票が実施されればグリーン議員を含め3名は賛成に投じると宣言している。

数議席の差しかないため、民主党全員が解任賛成に投じれば解任は成立してしまう。民主党ジェフリーズ下院院内総務も、4月29日時点ではどうするかについては明言していない。民主党下院指導部で大半の票が動くので、ジェフリーズ下院院内総務の発表待ちとなる。

(追記)
民主党ジェフリーズ下院院内総務をはじめとした民主党下院指導部は、4月30日に声明文を発表した。共和党を非難しつつも、最終的には「グリーン議員の解任投票要求は成功しない」と発言している。おそらく、下院民主党の大半は解任投票がもし行われれば否決に投票するということだろう。

4つの対外支援法案の投票結果

4/23(火)に4つの法案をまとめた対外支援法案が可決し、24(水)にバイデン大統領は署名した。ウクライナへの弾薬などの兵器輸送は数時間以内に開始すると発表した。

「21st Century Peace through Strength Act」には、「REPO for Ukrainians Act」と「PROTECTING AMERICANS FROM FOREIGN ADVERSARY CONTROLLED APPLICATIONS ACT」が含まれている。

前者のREPO法案は、ウクライナへの財政支援のため、凍結されたロシア中央銀行などの公的資産をウクライナに移転する権限を行政府に与えるものだ。米国の管轄下にあるのは40~50億ドルだが、パートナー関係にある国には 3000億ドルのロシアの公的資産が凍結されている。欧州に対してどう求めていくのかは注目に値する。

後者の法案は、TIKTOKを売却するか、米国内での利用を禁止する法律だ。これについては、後ほど記載する。

4つの法案詳細については、以下リンク先から過去ブログを参照ください。

下院はウクライナ・イスラエル・インド太平洋支援法案を公開!「21st Century Peace through Strength Act」には凍結されたロシアの資産利用やTikTok法案も盛り込まれる – 指数を動かす米議会

投票結果を整理する(Rは共和党議員、Dは民主党議員、Iは無所属)。

まずは下院から。下院は4法案それぞれで採決を行った。

① 21st Century Peace through Strength Act(TikTok売却か禁止法案を含む)
YES:360(R 186 / D174)
NO:58(R25 / D33)
Present:0
Not Voting::13(R7 / D6)

② THE INDO-PACIFIC SECURITY SUPPLEMENTAL APPROPRIATIONS ACT, 2024(総額81.2億ドル)
YES:385(R178 / D207)
NO:34(R34 / D0)
Present:1(D1)
Not Voting:7(R6/D5)

③ THE UKRAINE SECURITY SUPPLEMENTAL APPROPRIATIONS ACT, 2024(総額608億ドル)
YES:311(R101 / D210)
NO:112(R112 / D0)
Present:1(R1)
Not Voting:7(R4 / D3)
※ ジョンソン下院議長、スカリス下院院内総務、エマー院内幹事はYESに投票したが、他指導部の Stefanik議員、 Palmer議員はNAYに投票。下院共和党最大のRSCは票が分かれた。RSC議長ハーン議員はNO。

④ The Israel Security Supplemental Appropriations Act, 2024(総額263億8000万ドル)
YES:366(R193 / D173)
NO:58(R21/ D37)
Present:0
Not Voting:7(R4 / D3)

いずれの法案でも反対票を投じたのは、共和党はフリーダムコーカスが中心、民主党はプログレッシブコーカス議員中心だった。

ウクライナ支援、インド太平洋支援について民主党からの反対票は0だった。

次に、上院。上院は上記4法案をまとめて1つのパッケージにして採決にかけた。上院は民主党2名を除き全員YESに投票だった。共和党上院から31名も賛成票が入ったのは、ウクライナ支援を推進してきたマコネル上院院内総務にとっては勝利だったといえよう。逆に、クライナ支援に反対してきたトランプ氏にとっては敗北となり、たった15名の反対と3名の投票棄権にしかならなかった。

共和党からの反対票は、ほぼ全員トランプを支持しているメンバーとなった。

それにしても、VT州の上院2議員が反対しているというのも象徴的だ。リリース文では「パレスチナの住人に対して攻撃し続けるネタニヤフ政権にこれ以上、米国民の税金として何十億も提供すべきではない」という見解だった※1)

NAYs —18 (R15/I 1/D2) 参照元: Vote Summary
Barrasso (R-WY)
Blackburn (R-TN)
Braun (R-IN)
Budd (R-NC)
Cruz (R-TX)
Hagerty (R-TN)
Hawley (R-MO)
Johnson (R-WI)
Lee (R-UT)
Lummis (R-WY)
Marshall (R-KS)
Merkley (D-OR)
Rubio (R-FL)
Schmitt (R-MO)
Scott (R-FL)
Sanders (I-VT)
Vance (R-OH)
Welch (D-VT)
Not Voting – 3
Paul (R-KY)
Scott (R-SC)
Tuberville (R-AL)

TIKTOKを売却するか、米国内での利用を禁止する法律が可決。ByteDanceは訴訟で勝てるのか?

Protecting Americans From Foreign Adversary Controlled Applications Actは、BytedanceがTikTokを売却すれば、何の問題もなく米国内で利用できるため、TikTokの利用そのものを禁止する法案ではない。

① 懸念国の支配下にあり、国家安全保障上のリスクをもたらす特定のアプリケーションを大統領が指定するプロセスを確立。
※直近数カ月の月間アクティブユーザーが100万人を超えるアプリ(主にSNS)が対象。つまり月間アクティブユーザーが100万人以下なら対象にならない。

② ①で国家安全保障に対する脅威だと認定された場合、大統領は事業売却命令を出すことが可能になる。売却しなかった場合でも、利用禁止や利用制限を命令できる。
命令があったとしても、1年の猶予期間に延長された。
→この大統領の判断に従わない場合、事業主に罰金が科される。

③ 事業売却に従わなかった場合、アプリケーションの利用禁止とアプリストアでの配布が禁止される。

懸念国の提議については、外国の敵対勢力(foreign adversary)が直接または間接的に20%以上の株式を保有する企業、あるいは 敵国(foreign adversary country)の法が適応される組織・事業※2)、または外国の敵対者の指示を受ける企業と定義している※3)

ByteDanceは憲法修正第1条である表現の自由を法的根拠として、この法律に対して訴訟すると宣言している。この訴訟は対中政策および他の中国アプリに影響を及ぼす可能性がある訴訟に発展すると思うので非常に注目している。

関係筋の話ではあるが、ByteDance社は法的手段などあらゆる手段を尽くしても売却が防ぎきれなかった場合は米国で閉鎖する意向を示しているようだ※4)

この訴訟の行方を予測する上で、2つの判例を知っておく必要がある。

重要な判例としてはLamont v. Postmaster General※5)だ。

1962年、米議会は「the 1962 Postal Service and Federal Employees Salary Act」を可決した。これは、米国人が海外の共産主義に関する出版物を制限する条項も含まれている。郵便局長は海外から送られてきた出版物を検閲し、共産主義のプロパガンダ出版物だと判断して、それを送らずに受取人に通知ハガキを送り20日以内の配達を依頼することが必要になった。郵便局は共産主義のプロパガンダ出版物の受取を希望する人たちのリストまで保管されることになった。

それに対して、憲法修正第1条の言論の自由に違反しているとして訴訟を起こしたのがコロンビア大学のラモント博士だった。最終的に、ラモント博士が勝利して、この法律は無効とされた。

最高裁は、あからさまなプロパガンダであろうが、どんなに間違った情報だろうが米国民が自由に出版物を消費する憲法修正第1条の権利を奪うことを拒否したのである※6)

また、1988年に改正した国際緊急経済権限法(IEEPA)バーマン修正条項も重要だ。敵対国からの情報コンテンツの輸入を規制・禁止する権限を大統領権限から外した。敵対国からのコンテンツを制作・販売企業を経済制裁違反の罰則からも守るものだ。1994年にはコンテンツのフォーマットや伝送媒体に関係なく適用されるようになった※7)

立法側もよく考えたと思うが、一方的なコンテンツ禁止に持ち込むのは既に判例があるので負けることになる。さらに、今回は禁止ではなく、まずは売却を求めている点で異なる。また、現在の最高裁判所の判事は始原主義(憲法制定当時の考え方を重んじる)を貫いている。憲法制定当時、プラットフォームやアプリは存在していないわけなので、今まで何度か判決をだしてきたように「米議会で立法すべき」となり米議会側の勝利になる可能性もある。

冷戦下でも米国民は自由にコンテンツを閲覧権利を守られたが、今回の判決で大きく変わることになるかもしれない重要な裁判となるだろう。

※1: Citing devastation in Gaza, Sanders and Welch oppose aid package for Ukraine and Israel
※2:(1)北朝鮮、(2)中国、(3)ロシア、(4)イランと定義されている。参照元:合衆国法典第10章4872条(d)項
※3:Protecting Americans From Foreign Adversary Controlled Applications Act について参照した記事

※4:Exclusive: ByteDance prefers TikTok shutdown in US if legal options fail, sources say
※5:Lamont v. Postmaster General(1965)
※6:To Protect Free Speech, Congress Should Consider Alternatives to Banning TikTok
※7:TikTok Ban Faces Obscure Hurdle: The Berman Amendments


編集部より:この記事は長谷川麗香氏のブログ「指数を動かす米議会」2024年4月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「指数を動かす米議会」をご覧ください。