朝日新聞大槻規義記者の記事で「イベントで除染土を用い」を1週間後に訂正の謎:さらに変更箇所が

記事の根幹部分が覆っています

朝日新聞大槻規義記者の記事で「花壇に除染土を用い」を1週間後に訂正

  1.  4月21日有料会員向けメール配信の朝日新聞「アナザーノート」にて、高専学生と大熊町住民による復興住宅のイベントの件について、「イベントは町内の復興住宅の花壇に、放射性物質をできるだけ取り除いた除染土を用い、花を植える催しだった」との記述あり。書いたのは福島総局長の大槻規義記者
  2. 福島県議の渡辺康平議員が不審に思い事実関係を調べ、環境省、福島県、大熊町、福島高専に確認したところ、4月23日には「花壇に花植えはあったが除染土を用いた事実はない」ということが判明
  3. 4月28日にメール配信したアナザーノートにて『4 月 21 日に配信したアナザーノートで「イベントは町内の復興住宅の花壇に、放射性物質をできるだけ取り除いた除染土を用い、花を植える催しだった」とあるのを「イベントは町内の復興住宅の花壇に花を植え、その後、除染土の再利用について説明会が催された」に訂正します。』としていた
  4. ジャーナリストの林智裕氏が5月4日に朝日新聞に対して質問状を提出
  5. 回答期限の10日16時56分に朝日新聞から回答⇒『環境省によると、花壇に除染土は使われていませんでした。筆者の確認が不十分でした。おわびして訂正します。また、メールが正しく表示されない方向けの「オンライン版」についても、修正版を発行し、差し替えました。』
  6. 5月9日付の修正版には記事末尾に当該箇所の訂正経緯が記載

なお、記事末尾の訂正記述は以下のようになっています。

「総代で卒業の被災者」その注目がつらい 茶番に苦しんだ子どもたち:朝日新聞デジタル

4月21日にメールで配信した有料会員限定のニュースレター「アナザーノート」で、福島県大熊町内で開かれたイベントについて「町内の復興住宅の花壇に、放射性物質をできるだけ取り除いた除染土を用い、花を植える催しだった」とあるのを「町内の復興住宅の花壇に花を植え、その後、除染土の再利用について説明の場が設けられた」に訂正します。環境省によると、花壇に除染土は使われていませんでした。筆者の確認が不十分でした。おわびして訂正します。この記事ではその箇所を修正しています。

ところが、さらに記述されていない変更箇所があるという指摘が為されました。

他の記述の変更前後の比較:誤解を避けるため修正と言えなかったか?

文章比較のサービスで一覧比較のため文面を載せます。

左が変更後の28日の記事、右が変更前の会員向けメールでの内容です。

変更箇所1

変更前

鈴木准教授の目には「彼女はずっと闘っていて、ずっと怒っている」と映る。社会や行政が負うべき責任を、背負わされているようにも思える

変更後

鈴木准教授の目には「彼女はずっと闘っていて、ずっと怒っている」と映る。社会や行政が負うべき責任を、背負わされているようにも思えるという

変更前は「背負わされているようにも…」の部分が誰の主観なのか分からない文章で、鈴木准教授の感想部分とは文が読点で隔てられていることからは大槻記者の感想に過ぎないと理解できるものだったものが、指導教員の鈴木彩加准教授の発言・感情であることが明確化されています。

変更箇所2

変更前

鈴木准教授によると、被災した当事者の立場で研究すると、経験者でないと分からない視点が見つかる。一方、自己完結型の閉じた研究になりやすいという難点がある。

変更後

鈴木准教授によると、被災した当事者の立場での研究は、経験者でないと分からない視点が見つかる一方、自己完結型の閉じた研究になりやすいという難点がある。

変更前は鈴木准教授個人による当該研究手法に対する感想を述べている印象が強いが、変更後は研究上の一般論を指摘している印象が強くなる表現の変更となっています。

変更箇所3

変更前

受賞をきっかけに取材や講演依頼が相次いだ。高専の5年になったある日、先生に呼ばれた。除染土の再利用を進める大熊町の催しに参加してほしいとの依頼だった。

「大熊町の出身として、町の人が再利用に合意するようにがんばってほしい」。除染土の再利用は福島県内でも疑問の声が上がっていた。

変更後

受賞をきっかけに取材や講演依頼が相次いだ。高専の5年になったある日、先生に呼ばれた。除染土の再利用を進める大熊町の催しに参加してほしいとの依頼だった。

除染土の再利用は福島県内でも疑問の声が上がっていた。「大熊町の出身」として、再利用への合意が広がるように言われた。

「除染土の再利用は福島県内でも疑問の声が上がっていた。」の挿入位置が入れ替わっています。変更前は先生(鈴木准教授)の発言の後に書かれているために、この段落だけ見てしまうと「除染土の再利用に疑問の声を挙げている主体」の一人として鈴木准教授が居るかのような印象を受ける文章になっています。

しかし、直前に除染土の再利用を進める大熊町の催しに参加してほしいとの依頼をしていた者なので、実際はそうではない。誤解を避ける内容修正と思われます。

また、かっこ内の鈴木准教授の発言とするものが無くなったのは、趣旨としてそういう意味の発言があった、とするに留めたということと思われます。

訂正箇所

訂正前

イベントは町内の復興住宅の花壇に、放射性物質をできるだけ取り除いた除染土を用い、花を植える催しだった。

訂正後

イベントは町内の復興住宅の花壇に花を植え、その後、除染土の再利用について説明の場が設けられた。

花壇に除染土は使われていないことから、事実誤認があったので訂正され、文章末尾にも記述された箇所です。

変更箇所4

変更前

「結局、地元が合意するという結論があって、それに自分たちが利用されていた。気持ち悪かった」

変更後

「結局、地元が合意するという結論があって、それに自分たちが利用されているようで気持ち悪かった」

5年前に高専5年生だった斎藤さんが、当時から現在までに何らかの「地元が合意するという結論があり、斉藤さんが利用されていた事実」を掴んだかのような文章から、「利用されているようで」という主観的な感想となる文章に変更されています。

さて、これらの変更は重要な事実関係に誤りがあったという類のものではないですが、読者の側の認識として細かい事実認識に誤りが生じ得るものが対象になっていたと言えます。「その他、誤解を避けるための修正を加えています」くらいは書けなかったのでしょうか?

指摘を受けて記事配信から1週間後に記事の根幹部分を訂正、捏造の疑惑はあるのか?

改めて変更までの時系列を見ると、4月21日にメール記事が配信され、23日には渡辺康平議員が事実関係の誤りを指摘してから5日後の28日にメール配信で21日配信記事の訂正部分を示し、5月4日に林氏が質問状を送付して5日後の9日夜に訂正版の記事をUP、林氏への回答はなぜか翌10日の夕方、という経緯になっています。

「アナザーノート」のメール配信は週一回ということですが、これだけ内容に誤りがあったなら緊急に訂正箇所を知らせるメール配信をするくらいできなかったのか?

変更内容の性質についても、「除染土がイベントで使用されているために、結局は地元が合意するという結論があって、学生が利用された」という当初記事のストーリーの根幹部分が覆ったことになります。

つい先日、読売新聞大阪本社の社会部主任が紅麴問題に関する企業社長の談話を「自分のイメージと違った」として勝手に書き加え、取材記者も企業社長が言っていない内容と知りながら修正・削除を求めなかったという捏造事件があり、当人らや監督する立場の者が処分されていました。

参考:読売新聞大阪本社、記者を諭旨退職…談話捏造 編集局長ら更迭 : 読売新聞魚拓

さて、今回の朝日新聞の大槻記者の記事、なぜこのようなことになったのでしょう?

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「除染土」とは「除去土壌」とも呼ばれ、「除染作業によって取り除いた土」を意味します。仮置き場や除染現場で一時的に保管した後は中間貯蔵施設に運ばれ、それ以外は処分されます。

現時点では中間貯蔵施設に運ばれた除去土壌は、再生利用の実証実験以外では使われていません。*1*2

当該イベントは高専生と大熊町民が交流して復興住宅の花畑で花の手入れなどをし、その後除染土壌に関する勉強会をする「大熊町・花舞台」という名称も付いています。*3*4*5

このイベントは令和2年度から「除去土壌の再生利用に関する理解醸成事業」の取組の一環として行われてきたものですが、どうしてこの中でいきなり「除染土を用い、花を植える催し」という認識になってしまったのでしょうか?などの疑問は尽きません。

個人的な見解ですが、本件を「除去土壌を用いたとして不安を煽った」とは表現したくありません。除去土壌が安全であり、使えるというのであればそれで良いからです。現状の土壌の基準である8000Bq/kgは、作業者の被ばく線量管理に使われる空間放射線量の1mSv/年相当濃度を下回っており、まったく問題ないはずです。*6

しかし、「行政や除去土壌の利用の実証を試みる者たちへの不信感を煽った。そのために若者を利用した」と考えています。*7こうした細かい「仄めかし報道」の積み重ねによって現実が歪められるのは、もう見たくありません。


編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2024年5月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。