軍事アナリストによると、ウクライナ軍は人員と弾薬の不足に苦しんでいる。ウクライナ東部のハリコフ、ドネツク、ルハンシク地域で軍隊を指揮するユーリー・ソドル将軍は、「敵の数はわれわれの7倍から10倍だ」というのだ。
ゼレンスキー大統領によれば、武器、弾薬の不足ではウクライナの一発に対してロシアの十発の砲弾という状況だ。チェコのウクライナへの砲兵イニシアティブは現在進行中だが、数週間内に多くの砲弾を提供できる見込みはない。ポーランドの軍事専門家ムジカ氏は「戦場では砲撃は最小限に抑えられ、しばしば司令官によって許可を受けなければならない状況だ」と説明していた。弾薬の配給制といった感じだ。
バイデン米大統領は4月24日、ウクライナ支援法案に署名した。これを受け、米国は約610億ドル規模のウクライ支援に乗り出す。ロイター通信によると、第一弾として約10億ドルの兵器供給として、車両、対空ミサイル「スティンガー」、高機動ロケット砲システム向けの追加弾薬、155ミリ砲弾、対戦車ミサイル「TOW」および「ジャベリン」などが既に承認されたという。
米国からの軍事支援は時間がかかるだろうが、ウクライナに届くだろう。その軍事支援は守勢に回るウクライナ軍に再び武器と弾薬を提供するだろうが、戦争がさらに長期化した場合、果たして米国からの軍事支援がいつまで続くかは分からない。ムジカ氏は「ウクライナの弾薬庫が完全に空になる前に、米国からの数十億ドルの支援パッケージが届けばウクライナにとって救いだが、不均衡を軽減するのに役立つが、それ以上ではない」と、米国の支援パッケージに対して過大な期待を戒めている。
問題はウクライナ軍の兵士不足だ。インスブルック大学の政治学者、ロシア問題専門家のマンゴット教授は4月28日、ドイツ民間ニュース専門局ntvでのインタビューで、「ウクライナ軍の兵士不足は欧米の軍事支援では解決できない問題だ。ウクライナ軍は少なくとも10万人の兵力が新たに必要だ」という。
ゼレンスキー大統領は4月2日、動員年齢を「27歳」から「25歳」に引き下げ、予備兵を徴兵できる法案に署名したばかりだ。ちなみに、ウクライナ議会では予備兵の徴兵年齢の引き下げ問題は昨年から議論されてきたが、ゼレンスキー氏は国民への影響を考え、最終決定まで9カ月間の月日を要した。
現在の戒厳令の下では、ロシア侵攻軍と戦うために、一部の例外を除いて、18歳から60歳までのウクライナ人男性は国外に出ることが認められていない。そのような中で、ウクライナの男性たちは毎日、前線での死を避けるために祖国を離れようとしている。2022年に戦争が始まって以来、ルーマニアとの国境にあるティサ川を渡ろうとして24人が死亡したという。また、国境警備隊は国境を越えて人々を密入国させようとした約450の犯罪グループを摘発したという。
キエフの外務省は4月23日、ウクライナに帰国するための身分証明書の発行を除き、海外在住の18歳から60歳までの男性ウクライナ人に対する領事サービスの一時停止を発表した。この措置は男性の母国への帰国を奨励するウクライナ政府の取り組みの一環だ。
なお、BBCは昨年11月、ルーマニア、モルドバ、ポーランド、ハンガリー、スロバキアからの不法国境越えに関するデータを引用し、開戦以来2万人近くの男性が徴兵を逃れてウクライナから逃亡していると報じた。戦争が始まって以来、検察当局は4万6000件以上の脱走および軍隊からの無許可退去事件を捜査しており、その件数は急速に増加傾向にあるという。
兵役年齢のウクライナ人男性が海外で居住している場合、彼らをウクライナに引き渡すべきだという声もある。エストニアなどは引き渡しの用意があるというが、ドイツは拒否している、要するに、ウクライナ側は不足する兵士を如何にかき集めるかで必死なわけだ。
外電によると、ウクライナ議会は囚人を招集して前線に派遣する法案を可決したという。ロシアでは既に昨年から、軍紀違反者や民間の犯罪者らが「ストームZ」と呼ばれるロシアの懲罰部隊に投入され、ウクライナの前線に派遣されているが、ウクライナでも同様に、囚人の招集、前線派遣を実施する。同法案によれば、恩赦と引き換えに、投獄された犯罪者をウクライナ軍の前線部隊に配備することが認められるが、これは囚人の自発的な意思にのみ行われ、殺人、強姦、国家安全保障への攻撃などの罪で投獄されている重犯罪者はその対象ではないという。いずれにしても、ウクライナ東部などの戦場では、ロシア軍の「懲罰部隊」とウクライナ軍の「囚人部隊」が戦いを繰り広げる、といった状況が予想されるわけだ。
ゼレンスキー大統領は6日の「歩兵の日」、歩兵、戦死した英雄の親族、部隊指揮官と面会し、国家賞、戦旗、名誉賞を授与した。そして「ウクライナがこの戦争に耐え、目標を達成する能力を保持しているという事実に対して、私はすべての戦士たちに感謝する。そして全てのウクライナ人、国民は、私たちの戦士たちが何を経験しているのか、どれほどの苦痛と損失を抱えているのかを常に忘れてはならない」と語っている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年5月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。