イチゴ白書をもう一度。学生を焚きつけたイスラエルの行方

カナダ国営CBCではここ連日イスラエルの行動に反対の声を上げる各地の大学での親パレスチナ(Pro Palestinian)行動を大きく報じています。アメリカ、コロンビア大学がその運動の中心でアメリカ全土に広がっているこの運動はカナダの大学でも東から西まで激しく動いています。一部の報道は学生ではない人たちが扇動していると報じられていますが、仮にそうであっても多数の学生がフォローしているのは確かです。

キャンパスが封鎖されたので食料を要求するコロンビア大学の学生とおぼしき女性

日本で安保の際に学生運動が盛んになり、その際に「当大学の学生ではない者が主導している」ということもあったと理解していますが、この手の流れは世の常でしょう。今日頻繁に発生するデモやストライキも運動家や組合上部組織が問題を提起し、それに乗じる関係者という構図は何処にでもあります。

さて、1968年のコロンビア大学のベトナム戦争を背景にした学園紛争が70年に「いちご白書」という映画になり、ばんばひろふみさんが松任谷由実さんに頼んでできた曲が「イチゴ白書をもう一度」です。

今回の学生の運動をベトナム戦争の時の学生運動と似ているとする向きもあります。第二次大戦までは戦場でどのような悲惨な戦いが行われているのかリアルタイムで知ることはできませんでした。そのため、戦後に写真や書籍を通じてその悲惨さに声を上げるケースがほとんどでした。ベトナム戦争の時はテレビがあったので学生たちは画面越しに見る戦争に強く反発したのでした。が、アメリカの報道機関も右寄り、左寄りがハッキリしており、視聴者が正しい判断をするのが難しかった部分はあります。つまり報道が恣意的とまではいわないまでも自社の放送ポリシーに合わせたものになりやすかったのも事実です。

ところが今はSNSが普及し、フィルターのかからない生の声や写真、動画が無数に広がり、それらをみた若者がダイレクトな感情表現をする時代になったとも言えます。よって反対の気勢も上がりやすいというのが流れではないでしょうか?

ではイスラエルはこのような事態を今後、どうするつもりなのでしょうか?私の見る限り、イスラエルの戦時政権は行き場を失いつつあるように見えます。そもそも現政権発足時に「イスラエル史上最も右寄りの右派政権」とされ、第1党の「リクード」、最右翼「宗教シオニズム」、右派の「ユダヤの力」が連立を組んでいます。

その中で強硬派の「宗教シオニズム」出身で財務大臣のベザレル・スモトリッチ氏や「ユダヤの力」のベングビル国家治安相がリクード出身のネタニヤフ首相に激しく戦争をそそのかしています。更に最新の情報ではこの2人らが中心となり、政権離脱をネタニヤフ氏に突き付けているとされます。一方、カッツ外相は中道派で「人質解放合意ならラファ侵攻見合わせ」と発言、これがネタニヤフ首相に即座に否定され、政権が発する声に一貫性すらなくなっています。

端的に言えばネタニヤフ氏は板挟みでありますが、氏も根っからの右派ですから首相としての発言は引き続き強気一辺倒であります。

そんな状況の中、ICC(国際刑事裁判所)がネタニヤフ氏を含む今回の紛争責任者に人道や戦争扇動を理由として逮捕状を発する準備をしているとされます。(プーチン氏にも発せられたのはご記憶にあると思います。)これに対し、ネタニヤフ氏がバイデン氏に電話をして「逮捕状が出ないようにしてくれ」と懇願しています。ただ、アメリカはICCには加盟していないのです。そしてICCの所長は今は赤根智子氏であります。(赤根氏はプーチン氏に逮捕状を出した一人としてロシアが指名手配していますが赤根氏は頑としたポリシーを持っています。)バイデン氏がどれだけ政治力を使っても赤根氏は正論を掲げるでしょうからネタニヤフ氏らへの逮捕状は出る公算は大いにあるとみています。

現在、ブリンケン国務長官がその調停で関係国や関係者と必死の調整を行っていますが、ブリンケン氏もイスラエル寄りのスタンスであることは間違いなく、これがバイデン政権に大きな影を落としています。バイデン氏の支持率下落が止まらないのはアメリカ民主党政権時にいつも頭痛のタネになる外交問題で中途半端な立ち位置を取らざるを得ないからでしょう。しかし、今回のバイデン外交の失態がトランプ氏支持につながるかといえば真逆で学生の声は「両方嫌だ!」なのです。

これらを含め、今回の問題の切り口と論点をいくつかに整理します。①イスラエル政権の行方 ② イスラエル国民の声 ③アメリカのイスラエルへの姿勢 ④調停案をもらったハマスの判断 ⑤国際世論の動き ⑥パレスチナとイランの反応 でしょうか?それぞれがほぼばらばらに動いており、一貫性がなく統一感もありません。利害が一致しない点において収拾のつけ方が難しいと思います。

が、外交は強硬と軟弱をいかに取り混ぜ、かつ第三者の調停を聞き入れるかにかかっています。今、イスラエルが聞く耳を持たないなかで「戦争を止めよ、休戦せよ」という声を出せるのは世論だけなのかもしれません。とすればイスラエル戦時内閣が崩壊するのが休戦の条件となる可能性が高いようにも思えます。では政権を離脱するという2人の閣僚が離脱すれば政権が崩壊するので本気で言っているとは思えないわけで、現政権、世論及びアメリカがネタニヤフ氏個人を追い込んでいるというのが私の考えるところです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月2日の記事より転載させていただきました。