「出生率の冬」を如何に克服するか:韓国の合計特殊出生率が0.72人

韓国の昨年の合計特殊出生率(以下、出生率)が0.72人と発表された時、さすがの韓国国民もかなりのショックを受けたのではないか。韓国では2018年から出生率が0人台が続いているというから、正直言って「韓国は大丈夫か」と考えざるを得ない。

初老の男性と小犬(2013年9月25日、イタリア北部のベルガモにて撮影)

北朝鮮からの武力侵略を恐れる以上、国内で進行する超低出産(超少子化)現象が最大の脅威ではないか。国家と呼ばれるには、主権、国民、そして領土の3条件が必要だが、韓国では肝心の国民が年々減少してきているのだ。金正恩総書記が核のボタンを押すのではないか、といった不安より、超低出産減少で国家が溶けて消滅してしまうのではないか、といったほうがより現実的な脅威ではないか。

少子化は韓国社会が直面している問題というより、日本を含む先進諸国が対峙している問題だ。聖職者の独身制を実施するバチカン教皇庁が少子化について憂慮していると言えば、少々奇妙な感じがするが、南米出身のフランシスコ教皇は少子化現象に対して危機感をこれまで何度か吐露してきた。

国際カトリック世界家族会議が2022年6月に開催されたが、その会議でフランシスコ教皇はイタリアでの出生率の低下について懸念を表明し、「多くの人々が子供を望むことを失い、多くのカップルが子供なしまたは1人の子供だけで生活することを選ぶようです。これを考えてください、それは悲劇です!(…)私たちは皆、私たちの良心を安心させ、私たちの家族、私たちの故郷、さらには私たちの未来に対抗するこの人口減少の冬を乗り越えるために最善を尽くさなければなりません」と述べている。フランシスコ教皇は少子化による人口減少を「人口学的ウインター」、「出生率の冬」と表現している。

ローマで今年もイタリアにおける出生率の低下に対するイベントが開催される。バチカン教皇庁の広報によると、フランシスコ教皇は昨年に続いて今年も今月10日のイベントに参加する。このイベントは「もっと子供、もっと未来」というテーマのもと、2日間にわたってローマで開催される。
教皇は昨年、イタリアのジョルジア・メローニ首相と共に集会に出席した。そこで「子供が少なく生まれると、希望も少なくなります。そして、これは経済や社会だけでなく、将来への信頼までも脅かします」と強調している。

ちなみに、イタリアは欧州でも出生率が最も低い国だ。2022年、イタリアの統計局Istatによれば、1人の女性当たりの子供の数は1.24人だ。ドイツでは、1人の女性当たりの子供の数は1.46人だった。

イタリア語にはドルチェ・ヴィータ(Dolce Vita)という言葉がある。直訳すれば「甘美な人生」といった意味だ。束縛されることなく、人生を楽しむイタリア人気質を表した言葉ともいわれる。イタリア人は楽しむことが大好きな国民だ。そのイタリアは今日、世界的少子化国となった。村では人間の数より犬の数のほうが多いところがある。

韓国の日刊紙ゼゲイルボは3月14日、「韓国の少子化原因は養育費、教育費、住居不安定、雇用不安定、仕事と家庭の両立困難、難妊、競争社会、首都圏人口集中などだ。このような原因を克服するために約20年の間努力したが、いかなる対策も無効だった」と指摘する一方、「人口学的危機の克服には少子化の原因に劣らず子供に対する価値の再評価」を提示している。

少子化対策では先進諸国でさまざまな対策が試行錯誤されてきたが、「これこそ少子化を克服できる対策だ」といった処方箋はまだ聞かれない。少子化の背後には国、民族など複合的な要因も絡んでくる。

当方は社会学者でもないし、少子化問題の専門家ではないが、少子化現象の背後には、未来に対する恐怖、不安があるのではないかと感じている。誰が不安と恐怖を感じる未来に自分の子供を残したいか。逆に、未来が希望で溢れているならば、自分の子供もそのような世界に生きてほしいと思うだろう。

少し、哲学的なアプローチをする。現代人が感じている恐怖、不安はどこから起因するのか。現代人の不安、恐怖は経済的理由や現行の年金制度がいつまで続くかといった具体的な問題と関わってくる面もあるが、それ以上に、未来への漠然として不安、恐怖といったほうが当たっているのではないか。そして不安の根源は、人間存在そのものと深くつながっているように感じるのだ。物質的な繁栄が享受できる21世紀に入って、現代人は逆にその不安を他の時代の人間より敏感に感じ出している、と表現できるかもしれない。「不安」が主導権を握っている世界に新しい生命の誕生を願う人が多くいないのは当然かもしれない。

韓国ソウル Marco_Piunti/iStock


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年5月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。