日本でなぜスタートアップは難しいのか?:有名人や肩書にイチコロの文化

日経が「スタートアップ倒産比率、最高に 試される日本の野生」と報じています。業歴10年未満のスタートアップの倒産件数が23年度は2700件、倒産全体8800件の約3割となっているとあります。リーマンショックの時は年間3000件を超えていた事実やコロナの時にあるべく倒産事業が助成金、支援金でゾンビ現象を起こしたことも含め、トレンドとしてはこれからあと1-2年は高い倒産率となるとみています。

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日本ではもともと起業率(開業率)が先進国平均と比べてダントツで低く、長期トレンドとしても下落しています。開業率の計算方法は当年の起業数と既存数の割り算で求めるもので日本は4%程度に対して英米独あたりは8-11%となっています。欧米は起業して廃業する新陳代謝が高いとも言えますが、日本は起業しにくい背景があると考えています。私も起業家ですのでその立場からなぜ、日本は起業しにくいのか考えてみたいと思います。

私がカナダでビジネスを展開しやすいと考える理由の一つは消費者が純粋に商品の価値を基準に評価してくれるからかもしれません。つまり誰でも知っている〇〇会社というブランドが必ずしもなくても人々はその価値を聞く力と見出す努力をしてくれるし、それが良ければ素直に褒めて他の人にも薦めてくれる、そういう文化が根付いていると思います。

私が駐在員として当地に派遣され、日本のゼネコンとしてコンドミニアムを作ることになりましたがブランド力ゼロの我々がどうして完売できたのでしょうか?スタートは苦労の連続でした。戦略として知名度を上げるために宣伝広告では会社の技術より物件のロケーションを売り物にしました。つまり、海際の眺望の良さで不動産価値を前面に押し出したわけです。

しかし、購入者は入居するまで2年以上待たねばなりません。その間、どんなものができるのか、びくびくだったでしょう。その不安を解消するために販売責任者だった私は購入者と常時、コミュニケーションラインを持ち、やり取りを積極的に行うことで「良い奴が窓口にいる」というイメージを作ったのです。欧米で信頼を得るのはディスクロージャーとトークの量だといっても過言ではありません。日本人はシャイの上にプレゼンが下手です。わたしもうまいわけじゃないけれど顧客ごとにハートをつかむ努力はしたと思います。そのコツはビジネスと関係ない話が7割、ビジネス話が3割という私の接客黄金比率だったかもしれません。

さて、日本では最近投資詐欺事件が話題になっています。有名人の名前を勝手に語ったりして顧客から資金を集める手法です。実は日本では有名人や一定の肩書にイチコロの文化が醸成されています。

例えば痩せる本には〇〇医学大学の〇〇教授監修という名前をよく見かけます。英語がペラペラできるようになる〇〇メソッドには〇〇大学の教授の名前が写真入りで出ていたりします。

その教授が誰だか9割の人は知らないのです。調べる人もほとんどいないでしょう。プロフィールに書かれている経歴を見て「偉そうな先生が監修しているなら大丈夫だよね」なんです。つまり販売会社にとってはその人個人の能力ではなく大学名と教授というタイトルだけが欲しいのです。当の教授も「あぁ、これですね、別に監修というほどじゃないんですよ。だけどお金にもなりますからね。ははは」ぐらいのものです。有名だから、偉そうだから、ということに対する信頼感は日本では絶対不滅なのです。

先日の小林製薬の問題にしても利用者の声には「小林製薬って誰でも知っている大手さんでしょ。だから信じちゃったのよー!」というテレビニュースのコメントを見て思わず苦笑いでした。

基本的に日本でブランド力が販売を左右する理由は何でしょうか?消費は基本的に2通りあります。普段、経常的に購入する食品や消耗品の消費、及び趣味や非日常的に使う消費です。後者の場合、消費者は非常によく調べて購入するのでブランド力が多少欠落していてもよい商品だという評価が出れば芽が出ます。

ところが経常的に消費するものの場合、女性が消費者の主体かと思います。その場合、消費に対してどうしてもコンサバティブになりやすい傾向があるのです。知っているブランドではないと手が出ないのです。理由はお金に対して絶対に失敗したくないという強い信念があるからで「今日はこっちを試してみよう」という冒険心は割と少ない傾向があるとみています。

例えば赤ん坊のおむつ。いつもA社だけどB社のが安かったから使ってみたらお尻がかぶれたという話はたまに耳にします。比較をした場合必ず優劣がつき、落とされたB社の製品は「二度と買わない」という失格マークがしっかりついてしまうのです。

このストーリー、かなりうがった見方だと思ってます。偏見だ、という方もいるでしょう。ただ、私が長年消費の動向を見てきた中ではそんなに外していないはずですが、それが表立って取り上げられないのです。なぜなら「男女平等社会で何という記事を書くのだ」と大目玉を食らうからです。

日本でスタートアップが不振であるのはこのブランド力がないために苦戦することはあると思います。この場合、BtoCの話ですが、BtoBの場合にはもっとハードルが難しいのです。例えば私が日本でビジネスを企業向けに持ち込んでも「あんた誰?」「どんな実績があるの?」という非常に冷たく箸にも棒にもかからない状態になります。理由は企業の購買や総務などは新しい仕入れ先を入れるのは嫌なのです。理由は「変なものを仕入れて会社からクレームが来たら俺の責任だし」なのです。

こう見ると日本でスタートアップが育ちにくい理由は私は消費側の保守性が大きな関門ではないかと思っています。もちろん、大手の安定した製品に対してスタートアップの供給する製品は不備だらけでしょう。100点なんて絶対に取れません。しかし、それを望むからスタートアップも育たないとも言えます。

「頑張ってね」ぐらいの応援はしてあげたいですね。そうすれば起業する人も勇気をもらえると思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月10日の記事より転載させていただきました。