ウォーレン・バフェット氏の市場への想い

岡本 裕明

ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャーハザウェイ社の株主総会が4日に開催されました。集まった株主は4万人に及びコンベンションセンターでの開催は「バフェット詣で」そのものでありました。今、北米の株主総会はバーチャルが大半で私のところに届く株主総会の案内でリアル開催のお知らせはほとんどなかったと思います。そういう意味では一年に一度のお祭りでバフェット爺の元気な姿を今年も拝ませてもらおうということなのでしょう。

バフェット氏 同氏ツイッターより

今年の総会のリアクションを見る限り、アメリカの金融市場ではアピアランスが下がっているように見えます。つまり、バフェット氏の影響力は以前ほどではなく、世代がはるかに若いファンドマネージャーやトレーダーが主体となっている中で爺の発言は響かない、そう見えるのです。

一つの理由にバークシャーが極めて高いリターンを示したのは1960年代から90年代までで2000年以降は標準的な指標のリターンと変わっていません。ではなぜ、それでもバフェット人気が衰えないかと言えば数字上、巨額な資金力でもって市場への影響力を維持しているからです。バークシャーのリターンを60年代から見れば初期に莫大なるリターンを上げているので2000年代に入り、人並みのリターンでも計算根拠となる60年代の金額からすれば毎年のリターンが巨額になるのです。

分かりやすく言うと60年代に一年間で100万円を150万円にしたら50%のリターン、これを30年近く続けて手元に10億円出来たとします。今年のリターンは5%であっても5000万円です。60年代の当初の元本から見れば50倍のリターンと計算されます。複利のマジックと積み上げと計算の仕方の魔法と言ったらよいでしょうか?ここを冷静に見るとバフェット氏は今の粋な投資スタイルには見えないのでしょう。これが好きか嫌いかは個人の好みだと思います。

さて、今年の総会の注目点の中でアップル株一部売却、日本株強気論、今は新規銘柄に投資する気になれないの3つが興味あるところだと思います。それぞれについて個人的感想を述べたいと思います。

アップル株を1-3月期に13%売却したと述べ、10-12月期に若干売った流れを加速させたことがわかっています。説明では税的リスク回避と述べていますが、私は詭弁だろうとみています。バークシャーのポートフォリオは現在でも5割がアップル株なのです。つまりアップルと心中状態です。プロのポートフォリオマネージャーがいるなら絶対にこのような投資配分にはならないのです。しかもバフェット氏はITがわからないからテック株には投資しないという中でブランドとしてのアップルに価値を見出し、家宝とまで言わしめました。

バフェット氏は93歳。本人が「人生の延長戦」と述べているので当然、どこかでバトンタッチが予想されますが、バークシャーの中でアップルのポートフォリオが大きすぎるのでそれを2-3年かけて修正する作業を少しずつ進めるのだろうとみています。個人的には長期的に50%を25%以下にしたいのではないかと思います。またアップルの輝きが永久なのか、賞味期限があるのかも判断どころだと思います。

次に日本株投資ですが、5大商社については既に9%の株式保有で各社と9.9%を上限とすると約束しているので買い増しの枠はさほど多くありません。一方、日本への投資に引き続き魅力を感じているとすれば円安で米ドル建ての日本株の価値が非常に低いのが理由の一つだと思います。バフェット氏自身、日本株を高く評価してくれるのはありがたいですが、個人的には嬉しくない話です。理由は私の円安嫌いの理由である日本の資産をハゲタカや鳶がかっさらっていく行為がより激しくなるからです。つまり日本の危機を招くアメリカからの日本投資ブームの火付け役になりかねない話なのです。

そんな中、商社がそろそろ買い増しいっぱいだとすればあと何処を買うかです。日本で元気が良いのはテック関連の製造業なのですが、バフェット好みには見えないのです。個人的にはズバリ金融株ではないかと思います。グローバルな観点、規模、理解のしやすさからすれば3大メガバンク、特に三菱UFJは魅力だと思います。保険業界もありかもしれません。

最後に「今は新規に投資する気になれない」点です。これは国債投資で5%程度のリターンがあればなぜリスクある株式に投資しなければならないのか、という話です。これは私も同感で同社は1-3月期に新規投資を決めた企業はゼロです。ではなぜ、株式市場はそれでも活況なのかといえば投資ファンドはバフェット氏のように現金で持っておくわけにはいかないからです。常に何かを買うことをほぼ強要されているため、市場がまるで呼吸をするように動くのです。しかし、一部の銘柄を除き、多くはこの1年間近くレンジ相場に近いと思います。つまり、突き抜ける銘柄がないのです。

バフェット氏からすれば「無理に投資はしたくない」と思うのでしょう。そのポジションが強くなればなるほど国債などでの所有が増え、バークシャーの魅力は薄れてくると思います。

アメリカの市場でバフェット氏の影響力がさほどなくなったのは現金と同等物を抱えるだけの企業では得るものはないよね、という若手のあっさりとした反応なのでしょう。私も以前から神通力はもうないと申し上げている通りで興味あるのは93歳でこれだけの人心をつかむ人間バフェットの魅力だと思います。氏は世界の投資家殿堂の横綱だけでなく、投資哲学者として長く称えらえると思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月6日の記事より転載させていただきました。